第049話 死刑宣告?
「どうぞ」
「わぁ~、ここが眞白君の部屋かぁ」
僕が部屋に通すと、如月さんが物珍しそうに部屋をキョロキョロと見回す。
ひ、ひぇっ!?
僕の部屋の中に、あの如月美遊と僕が二人きり。カラオケはまだ他の人がいたり、防犯カメラがあったりして、外部の目があったけど、ここには何もない。
本当に二人っきりなんだ。
その事実に鼓動が速く大きくなって体が思うように動かない。
「うわぁ、これって液晶タブレットってやつだよね?」
「は、はい、そうですね」
突然如月さんに声を掛けられて体がビクリと跳ねる。
落ち着けぇ。何かするわけじゃないんだ。変に意識するな。平常心、平常心だ。
深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
ドクンドクンッ
でも落ち着いたら、落ち着いたで僕はクローゼットに柊真琴グッズを隠していることを思い出した。
流石にクローゼットを覗かれることはないと思うので、バレないと思うけど、でももしかしたらバレてしまうんじゃないかと気が気じゃなくなってきた。
うわっ、アレは!?
クローゼットの方を見ると、下からタペストリーっぽい布がはみ出している
しかも柊真琴の顔の一部が出ていた。
いつの間に……。
結構詰め込んだから、隙間から落ちたのかもしれない……。
やばいやばいやばい。急いで仕上げて如月さんを帰さないと。
「作業場がプロって感じで凄いね!!」
「い、いえ、そんなことないですよ」
僕がそんなことを考えているとも知らずに、純粋な尊敬の眼差しが眩しくて顔を逸らす。あんな円らな瞳で見られて直視できるはずがない。
「あるよぉ。なんか漫画家さんみたいだもん。眞白君カッコイイね」
「あ、ありがとうございます」
眞白君かっこいいね。
そんな風に笑われたら惚れてまうやろ!!
止めて、僕のライフはゼロよ!!
「そうだ。何か書いてほしいキャラは居ますか?」
「やっぱりヒロイン三人組かな」
「うーん、分かりました」
三人だと上半身でキャッキャしている感じがいいかな。
サクッと人の形を書いて構図を決める。
その後、それぞれのキャラクターをざっくりと描いていく。
「ほぇ~、速っやぁ!!」
如月さんが興奮気味に声を上げている。
もう何度も書いているキャラたちだし、アニメも何度も見ていて頭の中に完全なイメージがあるので、あっさりとラフが出来上がった。
「こんな感じでどうですかね?」
「うーん、もう少し、上から見ているような感じがいいかなぁ」
「うわぁっ!?」
僕の顔の数センチ横に如月さんの顔があって、びっくりして僕は椅子から転げ落ちてしまった。
近い近い近い!!
至近距離で見た如月さんの横顔が目に焼き付いて離れない。
理想はこんなに近くで見ることはできないし、匂いだってしない。でも、如月さんからは良い匂いがするし、ちょっと手を伸ばせば触れることができる。
その現実に頭がクラクラしてくる。
「だ、大丈夫? 物凄い勢いで床に落ちてたけど?」
「だ、大丈夫です。大丈夫!!」
如月さんが近づいて来ようとするので、それ以上近づかないように手で制した。
これ以上近づかれたら、昇天してしまう。
「ちょっと、待ってください」
如月さんの指示に従って少し描き直す。
「どうですか?」
「もうちょっと違うんだよねぇ。あっ、眞白君立ってくれる?」
「は、はぁ……」
しかし、如月さんの思っていたものと違っていたらしい。
何故か立つように言われたので意味も分からないまま立ち上がった。
「こんな感じ」
「ひょっ!?」
如月さんが僕の前に少ししゃがんで僕を見上げる。
理想そのものの存在の上目遣い。その視線に僕の心は撃ち抜かれた。
「!?」
ドクドクドクと心臓の鼓動が大きく激しくなって聞こえてくる。
如月さんが何か言っているけど、心臓の音が大きすぎて何も聞こえない。
「眞白君!!」
「あっ、はい」
ひときわ大きく声を掛けられたことで我に返った僕。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!! すぐに描き直しますね!!」
僕の顔を心配そうに覗き込む如月さんが可愛すぎて心臓が持ちそうにない。
僕は飛び跳ねるように椅子に戻ってイラストを描き直した。
「こ、これでどうですか?」
「うわぁ!! うんうん、イメージ通り!! 本当に凄いね!!」
どうやらイメージにかなり近づいたみたいで如月さんがとても喜んでくれた。
はしゃいでる姿が眩しい。
「いえ、如月さんが協力してくれたからですよ。とても魅力的な構図になりました」
「ホント? 役に立てたのなら良かった」
「ここからは少し時間が掛かってしまうので、完成したらお見せしますね」
線画、色塗り、仕上げ、調整。ラフまでよりも圧倒的に時間が掛かる。
今ここで終わるまで待ってもらうわけにはいかない。
「うん、分かった」
「流石にもうかなり遅いので、そろそろ帰った方がいいんじゃないですか?」
僕は早くタペストリーを隠したくて如月さんを急かす。
「んー、そうだね。そろそろ帰ろうかな」
ふぅ……これで如月さんが帰ってくれれば、クローゼットからはみ出ているタペストリーを隠すことができる。
僕は安堵していた。
しかし、僕の願いは脆くも崩れ去る。
「ん、あれなんだろ?」
如月さんがクローゼットの方に軽やかに移動する。
「如月さん待って!!」
「え?」
如月さんはしゃがんでクローゼットからはみ出ている布を引っ張った。
僕の声で振り返って、手に持った布がグイッと引っ張られると、クローゼットの扉が開いて、中身が崩れ落ちてくる。
「きゃっ」
如月さんが後ろに尻もちをついて大量の如月真琴グッズが降り注ぐ。
「えっと……これってもしかして私?」
「終わった……」
僕はその光景を見て、心臓を剣で貫かれたような絶望を味わった。
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