第7話

 一夜明けて金曜日、いやもう実は土曜に差し掛かっているんだが。なぜこんな時間にオフィスにいるかと言えば…本日の大口案件は2件とも受託となったからだ。めでたい!いや俺の体はもうボロボロなので何もめでたくないが……。


 後輩2人とお子さんが熱を出した相澤さんは帰宅、俺と先輩の小峰さんだけはこの無駄に広い事務部屋でひたすらに書類を捌いている。

 後輩には基本的に事務仕事を任せており、俺と小峰さんは本来企画担当である。しかし、こういうイレギュラーな際は事務にかかりっきりになるのである。

 まぁ俺担当のイベントは来期だし今はまだ耐えている。下準備もとい根回しは済んでいるしな。


「鹿見ぃ〜さすがに疲れた、休憩行こうや」


 伸びをしながら小峰さんが話しかけてくる。事務エリアから2つ階を隔てた休憩スペースへと向かう。実はうちの会社はフリーアドレス制を導入しており、社内に散りばめられたフリースペースでゆったりと仕事をする社員も少なくない。


 だが事務に関しては営業から急ぎの案件を振られたりするため、すぐに捕まる場所にいて欲しいとの願いから同じ場所に集まって仕事をしている。社内チャットの意義が消失している。どんだけ割を食わされるんだ俺たちは。


 通りがかった経理課も電気がついている。まぁ彼らも俺たちと同じ境遇だよな……なんだったら決算期や期末は泊まり込みも普通らしいし。


 ガコンッと自販機から缶コーヒーが吐き出される。100円でリフレッシュできるものなら安いものだ、とプルタブをあけて喉に液体を流し込む。


「はぁ〜〜〜〜。」


 張っていた体の緊張がゆるんでいく。目の前の小峰さんも似たようなものだ。


「来週も今日の処理が続きそうですね。」


「そうだな……今週よりはマシだと信じようぜ。」


「じゃあ来週に飲み会セッティングしますか。お子さんいるし来られないとは思いますが、相澤さんにも声掛けときますね。」


「すまんな、頼むわ。」


 何食べようかと話しながら事務部屋に戻るが、2人とももう頭が正常に働いていない。



 さて、ただいまの時刻は4時28分。まだまだ始発は動かない。机にだらしなく身体を預けた小峰さんの寝息と俺がキーボードを打つ音だけが部屋を支配する。


 そういえば営業課は今日(昨日)は飲み会だっけか。会社を上げての豪華なお祝い会(経費持ち)は別にするが、とりあえずの祝杯をあげたそう。あいつちゃんと自分の家に帰ってるよな……酔うと俺の部屋に転がり込むんだよな。

 なんか21時くらいにスマホが鳴っていた気もするがもう記憶の彼方である。


 なんとか週末は休めるところまで仕事を進めると、パタンとPCを閉じる。時刻は6時と14分。電車ももう動いているだろう。

 まだまだ起きない小峰さんの近くにアラーム付きの時計をセットする。7時には爆音で目が覚めるはずだ。


「お先に失礼しま〜す」


 小声で囁くとパタン、と事務部屋の扉を閉める。土曜日の静かな早朝は嫌いじゃない。誰一人いないオフィス街を革靴を鳴らしながら歩いていく。

 まずは寝て、昼過ぎにフレンチトーストでも作るかと考えながら地下鉄へ続く階段を降りた。

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