第12話 春の飲み会帰りはちょっと暑い
フラフラの春海さんをなんとか支えながら駅へ向かう。長いポニーテールが本物の尻尾みたいに揺れている。
「わたし〜鹿見先輩のこと尊敬してるんですよ〜」
彼女から出ているぽわぽわの雰囲気は収まらない。
「いつも私と鈴谷君のこと気にかけてくれますし、今日だってこうやって、っと、」
倒れそうになる彼女の腕を掴んで引き寄せる。一瞬顔が近くなり目が合う。綺麗なブラウンだ、なんて呑気なことを考えている暇はない。
すぐに身体を離すと道を先導する。
「鹿見先輩って彼女さんとかいるんですか〜?」
「いや、いないよ。」
「学生時代とかはいなかったんですか?」
「まぁ昔いたことはあるけど、当分はいいかな」
彼女か。今は食欲モンスターの世話があるしな。こういう話の時、あいつが頭に浮かんできてしまうのを認めたくない。
ポケットでスマホが震える。恐らく大型連休に一緒に飲む学生時代の友人だろう。店やメンツでも決まったか。
「ほら春海さん、そろそろ駅だしタクシー探すよ」
「えへへ、そうですね〜また飲みに行きましょうね〜」
「そうだね。また忙しくない時に行こう。」
「約束ですよ〜言質、とりましたから!」
そう言うと彼女の焦点が定まり始める。歩き方も心なしかしっかりしている。
時刻は21時、水曜日とはいえ駅前には人が多い。キャッチのお兄様方からの誘いを断りつつもタクシー停留所に足を進める。
「そういえば鹿見さんって私と家近いんですか?」
「いや、別に近くないけど方向は一緒らしい。さっき課長に聞いた」
「そうなんですね〜!今度遊びに行ってもいいですか?」
「あ〜〜……。」
「あれ、誰かと一緒に住んでらっしゃるんです?あ、ペットとか?」
「ん〜……まぁどっちも半分正解で半分ハズレかな。」
これ以上は何も答えられないな、と思っているところにちょうどタクシーが。
運転席に向かって会釈し、手を上げる。少し勢いよくドアが開く。
「ほら、春海さん。家の場所伝えといで」
ポニーテールな後輩を促す。行き先を告げた彼女は後部座席に戻ってきた。別に前に座ればいいのに。
タクシーは夜の街を進む。線路と並走するよりも1本中に入った方が早いのか、周りの明かりは少なくなっていく。
ーーー
隣を見るとすーっと寝息をたてて春海さんが寝ている。これ着いたら起こさなきゃか。
相澤さんに連絡しとくかとスマホを開くとメッセージが。
『帰ってきたら話があります。』
どことなく怒りを含んだメッセージを送ってきたのはご存知秋津である。なんかしたっけ?
そう考えているとポコンッとさらにメッセージが。
『やっぱり鹿見くんってポニテ好き?』
あぁこれ、どこかで春海さんと歩いているの見られたか…?なんだやっぱりって。
というかなんでこんな数駅離れた場所にいるんだよあいつ。
秋津からのメッセージを無視して相澤さんにチャットを送る。
『今日はありがとうございました。なんとか駅でタクシー拾って、今春海さんの家に向かっています。』
『お疲れ様、こっちはもう2人を送り届けたわ。それじゃあまた明日、おやすみなさい。』
スタンプを送ってスマホを閉じる。明日は朝申し訳なさそうな顔をした鈴谷君を見ることになるんだろうなぁ。
徐々にスピードを落としてタクシーが停車する。一応マンションの入口前まで送りまた明日、と挨拶をして再びタクシーに乗り込む。
行先は自分の住むマンションから1番近いコンビニで。と伝えて後部座席に座る。
恐らくここからだと15分もかからないだろう。仮眠をと俺は目を閉じた。
先程ドアを開けたせいか、車内には春の匂いが舞っていた。
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