第16話
秋津の後ろからゆっくりと2人歩いてくるのが見える。
「久しぶり、大槻さんと…あ、今はもう井波さんか。」
秋津のことは置いといて、2人に挨拶する。
「久しぶり、鹿見君。元気してた?前結婚式であった時よりげっそりしてない?」
「してるよな!俺も思った」
井波夫妻に煽られる。覚えとけよお前ら。
今回合流してきたのは井波さん、大槻さん、そして秋津の3人である。秋津を含めるのは癪だが3人とも目を引く美人である。
話を聞くところによると、3人は昼過ぎから一緒に遊んでいるらしい。井波から飲みの情報を聞きつけた奥さんが秋津と大槻さんを誘ったとのこと。
確かに3人でよく一緒にいるのを見た気がする。
井波夫妻は隣に、大槻さんは俺と瀬野の間に、そして秋津は俺の前に座った。
席に着いたのを見計らったのか店員さんが注文をとりに来てくれる。
驚くことに3人ともビールとのこと。
「ちょっと暑かったしね」
クール系の大槻さんがにこやかに話し出す。最近はフリーランスのWebデザイナーとして働いているらしい。
「毎日在宅とかカフェで作業できるのはいいけど、人と話す機会は減ったわ。そういえば西崎君もWeb系だっけ」
「いや、どっちかと言うとハードにぶち込む方だな」
「そっちはそっちで大変そうね……チームでしょうし」
俺達には皆目見当もつかない会話が繰り広げられている…くそ、俺の会話デッキじゃ付け入る隙がない。
「瀬野、お前結婚式いつなんだよ」
「多分今年の冬だな。日付確定して呼べるようになったらまた連絡する」
そうか、冬か。残業ないといいが…。それもこれもうちの営業にかかってるな。
女性陣のビールと共に運ばれてきたのは、カツオのたたきだった。
乾杯や否や俺と秋津はカツオに箸を向ける。
ぱくっと1口、カツオの皮目が炙られて香ばしい匂いを発している。
魚の油が酒を促進する。何もつけなくても美味しいのに、自家製醤油なんて付けようものなから白米が欲しくなってしまう。
「お前ら、同じ顔して食べるよな。夫婦かよ。」
井波に指摘されて秋津と顔を見合わせる。
まぁあれだけ一緒にご飯を食べていたらこうもなるか。認めたくは無いが。
「有くん、私日本酒飲みたい。」
こいつ……。面の皮が厚すぎる。今日は高校同期の前だからか。会社では絶対そんなこと言わないくせに。
「わかった、他にも飲むやついるか?」
ちらほらと手が上がる。やっぱこのカツオ食べたらそうなるよな。
ーーー
運ばれてきたお猪口に日本酒を注ぎあい乾杯、ひと口をきゅっと飲み干す。
舌の上が痺れる辛さの後に旨味が喉を通り過ぎていく。すかさずカツオを摘む。
日本でとれた魚が日本酒と合わないわけが無いのだ。日本酒とカツオの藁焼き、これもう広義の寿司だろ。
ここまで日本酒を飲んでから2秒、頭の中で美味しさが駆け抜けていく。
……酔いが回ってきたのか、体がぽかぽかしてくる。
ここまで来てまだ枝豆とカツオしか食べてないのにこの満足感。歳とったな。
だがしかしメインとばかりにチキンの藁焼きとチキン南蛮が運ばれてくる。重いて。
だが腹は正直で、自然と手が伸びる。すると向かいからもう1つの箸がチキン南蛮を狙っているのが見える。
「おいひより、それは俺のだろ」
「私のですけど。有くんは藁焼き食べなよ」
「今は南蛮な気分なんだよ」
多少いざこざはありながらも話は学生時代へ。そういえばあの人はどうしてる、とか結婚したらしいとか。
久しぶりにあの頃に戻れた気がする。卒業から約10年、こうやって毎年集まって顔を見せてくれるのもありがたい話だ。ひよりがいたのは予想外だったが。
酔いも回りに回っていい時間、外に出ると西崎が煙草を吸っていた。
「楽しかったな」
横に並ぶと俺は話しかける。
「あぁ、昔みたいだ。なんと言っても井波を見てると結婚したくなる。あのカップルが結婚だなんてえらく時間も経ったもんだ」
「ほんとにな」
彼は口から煙を吐くと煙草を灰皿に押し込む。
「鹿見は相変わらず秋津さんと仲良かったな。それも昔を見てるみたいだった」
「そうか?いつも通りだけどな」
「俺はまだ飲めるし大槻でも誘って2件目行くかな、鹿見も来るか?」
「いや、今回はやめとくよ。荷物が増えたからな」
俺と西崎は入口を見る。酔ってにこにこフラフラとしているひよりがこちらへ向かってくる。
西崎は合点がいったと俺に手を振ると店から一緒に出てきた大槻さんに声をかけに行った。
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