第33話 お礼はビーフシチューで(前編)
今は土曜日の昼下がり、社畜たちが唯一心穏やかに過ごせる時間帯である。。金曜夜は1週間の疲れが溜まって遊びに行けたもんじゃないし、日曜日は次の日からの仕事を思うと心が休まらない。
さて、俺は今スーパーの生鮮食品で目をかっぴらいて肉を選んでいる。今日の晩ご飯はビーフシチューにするつもりだ。
仕事を休んでまで看病してくれた秋津にお礼をしなければ。
ということで、夜うちでご飯を食べませんかと誘ってある。仕事中にそのチャットを送ったところ、遂にデレた!などと意味のわからん騒ぎ方していたが…。
書類を提出するフリをして事務課まで様子を見に来た時は流石に笑ってしまった。
野菜やワイン等のお酒をカゴに入れると、お会計。最近はセルフレジも増えたから助かるな。さくさくとレジに食材たちを通していく。
ーーー
今日はビーフシチューを作るつもりだ。ちょっと贅沢したい時、なんとなく洋食が思い浮かぶのは何故だろう。
秋津が来るまであと数時間、おそらく伝えていた時間よりも早くくるだろう。あまり時間が無いな、さっさと作らねば。
早速キッチンに立つとエプロンを着けて腕をまくる。
取り出したのは野菜たち。たまねぎ、にんじん、そしてセロリである。普段の料理でセロリは使わないんだが、今日はちゃんと作ろう。自分のためじゃないし。
それぞれ1口大程にカットする。同じくらいにしないと火の通りにばらつきがでるって昔のえらい人が言ってたはずだ。
一旦ボウルに切った野菜たちを入れると次に手に取ったのは牛肉である。そう、薄給事務員のくせに牛のランプを買ったのである。普段は質素でもいいがこういう時はパーッと贅沢したい。
肉を少し大きめにカットすると、塩とこれでもかというほど胡椒をかける。下味をしっかりつけないと他に負けてしまう。
取り出したるは我が家の愛すべきフライパン。鉄フライパンとかおしゃれなものはない。あんなん残業戦士には使いこなせない。フライパンの手入れしている暇があれば睡眠時間を確保したいのだ。
テフロン加工された相棒にサラダ油を引くと、切った肉の表面を焼き固めていく。
いい具合に焼けたら一旦取りだし、今度は赤ワインを入れていく。これは後で使うので今は置いておこう。
フライパンの出番はとりあえずここまで、今度は鍋でたまねぎとにんにくを炒めていく。あぁにんにくの焼ける匂いだけでもう酒が飲みたい。
「お、ようやく起きたか」
スマホの通知を見て口を緩める。秋津もやはり激務である。土曜日の朝は眠りこけているのだ。まぁ大方昨日は夜更かししたんだろうが。
さて、今はシチューを作ることに集中しよう。
先程の鍋に残りの野菜を入れて炒めていく。いい具合に色付いたら今度はトマトジュースとワインを入れて蓋をする。普段から洋食を作っていればチューブのトマトペーストも常備しているんだろうが、和食派な俺の冷蔵庫には残念ながらその姿は見当たらない。
弱火と中火の中間くらいでコトコト煮込む。ここからが長いんだよなぁ。
秋津にチャットを返す。そういえば旅行行くって話あったな、どこにしようか。
この空き時間で先程つかったフライパンを洗っておく。一人暮らしのキッチンはもので溢れかえっているため、都度片付けないと料理する場所がないのだ。
『おはよう、晩はビーフシチューな』
『わーい!うれし!付け合せ作ってくわね』
『助かる。でも今日はゆっくりしててくれよ』
『言われなくても〜今から二度寝に入る』
『まだ寝るのか…』
既読もつかないところを見ると本当に寝たんだろう。
いい具合になったらデミグラスソースと、お湯に顆粒コンソメを溶かした即席ブイヨンを投入する。部屋にコンソメの匂いがぶわっと広がる。
やばい、換気扇だけじゃ匂いを外に逃がしきれない…!
急いで小窓を開けて外へビーフシチューの匂いを自慢するとしよう。
次に肉と乾燥タイムを鍋に入れる。ローリエとかもあればよかったんだろうが、そんなものは一人暮らし社畜の家には無い。タイムがあったのが奇跡なんだから。
ようやくビーフシチューらしくなってきた鍋を見て満足、キッチンに椅子を持ってきて腰を下ろす。
煮込み料理を作る時はこの時間が好きだったりする。静かに揺れる火とコポコポと泡立つ音に心が安らぐ。
どれくらい時間が経っただろう、どろどろになった鍋の中から野菜をお玉ですくい上げる。うん、もういいだろう。
火を止め、彼女が来るのを待つ。
椅子をリビングに戻すとタブレットを立ち上げ、どこに旅行へ行こうかと思案するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます