第18話
さて6月初旬の火曜日。俺は会議室で目をかっぴらいて手元のタブレットを見ていた。俺の目の前には営業1課と2課の面々が勢揃いしていた。
先日の2大案件が無事受注になったものの、社内で同時に規模の大きい2案件進める準備ができているかと言えば、そんなわけが無い。
来年本格的に始まるこの案件、1つはアート系のイベントにおける空間演出、もう1つは某大手企業が自社オフィスとしてビルを建てる際のオフィスコーディネートである。
ただしアートイベントとオフィスコーディネート、着手時期に差があるのが幸いか。というか同時期だったら事務課の人間が今の倍はいるところだ。
「というわけで、配布した資料にも記載しているが1ヶ月後に営業課全体で社内コンペを行う。」
営業1課の課長の言葉が響く。ざわざわとした会議室は水を打ったように静まった。
そう、オフィスコーディネートの案件については、まだ詳細まで決まっていない。トップダウンで幹部級が決めるかと思えば、まさかの社内コンペ。
チームを組んで提案するもよし、1人で企画書を書き上げて提案するもよし、予算内であれば知人友人を外部協力として起用するもよし、なんでもありとのこと。
これ、1ヶ月ってのがミソだよなぁ〜。できることが知れてる。
さてなぜ俺がこんなにも他人事かというと、もちろん他人事だからだ。
社内コンペは営業課内で行われる。そして審査するのは営業課の課長、各課から推薦された職員、そして幹部である。
事務課からはなぜか相澤課長と俺が参加である。なぜ小峰さんではないのかと聞いたところ、「そろそろあなたも実績作りなさい」とのお達しだった。やらねば。
その話をしていた時、相澤さんの後ろでガッツポーズをしていた小峰さんさえ目に入らなければ、もっとやる気にもなったんだが。
営業課長の話は進んでいく。公には言わないが、もちろんボーナス査定の基準項目にもなるとのこと。
お金はもちろん大切だが、社運をかけたプロジェクトである。関わりたい人は多いだろうな。
俺たち事務、それと経理の面々としては仕事量が倍増どころの話ではないため、目を見合せて小さくため息をつく。やはり経理とは仲良くやれそうだ。
今回、秋津はコンペに不参加が確定している。結局あいつはもう1つのアートイベントの案件を取ってきたからか、そちらへの参加が確定しているとのこと。
社内チャットでメッセージが飛んでくる。
『ひま〜〜私別の仕事したい〜〜どうせコンペでないし』
あいつ、1番後ろに座って何やら仕事してるかと思いきや暇なのかよ。
『みんなやる気なんだから水差すな、静かにしとけ』
窘めるよう返信する。というか俺も審査側だから話を聞かせてくれ。後で共有はされるだろうが。
『(ひ・ω・ま)』
『遊ぶな』
『あ、今週末この前行ったパスタ屋さん、夜に行かない?夜のメニューもよさげだったし』
『わかった、予約取っとく。誰か他誘うか?』
『んーん、もちろん2人で。』
『りょ』
ギラギラした営業課の空気に辟易としながらも会議は進んでいく。
時刻は11時20分、そろそろお腹も空いてきた。今日は自席で食べることにしている。
というのも珍しく弁当を作ってきたのだ。というか昨日の残りを詰めてきた。
今日はこの会議終わり次第やっとお昼にありつけるか、なんて考えながら再び資料に目を落とした。
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