第040話 約束

「はぁ、誰が好き好んでマギーの似顔絵を描かなきゃならんのか」

「そっくりそのままお返ししましょう」


 今日は美術でペアになって相手の似顔絵を描くことになった。


 とはいえ、このクラスで美術を選んだ生徒は少なくて、八人。


 その中に、僕とマギー、そして如月さんたち仲良し四人組が含まれている。


 タブレットを買ってもらう前は、僕もアナログで絵を描いていた。

 ちなみに僕はかなり描くのが速い方だ。


「いやぁ、ヒッキーは相変わらず、上手いですなぁ」

「お前のはなんだ。怪獣か?」

「うーん、立体は得意なのですが、平面が苦手でして」

「昔からそうだったな」


 二人して描き上げた絵を見せ合いながら笑う。


「デッサンや模写なんかもかなりできていましたので、分かってはいましたが、眞白君の絵はとても上手ですね。皆さんも見せてもらってください」


 俺たちが話をしていると、先生が僕の絵を褒めて皆を集める。


 ひぇ~!? な、なんなんだ、これは?


 八人でも注目されるだけで頭が真っ白になる。


「あっ、眞白君の絵、すっごく特徴を捉えてて真木君だってすぐに分かるね。上手いなぁ」

「ホントですね。デフォルメされて可愛らしい感じですが、それが味をだしています。とてもお上手です。こんな才能をお持ちだったとは」

「これは凄い」

「本当に上手いと思える人に会えたのは初めてかも」


 最初に如月さんたちが僕の絵を滅茶苦茶褒めてくる。


 ぐわぁあああああああっ。う、嬉しいけど、背中がムズムズする!!


「え、なにこれ、うっま!?」

「AIと違って個性があってちゃんと描けるってすごい。プロレベル」


 他の二人も大絶賛。むず痒さがさらに加速する。


「これだけ描けるというのは、描く対象をしっかりと観察している、ということです。他の皆さんも相手の顔を見て、描いてみましょう」

『はい』


 最後は少しだけ授業のだしに使われて、皆僕の周りから離れていった。


「とんだ羞恥プレイでしたな?」

「うるさいよ」


 揶揄ってくるマギーの顔がうざくて殴ってやりたくなった。




「やっぱり、眞白君は絵が上手いね」


 帰り道で美術の授業の話になる。


「あれはちょっと恥ずかしかったです」

「うふふ、顔真っ赤だったね。でも、あの絵、ちょっと上手さ抑えてた上に画風も変えてたでしょ?」

「あ、あ~、それは何と言いますか……」


 如月さんに隠していたことを言い当てられて言い訳ができない。


 一度ポートフォリオとスケッチを見せているから誤魔化しは通用しなかった。


「まぁ、バレたくないこともあるもんね」

「あはははっ。そうですね……」


 そうだ。イラストを描けることを知られて良いことなんてない。

 信頼できる人以外には秘密にしておきたい。


「そうだ。私の絵も描いてよ。約束……覚えてる?」

「分かりました。ゴールデンウィークに約束しましたしね」


 有耶無耶になっていた約束がここにきて牙をむく。


 過去の僕、どうして断らなかったんだ!!


 過去の僕「断れると思うのか?」

 今の僕「無理!! 無罪!!」


 脳内審議で過去の僕は無罪。

 如月さんに頼まれたらしょうがない。


「やった。いつがいいかな?」

「幸い、今はスケジュールに余裕があるので、いつでも大丈夫ですよ」

「んー、じゃあ、明日!!」

「あ、明日ですか!?」


 思ったよりも直近でびっくりした。


「うん、駄目?」

「い、いえ、そんなことありませんが……」


 こっちに答えを委ねるのホントだめ、絶対!!


「それじゃあ、明日ね。場所は眞白君のうちでいい?」

「ぼ、ぼぼぼぼ、僕の家ですか?」

「うん」


 それよりもびっくりしたのは絵を描く場所。


 基本的に夜中まで親は帰ってこない。


 その間、ずっと一つ屋根の下で如月さんと一緒……そんな場所に如月さんを連れこむのはどう考えてもダメでしょ……。


 勿論、推しである如月さんに何かをするつもりはないけど、如月さんは男に対する少し警戒心が薄い気がする。


 これはガツンと言うべきことじゃないだろうか?


「いやいや、ウチは親の帰りが遅くてですね……僕しかいない家に女性を上げるのはちょっと……」


 そんなことできるはずもない。

 それでもなんとか忠告しておく。


「あはははっ。大丈夫だよ。眞白君は変なことしないでしょ?」

「それはメドメギに誓って」

「それなら安心だよね?」


 しかし、僕の言葉は一瞬で否定された。


 男として見られていないことを嘆くべきか、信頼されていると喜ぶべきか悩むところだ。


「は、はい。そうですね」


 僕は反論できず、頷く。


 うがぁあああああっ。

 なんで言い負けてるんだ、僕は!!


「それじゃあ、明日はよろしくね」

「は、はい……」


 ちょうど家に着いたところで如月さんは家に入っていった。


 はぁ……とにかく絵を描いたらすぐに帰ってもらおう。

 そうすれば何も問題ないはず。


「あ……」


 しかし、僕は別の問題を思い出して血の気が引いた。

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