第22話

 やってきましたコンペ当日。季節は初夏に差し掛かり、ジャケットを着るのも苦しくなってきた


 さて、俺は例の会議室に座っていた。

 以前は営業課の面々がぞろぞろと座っていたが、今日は趣きが異なる。


 部屋を横長にレイアウト、俺たち審査員の机と向かい合うように白のスクリーンが貼られている。そう、コンペの立候補者達がこれからプレゼンを行うのである。


 俺たちの前にはこの会社の重鎮たちが座っている。一代で会社をここまで大きくして軌道に乗せたんだ。一筋縄でいくわけがない。

 ここの面々に比べれば、俺はかわいいチワワみたいなもんだ。


 結局立候補したのは10組、各々グループを組んだりしている。

 俺が相談に乗った加古は1人で参加するらしい。事前に聞いた感じだとかなり推せるんだけどなぁ。


「相澤さん、既に知ってる案あります?」


 隣に座る課長に小声で話しかける。


「何組かはね。私に相談に来たのよ。まぁでもめぼしいものはほとんど無かったわ。鹿見君は誰かの知ってる?」


「僕は加古の分ですね。相談受けたので」


「感触としてはどう?」


「かなり推してます。もちろん他の方のプレゼンを見てから決めますが」


 午前10時30分、プレゼンが開始する。


 スライド、動画、なんでもありのプレゼンはやはり目を引く。

 こんなことほんとにできるのか、与える影響はどれほどのものか、他の案件と並行で進められるのか、どれだけ予算確保できるのか、会社ととして実現可能性に焦点を当てると、やはりぱっとしないものもある。


 やはり大切なのは何を目指すかである。居心地の良さなのか、コミュニケーションの取りやすさなのか、1人で集中できる空間なのか…。



ーーー


 時刻は15時、ようやく全てのプレゼンが終わる。1組持ち時間は15分とはいえ、10組も見れば相当疲れる。

 眉間をぐーっと押しながら眼を労る。

 さて、俺たち一般審査員の仕事はここからである。幹部はもう既にどの案がいいのかいくつか絞っているだろうが、そこに実務を行う俺たちの総評を加味して考えるとのこと。


 実際、そこを加味してくれるのはありがたい。どこまで理想を形にできるかは裏方のキャパで決まる。


 つまり、10組分の総評を事務課として幹部に提出しなければならない。善は急げというわけではないが、覚えているうちにまとめてしまいたい。


 俺は配られた資料をバインダーにしまうと、タブレットをスリープにして会議室を後にする。

 恐らく通常業務の処理が大量に残っているはずだ。あぁ今日は、というか今日も残業確定か。


 エレベーターホールで事務部屋の階を押す。途中知り合いにすれ違ったがうわの空で返事してしまった。

 うーん、加古の案が推せるが他にもいいのあったな…… 。


 事務課の人間として1人の社員として、どの案なら通せるのか考えながら俺は事務課の扉をくぐった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る