第19話 お昼休みは宝箱で
伸びをしながら会議室を出る。3時間以上の会議は身体に毒である。
踊ってばかりで進まない会議ほど無益なものはない。
「鹿見くん、ちょっといいかしら」
「鹿見、ちょっといいか?」
外行きモードの秋津と、珍しく営業一課の加古が話しかけてくる。こいつは俗に言うイケメン、しかも性格がいいタイプのイケメンだ。
とまぁ僻んだように言ってみるものの、こいつも俺と秋津の同期であり、そして秋津とトップ争いをしている1人である。
最近確保された大手ショッピングモールの家具販路なんかはこいつのおかげだ。
「お、久しぶりだな加古」
「私のは大した用事じゃないから後でチャットするわ」
「申し訳ない秋津さん」
ひらひらと手を振りエレベーターホールに消えていく秋津。本当に大した用事じゃないだろ、どうせパスタの話なんだから。
「悪いことしたな、実は折り入って相談があって」
「本当に珍しいな。お前いつも事務課の期限も守るしなんでも聞くぞ」
「判断基準そこなのかよ…営業課ほぼ全滅じゃねぇか。」
「おう、ほぼ壊滅だな。伝えといてくれ、相澤さんが言ってたって」
「ひええ、こえぇ」
「それで相談ってのは?あんまし大声で言えないやつか?」
「まぁ別にいいんだが…久しぶりに飲みにでも行かないか」
加古が頭を書きながら眉を下げる。こいつ何してもイケメンだな。
「週末は埋まってしまったから来週頭とかどうだ?」
加古も後30分早く誘ってくれれば空いてたのに。
「よし、じゃあ週明けで悪いが月曜の夜にしよう」
トントン拍子で飲みの予定が形成されていく。二、三店の候補や時間なんかを決めると彼もエレベーターホールへ消えていった。
そういや他人の昼ごはんも気になるな…今度書類の催促するついでに営業課のお昼ご飯も視察しよう。
会議室の片付けを手伝うと、俺も自分の巣こと事務部屋に向かった。
ーーー
事務課では後輩の鈴谷君と春海さんがお昼をとっているところだった。
「俺もおじゃましていい?」
「「ぜひ!一緒に食べましょう!」」
なんでこんなにシンクロするんだ。
鞄から弁当箱を取り出すと、俺も席についた。
お弁当箱は宝箱、誰が言ったのだろうか。本当にそうだと思う。子供の頃に遠足に行った先で開ける弁当箱のワクワク感といったらそりゃあもう。
シックな飾り気のない弁当を開く。カラフルなおかず達が顔をのぞかせると嬉しくなる。
自分で作ったとはいえ、冷凍食品がたくさん入っているとはいえ、やはりテンションがあがる。
どれから食べようか。やっぱり肉々しい甘辛ミートボールだろうか。今朝焼き上げた少し失敗した玉子焼きだろうか。はたまた彩りに一役買っているプチトマトだろうか。
ここは冷凍のチーズハンバーグを一口。うーん、美味い。現代の技術に完敗だ。
焼きたての肉汁こそ出ないものの、噛めば噛むほど肉の旨みが口を支配する。
付け合せのブロッコリーも、汁を吸って準備万端だ。
味の濃い宝石たちで食べる白米も格別。しかも今日はなんと秘密兵器ことふりかけを持ってきている。
さらさらと白い海に降り注ぐカラフルな雨は、弁当の格を上げる。
1人でもぐもぐと満喫していると、後輩たちが物欲しそうに見ている。
「お、鈴谷君。何が欲しい?」
「えっ…!いいんですか!先輩の貴重なお昼ご飯なのに」
「おうとも。弁当はやっぱ交換しないとな〜」
「じゃ、じゃあ僕はそのナポリタンを少しだけいただいていいですか……!僕のからあげサンと交換しましょう!」
「そんなメイン級貰っちゃっていいの?」
「全然足りないくらいです!ありがとうございます!」
鈴谷君も美味しそうに食べるな…。うちの食欲モンスターには勝てんが。そういやあいつ、最近昼はどうしてるんだろうか。
「鹿見さん、私もいいですか?」
「春海さんもか、どれにするよ」
「先輩が作られたのはどれですか?」
「うーん、失敗しちゃったけど玉子焼きかな」
「ではそれを!……これが鹿見さん家の味…!」
「んな大袈裟な」
切り分けた玉子焼きを差し出す。春海さんはそれを更に小さくすると、丁寧に口へ運んでいく。
どこぞの令嬢かと思う所作だと、俺の玉子焼きが場違いに見えるな。
まぁにこにこと美味しそうに食べてくれたら作り甲斐があるってもんよ。
社内チャットの通知がPCの右下に映る。
『今良くない気配を感じたわ。被告鹿見くん、弁解の準備をしときなさい』
無視するのが吉だが後が怖いし返信しとくか。
『何も無いから弁解も無いな』
『うーん、たしかに今私の浮気センサーが反応したんだけどな』
『浮気もなにもないわ。仕事しろ』
『(了・ω・解)』
昼休みは過ぎていく。忙しさの中にあっても、この時間だけは死守しないとな。
これから夜にかけての業務量を思い起こしてげんなりしながら、俺は弁当箱を閉じた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
なんとですね、文字ありのレビューをいただいてしまいました……!びっくりしすぎて気付いた時会社でスマホを落としそうになりました。カクヨム初心者過ぎて、どうすればこの嬉しさと感謝を伝えられるかと思い、とりあえず本文末尾にて謝意をと……!
本当にありがとうございます。拙い文ではありますが、細々と続けてまいります。
通勤や通学、休み時間や寝る前のほんのひと時をいただけますと幸いです。
読んでくださる皆さんがあっての作品です。
これからもよろしくお願いいたします。
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