第17話 春宵

 また少し気温が上がった街を歩く。最寄り駅までは全員一緒だったが、改札を出て解散した。


 井波夫妻と瀬野はそのまま帰宅、西崎と大槻さんは二次会へ、そして俺はこの泥酔モンスターを家まで送り届けるというわけだ。


 こいついつも酒に酔ってないか?

 高校時代よく通った道を歩く。あ、あの店無くなって違う店になってるじゃん。

 

 秋津のペースに合わせてゆっくり歩く。電車に乗ると酔いが醒めたな。公共スペースに出るとちゃんとしないと、と思ってしまうのは社会の奴隷の性か。


「秋津、歩けるか。水もあるぞ。」


「あるける……やだ、ひよりって呼んでよ。今日はさ」


「はいはい」


 フラフラだが何が楽しいのかにっこりしている秋津を支える。


「有くんは私の家まで来るのー?えっち」


「うるさいお守りだお守り。こんなんじゃ1人で帰れないだろ。タクシー呼ぶか?」


「んーん、そんなに遠くないし。お父さんとお母さんに挨拶してく?結婚の」


 歩道橋を渡る。こいつはまた寝ぼけてんのか。


「夢でも見てんのか。結婚はしないが、挨拶はしていく。会うの久しぶりだしな」


「えへへ、泊まってってもいいんだよ」


「泊まらんわ。というかお前あっちで既に俺たちと飲むこと知ってたな?」


「なんのことかわかんないにゃ〜」


 鳴らない口笛をひゅーひゅーしながらそっぽを向く。


「鹿見くん、あっ、有くん。この前後輩といちゃいちゃしてた罰なんだけど」


「おい待てお前もう酔い醒めてるだろ!自分で歩け!というか罰ってなんだ。罪を犯してすらいないんだが」


「細かいことは置いといて〜」


 なおもこいつは俺の腕を離さない。ぬるい風が頬を撫でる。


「夏にお休み合わせて旅行いかない?」


「それは罰じゃなくてご褒美だろ」


「えっ……?ん゛ん…!まぁ有くんがそう言うならそれでもいいけど…」


 どんどん声が小さくなっていく秋津を引っ張り角を曲がる。


「ほら家着いたぞ、ひより。今日も美味しくて楽しかったな」


 腕にしがみついた手を丁寧にはがしていく。秋津家のインターホンを押す直前、こいつの顔にかかった髪を耳にかけ、少しだけ目線を合わせる。


「あっ、、」


 ピンポーン、と昔よく聞いていた音が鳴る。


 ガチャリ、と開いたドアからは人の良さそうな秋津パパが顔をのぞかせる。

 二、三と言葉を交わすとおやすみの挨拶をして秋津家をあとにした。

 ごめんな秋津、今はこれが限界だわ。


 首あたりの血管から響く心臓のリズムは早い。熱くなった頬を撫でる風は、さっきより冷たい。


 少しゆっくり帰るか。

 赤い顔を冷ますよう、実家への道を進んでいく。心なしか歩く速度は、あいつと同じくらいな気がした。


◎◎◎


はじめまして、七転と申します。

残業モンスターたちがご飯を食べるだけのお話をご覧いただいて、本当にありがとうございます。

話のキリがいいのでご挨拶をばと。

思いつきで仕事の帰り道にこそこそ書いてたものが、こんなに沢山の人に見ていただけるとは思っていませんでした……恐悦至極です。

コメントも☆も♡も大変励みになります。残業で時間が無いため中々お返事できませんが、全て読ませていただいてます。

実は今月私の実生活が残業祭りなため、毎日更新が厳しいかもしれません…できるとこまでは頑張ろうと思います。すぐに折れても許してね。(そのうちTwitterでも開設しようかなとかなんとか…。)


最後に…月残業250時間を超えた人間は強くなる、ということだけ申し伝えておきますね。

休日出勤中のオフィスより愛をこめて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る