第13話 言い訳はシュークリームの後で

 案の定玄関に揃えられたパンプスが目に入る。なぜ合鍵を渡してしまったんだ。

 学生時代よりもお金はあるはずなのに自由がない。


リビングに入るとクッションをむぎゅっと抱きしめた秋津が座っていた。


「被告、鹿見くん。何か弁解はありますか」


「なーにが被告だよ。意味のわからんチャットを送って来やがって」


 鞄をその辺に置くとジャケットを脱ぐ。ハンガーを手に取り服をかけていると、パジャマ姿の秋津がこちらへ近寄ってきた。


「待って、ネクタイは私が」


 そう言うと俺の首元に手を持ってくると丁寧な動作でネクタイを外す。

 淡く塗られたネイル、次いで細い腕、最後に顔が見える。やっぱり何回見てもいいんだよな。


「はい、できた!それでは裁判を始めます」


 ビシッと床に敷かれたクッションを指指す。ここに座れということなのか。

 正座になるのも癪なので胡座を組む。


「罪状はポニーテールのかわいい後輩とイチャついたことです!私というスーパー美人がいながらに!」


「全部違うわ。イチャついてないしお前とは付き合ってないだろ」


「む〜〜!そうだけど!やっぱり年下の黒髪で可愛い子がいいんでしょ!」


「春海さんがかわいいことは認めるけど、そんなんじゃないって」


「ほら!かわいいって!やっぱり後輩がいいんだ!!」


「そういうんじゃないって。酔って帰るの大変そうだから送ってっただけだって。相澤さんにも言われたし。」


 ここでお前のほうがかわいいと言える口は俺にはない。

 代わりと言ってはなんだが、コンビニの袋から先程買ったあれを献上する。


「わぁ新発売のシュークリームだ!」


 目をキラキラと輝かせた彼女は俺の手から光速でシュークリームをもぎ取る。

 おい、潰れるだろうが。


「私これ食べたかったのよね」


「んじゃ、そういうことで。俺はシャワー浴びて寝るからお前もそれ食べたら帰れよ」


「ちょっと待ちなさい、私へのお詫びを買ってきたってことは申し訳ないと思ってるってことよね」


「なんかよく分からんモンスターの怒りに触れたからお供え物を買ってきただけだ」


「だれがモンスターよ!まぁこのシュークリーム食べたかったし今回は許してあげるわ。ほら、一緒に食べましょ。半分こしたげるから」


「いや、俺自分の冷蔵庫に入れてきたからあるんよ」


「ほんっとかわいくないわねあんた…。」


ーーー


 きゅきゅっと音を響かせて風呂場から上がる。日中暖かくなったとはいえ夜はまだ冷えるな。

 リビングに戻ると秋津はソファでむにゃむにゃ言っていた。さっきは勢いで何も言わなかったけどこいつなんでパジャマなんだ。


 ほっぺたをつんつんしていると次第に目が開く。


「今日泊まってく…。」


 どうしてこいつは警戒心がないんだろうか。それを許す俺も俺だが。


「わかったわかった。明日も仕事だろ?ベッドで寝ろよ」


「うん、ありがと」


 眠気で少し幼くなったこいつはちょっとかわいい。普段のビシッとスーツで決めた姿を見ているがゆえ、そのギャップは大きい。


 こしこしと目をかきながら寝室へと向かう秋津を見送ると、俺もソファへと体を横たえる。

 さっきまであいつが寝ていたからか、その残滓が離れない。


 これは寝れねぇな…。長期戦を覚悟しながら、俺は目を閉じるのだった。

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