第45話 秋に桜は返り咲き(後編)
カチャ、とドアを開ける。お会計はもちろん俺で、財布からお札を出そうとする春海さんを必死に止めている。
「だからいいって先輩だし」
「いえいえ!お誘いしたのは私なのでせめて半分!」
「だめ」
ここは譲れない。先輩としての維持と小さなプライドだ。
「うぅ……ありがとうございます……この借りはいつか」
「それ悪役のセリフみたいだって」
2人でふふっと笑う。時刻は22時前。
普段外食する時は会社の近くか自分の最寄り駅の近くだからか、知らない景色にわくわくする。彼女を送り届けた後は歩いて帰ろうかな。
「春海さん、家まで送るよ」
「あ、ありがとうございます」
春海さんの家方面に歩き出す。先導する彼女の後ろ姿を見て、先程のことを思い出してしまった。ポニーテールとワンピースの裾が踊っている。
あれ、こんなに歩くの遅かったっけ。
駅前の街灯はどんどんその数を減らしていく。今週は暖かったとはいえ秋の夜、風は冷たくなっていた。
「鹿見さん」
「ん?どうしたの」
「私酔ってるみたいで」
そういうと速度を落として俺の隣に並ぶ。
「また転けるかもしれないので」
直後、ふわっとあの香りが。腕こそ取らないものの、彼女との距離はほとんどゼロだった。右隣からほんのりと体温を感じる。
「少しだけ、寄り道してもいいですか?」
俺も酔った日は沢山歩いてから帰りたくなる。
「いいよ、歩こうか」
ほんとならここ真っ直ぐなんですけど、とはにかみながら彼女は右に曲がる。
連れてこられたのは小さな公園。木曜日の夜だからか他に人は見当たらない。
ととっと小高い丘に彼女は登っていく。
「ここ、引越してきた時に見つけたんですけど、お気に入りの場所なんです。」
「街の遠くまで見えるね」
「そうなんです。駅まで見えますし、星も綺麗で」
駅から少し離れているからかこの辺りは比較的暗い。それも相まって駅方面の照明がキラキラと輝いている。
空を見上げると満天とは言わないまでも瞬く星が目に映る。もうそろそろ出番だと東側の空にオリオン座が見えた。
「ここ、見てください!鹿見さん!」
丘の中心に進む春海さんを追いかけると、そこには目を見張る光景が広がっていた。
木の近くに立ち、こちらを振り向く彼女の周りに桜吹雪が舞っていたのだ。まるで一枚の絵画のような瞬間から目が離せない。
「狂い咲きですよこれ!ここ最近暖かかったですもんね〜」
「これまたすごいな…」
秋を春と勘違いしたのか、白と赤を薄めた色した花びらが今が盛りとばかりに吹きすさぶ。
えへへと笑いながら春海さんがこちらへ戻ってくる。
「ねぇ先輩?」
「ん?」
ささやくような声も、夜の静寂では耳朶を打つ。
「今はまだ勇気がないんですけど」
静かに彼女の話に耳を傾ける。ほんの空白、ヒールの音だけが響く。
「いつか、いつか私のこともちゃんも見てくださいね」
応える間も無く、彼女は丘を降りていく。先程よりも足取りが軽い彼女は、跳ねるようにこちらを向くと口を開く。
「今日はありがとうございました。ここからは自分で帰ります!あ、それと…」
いたずらっぽい表情を浮かべて、でもそれがどこか大人っぽくて、
「秋津さんにお伝えください!狐のお面、お似合いでしたよって」
◎◎◎
こんにちは、七転です。
後輩キャラ、好きですよね?(圧)
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