第10話 ご褒美はいちごと相場は決まっている
目が覚めると外は暗かった。ソファで寝てしまったからか体の節々が痛い。あいつが寝る直前何か言ってた気がするが、あまり思い出せない。
ここからでも休日を満喫しようとスマホを手に取る。あぁそう言えば食器とか片付けとかなきゃな。
キッチンへ足を進めるとそこには綺麗に片付けられた食器たち。秋津のやつ、こういうところはほんとに律儀なんだから。
起き抜け一杯水が飲みたい。そう思って冷蔵庫を開けると見慣れぬ白い箱が。
取り出してみると、中にはいちごのショートケーキが入っていた。
スマホのチャットを確認する。
『お疲れ様、ほーんのお礼よ。美味しいのは保証するわ』
やはり、というかそれ以外考えられないが、彼女からだった。こういうところがモテて仕事ができる所以なんだろうな。
しかもよく見ると並ばないと買えない店のやつじゃねーか。
スマホに指を走らせてお礼を言っておく。やっぱり憎めないよな。
ダイニングテーブルについて丁寧にケーキを開封する。大粒のいちごが乗ったショートケーキは、部屋の中でも圧倒的な存在感を醸し出していた。
スマホがブーッと震える。秋津からメッセージが届いている。
『そういえば食器洗ってて思ったんだけど』
『2人分洗うの面倒だから食洗機買わない?』
ツッコミどころが多すぎる。これはもう同棲してる人間の会話なんよ。
そもそも2人分洗うのはあいつのせいだし、面倒だからと俺の家に食洗機を増設するのもおかしい。
だがここは返信に気をつけるべきだ。ここでサラッと「なら買ってくれよ」なんて言おうものなら、あいつがここに住むことを認めてしまうし、秋津の給料なら本当に買いかねない。なんなら明日の日曜日にでも。
『洗い物が面倒なのは肯定するが、食洗機は要らないな。1人分しか洗わないし。』
『ぶーー。2人分洗うことになるでしょ?これから。』
『断じてならん』
チャットを返しながらも手はフォークに伸びる。ふんわりとしたケーキの記事に厚塗りされたクリーム、甘さの暴力が味覚を襲う。
『あ、それはそうとあんた大型連休はどうするの?』
『高校の同期に飲み誘われたから実家帰るかな、最後2日はこっちに戻ってくる予定』
別に大型連休までこいつと会わなくていいだろう。どうせ会社でも会うんだし。
『りょーかい!』
なにがりょーかいなんだ……。あいつの予定聞くのも怖い。
気持ちを切り替えて大粒のいちごを頬張る。甘さの中にもほんの少しの酸味、いいいちごだ。ゆっくりと噛み締めて堪能する。
せっかくだからと豆を挽いて入れたコーヒーを口にする。甘さと苦さがお互いを引き立てる。この良さを知ってしまうと、どちらかしかないと物足りなくなるな。
あいつからのご褒美を時間をかけて味わうと食器を洗う。食洗機か……。
そういえば読みたい新刊が出ていたのに最近は忙しくてご無沙汰だったな。
ソファにクッションを敷くと音楽をかける。クラシックからテクノまで、雑食な俺はいつもランダムに曲を流す。
積読の中から適当に1冊手に取ると、俺はページを開いた。
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