第041話 大掃除

 如月さんの絵を描くのは問題ない。別にやましいことじゃないし。


 じゃあ、何が問題かって如月さんが家に来ると、色々なものが見られてしまう可能性があるということ。


 僕の自室は柊真琴のグッズで溢れかえっている。ポスターや写真、フィギュアなどなど、どれもが如月さんに似ている。


 そんな部屋を見られた日には確実に勘違いされるに違いない。


 僕が如月さんをキャラクター化してグッズを作っている変態であると。


 特に抱き枕まで持っているのがバレたら致命傷だ。


 もしそんなことになったら、僕は如月さんに嫌われるどころか、ゴミでも見るような冷たい目で蔑まれるようになってしまう。


 仮にそんな事態になってしまったら、僕は高校生活を続けていける自信がない……いや、人生さえ危うい。


 絶対に明日までに片付けてクローゼットに隠しておく必要がある。


「よし、すぐに片付けるぞ」


 僕は帰ってすぐに柊真琴グッズを片付け始めた。



 数時間後。


「ふぅ……これで片付いたかな……」


 どうにか部屋の掃除と片付けを済ませた。


 自室に入れない可能性の方が高いけど、これでもし自室に入られたとしても如月さんにバレないで済むはず。


 これで一安心だ……いや、待てよ……。


 如月さんが来るという事実に何も変わってないじゃないか。


 自分の家に、あの如月美遊が来る、という事実が、再び僕の鼓動を何倍も早める。


 カラオケも個室に二人きりで心臓が張り裂けそうになったのに、自分の家で彼女と二人きりになったら、本当に張り裂けるんじゃないだろうか。


 僕は明日死ぬかもしれない。


 気が気じゃなくなくて今日もあまり眠れなかった。



「なぁ……」

「なんですかな、同士ヒッキー」

「ヒッキーは止めろ。美少女が陰キャの家に行る理由ってなんだと思う?」


 次の日、俺はぼんやりとしながらいつものようにマギーに尋ねる。


 如月さんの突然の申し出に不安になったからだ。


「ほほう、あの子のことですかな? あんなに競争率が高そうな女の子を連れ込むとは流石ヒッキーですな」

「違うっての」


 マギーはすぐに見破ってニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「しらじらしい否定乙」

「はぁ……それでどう思う?」


 悔しくて否定しても全く通じないので、諦めて話を戻した。


「可能性としては、弱みを握るためじゃないですかな」

「確かに。それはありそうだよな」


 僕はマギーの答えに納得する。


 そう。如月さんは、ただ似顔絵が欲しくて家に来るだけ。


 変な気を起こさないように気を付けなければ。



「それじゃあ、一度荷物を置いてから行くから」

「わ、分かりました」


 如月さんが僕の家に来る時間が迫ってきてドキドキが止まらない。


 胸が苦しくて胸元をギュッと掴む。

 苦しさに悶えながら家に帰り、身だしなみを整えた。


「おかしいところはないよね?」


 リビングで描くために必要な物はすでに運んできた。


 もう準備は万端だ。


 後は如月さんが来るだけ。


 ――ドッドッドッドッドッ


 再び心臓の鼓動がどんどん大きくなる。


 何かしていた時はそっちに集中して気がまぎれたけど、やることがなくなった途端これだ。


 ――ピンポーンッ


 インターホンの音がなり、僕はビクッと肩を揺らした。


 つ、つつつつ、遂にきた!!


 僕はガチガチになりながら玄関に向かい、扉を開ける。


「はい」

「お待たせ」


 僕の視線が下から上に上昇し、如月さんを捉えた。


「っ!!」


 そこに立っていたのは天使。


 そのあまりの美しさに僕の呼吸は止まった。


 ふわぁっ!? こ、ここここ、これは!?

 ゴールデンウィークの!?

 か、可愛いっ!!


 如月さんはゴールデンウィークの時に試着していた夏服でやってきた。

 あの時は写真だったので、まだどうにかなったけど、やはり生の破壊力は偉大だ。


 その不意打ち射撃により僕は撃沈した。

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