第28話 邂逅
こちら鹿見、現場はお祭り騒ぎです、オーバー。
という茶番は置いといて、ここは例の会議室だ。
結局コンペは加古の案が通った。聞くところによると幹部たちもほぼ満場一致だったらしい、さすが営業トップ双璧の1人。
加古の案のレベルだけで言えば恐らく他にも同レベルのものがあったが、プレゼンの仕方がずば抜けている。引き込まれるというか、あぁこんな未来なら有り得るんだなと納得させる強さがあった。営業、やっぱり俺には無理だ。
そんなこんなで加古の案で手を組むことになった会社とご挨拶ってわけだ。おかしい、なんで裏方の俺がここに呼ばれているんだ。
本来実働部隊として前線で働く人間だけ集められるはずが、一部の幹部と加古、そして悪ノリした相澤さんに祭り上げられて表舞台に引きずり出されてしまった。
じゃあ一体誰がいつもの事務処理するんだよ!小峰さんに合掌!!
時刻は10時25分、弊社会議室にて顔合わせ。先方も数人で連れ立って対面に座っている。俺は極力目立たないように挨拶の次第を書いた紙に目を落とす。まぁ作ったの俺だが。
「本日はお越しいただきありがとうございます。定刻になりましたので始めてまいります。」
代表および幹部の挨拶が進んでいく。呼ばれたとはいえ俺は裏方、後ろでひっそりしていよう。
先方の紹介も滞りない。というか俺が話す人なんてほとんどいないんじゃないか。
今回フルオーダーでオフィスの椅子とか机とか作るわけだが、デザイナーも来てるのかよ。おいおい気合い半端ないな。成功してくれマジで。
「末尾にはなりますが、今回ロジ等調整、事務を担当する者を紹介します。鹿見です。」
俺もかよ、顔合わせだけだしいいか。
「鹿見と申します。今回裏方としてではありますが、皆様とご一緒できて嬉しい限りです。ご不便等ございましたらお申し付けください。」
「へっ……?」
奥の方から思わずといった声が上がる。先方のお偉いさんが眉を下げながら口を開く。
「失礼しました。こちらも紹介させてください。」
先方の奥で立ち上がった人物を見て俺は息が詰まった。ほんと、秋津じゃないがつくづくタイミングってのは予想外だな。
「初めまして、今回弊社の裏方として動きます夏芽と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
そうか、だから相手の会社の名前を聞いたことがあったのか。彼女を目にするのは何年ぶりだろう。
その距離数メートル、俺の前で微笑んでいたのは学生時代の元恋人、夏芽あいだった。
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