第37話

 無事スタートアップ飲み会も締まり、座敷の忘れ物チェックまで完了したところで店を出る。

 あれ以降席に戻っても夏芽とプライベートな話をすることはなかった。


「それでは本日はここまでとさせていただきます。」


 お偉い様の一声でぞろぞろと駅に向かうサラリーマンたち。

 お疲れ様〜幹事ありがとう〜、と同期や先輩は俺に声をかけたり肩を叩いたりしながら帰っていく。楽しそうにフラフラと歩く大人たちを後ろからゆっくり追いかけていると、幹事やるのも悪くないなんて思ってしまう。


 途中話に混ぜてもらった相手方の企業の方からも声をかけられ、一緒に駅へと向かっていく。


 さてここの最寄り駅は俺がいつも使っている沿線じゃないから違う駅まで歩くか、と酒の回った頭で考える。


「じゃあ私はここで」


 周りに軽く挨拶すると皆とは違う方向へと歩く。最後夏芽と目が合ったが黙礼を返された。口の動きだけで「またね」と伝えてくる。


 そういえば飲み会中にスマホが鳴っていたな。チャットを開くとやはり秋津からメッセージが届いていた。


『飲み会いつ終わるの〜』


『ねぇ遅い〜』


 これ前にもあったな、俺の家で待ってるパターンか。


『今終わった、最寄りつくのは後30分後くらいになりそう。そして自分の部屋に帰れ』


 すぐに既読がつく。


『なんで私が家にいるってわかるの!もしかして監視カメラとかつけてる?』


『変な妄想すな。なんとなくだ』


『優しい私はお風呂にまだ入ってないので、最寄り駅まで鹿見くんを迎えに行ってあげます』


『なんでだよ、というか風呂は自分の家で入れよ』


『いーやーだー( ・᷄д・᷅ )』


 見たことない顔文字に思わず笑ってしまう。ここが電車であることを忘れそうだ。



 最寄り駅に着き改札を抜けると、そわそわと辺りを見渡す秋津が出迎えてくれる。夏らしいワンピースに薄手のカーディガンを羽織った彼女は、お嬢様のようだった。


「迎えに!来たよ!」


「ありがとう、というかなんで」


「浮気チェックだけど?」


「浮気も何もないだろ、彼女もいなけりゃ浮気相手もいないし」


「でも元カノと飲んでたんでしょ」


「語弊がある……会社の飲み会だし人たくさんいたって」


「でもでも〜」


 ジャケットの裾を摘んだまま秋津は歩き始める。ふわっと花のような香りがする。


「なんか私のじゃない匂いする」


 すんすんとジャケットに鼻を近づけると秋津が責めるようにこちらを見る、猫かよ。あ、夏芽の煙草の煙を正面から浴びたからか。


「そりゃお前の匂いがついてる方が問題だろ」


「私はいいのよ、一緒に暮らしてるようなもんだし」


「それがおかしいって言ってんだよ…」


 不意に掴んでいた裾を離すと歩きながら彼女はこちらヘ向きなおった。

 白くて長い指が首元に近付いてくる。


「ネクタイ、暑いでしょ」


 丁寧に結び目がほどかれていく。間違いなくネクタイを自分でほどいた回数より締めた回数の方が多い、それが幸せかどうかは置いといて。

 彼女の指が首に当たるが、不思議と微塵も嫌な感じがしない。


 されるがまま時間にして1分もないくらい。仕事終わりとは思えないほどに、まるで今さっきメイクしたかのように彩られた顔が見える。


 俺たちは再び歩き始める。雨は降っていないはずなのに肩は指2本分も離れていなかった。



◎◎◎

こんにちは、七転です。

実はさっきTwitter開設しました(アカウント作るのに手間取って今日の更新遅れたとか言えない)

とはいっても出勤退勤残業報告やしょうもない話しかしませんが……。

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@nana7_ten10

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