第32話 モーニングはもちろんトーストで
本日は金曜日。
世の社畜たちが1週間で最後に踏ん張る日である。俺としては、もう金曜だしこの仕事来週でいいんじゃない?と思うこともしばしばあるが、そんなことをしようもんなら来週の俺からタコ殴りにされること間違いなしだ。
そんな金曜日、いつもより30分も早く起きられたのでモーニングを食べに行こうと思う。普段ならば30分うだうだと布団で過ごすが、今日の俺はひと味違う。
というのも、先日顔合わせしたプロジェクトが本格的に始まるのだ。実際、俺は社内の日程調整やら場所取りやら法務関係の書類を作成したりやらで表に出ることはないが、通常業務に加えての仕事のため時間と体力の割り振りが難しくなる。
秋には自分が主担当となって行うイベントもあるしな。
そんなこんなで革靴を履き、家を出る。
いつもより少し早い通勤路は当然だが異なる様相を呈している。時間に余裕があるってこんなに素晴らしいものか。早足で歩く人々を眺めながらゆっくり歩を進める。
朝の空気がいつもより爽やかな気さえする。
カランッと扉に取り付けられたベルを鳴らしながらお店に入る。
ここは駅から少しだけ距離のある喫茶店。レジ横を抜ければすぐにパンの焼ける匂いとコーヒー豆を挽く音が聞こえてくる。
「こちらへどうぞ〜」
案内されるや否やモーニングセットを注文する。周りにも同じくスーツを着た企業の戦士たちが英気を養っている。多分に漏れず、俺もスマホで新聞アプリを開いた。
着席して5分、すぐに料理が運ばれてくる。
目の前に置かれた大人の朝ごはんセットは輝いて見えた。
コーヒーはもちろんのこと、半分に切られた分厚いトーストに小皿に盛られたバター、プチトマトとレタスのサラダ、そして黒胡椒がしっかりかかったスクランブルエッグにベーコン。
100点満点だ。
小さくいただきます、と口にすると手始めにトーストから手をつける。焦げこそないものの、こんがりと焼かれた熱々のトーストは幸せの味がする。サクっとした歯ごたえに次いでバターのコクが口を支配する。
こってりとしたものの後は爽やかさが欲しいとプチトマトに手を伸ばす。口の中で弾けるそれは程よい甘みと酸味の爆弾だった。
頬を緩めながら朝ごはんを食べ進めていく。
メインのスクランブルエッグとベーコンは言わずもがな、もうこれが晩ご飯だと言われても納得できるほどの満足感だ。
朝さえ起きられるなら毎日通いたいくらいである。まぁ起きるのが難しいんだが。
周りのおじ様方もこのモーニングの虜なのか優しげな顔をして口を動かしている。朝の忙しい時間のはずが、この喫茶店だけ世界から取り残されているみたいだ。
食後のコーヒーを流し込む。苦味と熱さで目が覚める。皆ここでやる気と栄養を補給して戦場に向かうんだな。
会計を済ますと、また来ようと誓って俺は再びドアのベルを鳴らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます