第035話 二人きり
大丈夫だろうか。
僕は部屋をうろうろしながら明日のことを考える。
だって、如月さんだけじゃなくて他の陽キャ達もくる。如月さんは当然だけど、他の皆とも一緒に歩いて恥ずかしくない格好をしないとマズい。
カラオケの予定が入った直後、ショップが集まっているモールに行って、僕でも話しやすそうな店員さんに頼んで全身コーディネートしてもらった。
それから、一旦帰ってきた後、僕が普段なら絶対入らない美容室に髪を切りに行って、自分に合いそうな髪型に教えてもらった。
セットの仕方を聞いたり、どこのサイトを見たらいいか、なんてこともレクチャーしてもらったので明日の朝、きちんとセットするつもりだ。
ただ、一番の問題は僕の体型だ。ジョギングと筋トレを初めてちょうど一ヵ月くらい。少し引き締まったけど、まだまだポチャッとしている。
陽キャたちはみんなイケメン、美少女だ。
そんな中、僕だけぽっちゃりしているのは、非常に浮いた存在になると思う。
不安だ……。
「でも、やれることはやったし、後はなるようになる。浮いているようなら僕だけ途中で帰ればいい。そうすれば、皆気兼ねしないで済む」
明日寝坊しないために僕はベッドに入った。全く寝付くことができず、徹夜することになった。
時間が迫ってきたのでシャワーを浴びて、髪型をセットし、真新しい服に着替えて玄関にある姿見で自分の姿を確認する。
服に着られているって感じだ。それに髪の毛が短くなった上に、セットしているので、なんだか僕じゃないみたいだ。
「そろそろ出なきゃ」
待ち合わせ場所に早めに着くために家を出た。
「ここ……だよね?」
指定されたのは駅前の待ち合わせスポット。僕は付近の人を確認する。
「あれは……?」
眼鏡を掛けて、地味な雰囲気の服装をしている女の子に目が留まる。その恰好は昔の女友達とだぶる。
僕は頭を振り、その人に近づいた。
多分間違っていないはず。
意を決して声を掛ける。
「あ、あの……如月さん……ですか?」
「え、あ、うん、よく分かったね?」
如月さんは恥ずかしそうに顔を逸らして返事をした。
あれ、もしかして声を掛けちゃまずかったのだろうか。
「はい。それはもう。見た目は変えられても、如月さんの持つ雰囲気とか、癖とか、そう言う部分は変わってないですから」
「ふーん、私のことそんなに見てるんだ?」
とりあえず話に乗って、如月さんだと分かった理由を挙げると、僕の顔をしたから覗き込むようにしてニヤリと笑った。
ちょっとその仕草は可愛すぎるから止めてもらってもいいですか?
「い、いえ、いつも一緒に帰っているので記憶に残っているだけです」
「ふーん、まぁいいけど。それより……今日はいつもと雰囲気が違うね」
はい、見ています、なんて言ったらただの変態だ。それに、キモい、死ね、とか言われるに違いない。
話を誤魔化したら、僕の格好の話になった。
流石
「そうですね。如月さんたちとカラオケに行くにあたって、僕だけ変な格好で浮いてしまうのも申し訳ないと思いまして」
「そんなの気にしなくていいのに。でも、今日はいつも以上にカッコイイよ」
「あ、うぇ!? 僕なんてそんな……」
かっこいいよ……。
そんなこと言われたら、心がキュッてなる。
おっと、勘違いするな。あくまで服装がかっこいいって話。僕がカッコいいわけじゃない。
如月さんは優しいので褒めてくれているだけだ。
「ホントだよ? それじゃあ、いこっか」
「あ、はい……え、あの、他の人は?」
他の友達を待たずに出発しようとする如月さんに、困惑しながら尋ねた。
皆でカラオケ行くんじゃないの?
「ん? いないけど?」
「い、いいいい、いないんですか?」
返事を聞いた僕は混乱する。
てっきり沢山の中の一人、という立ち位置だと思っていたのに。
「うん」
「なんでです?」
「え、最初からカラオケは二人で行くつもりだったよ?」
「……」
はぁああああああああっ!? 今日は如月さんと二人っきりだってぇええええっ!? いやいやいや、想定外すぎる。
「え、もしかして皆で行きたかった?」
「い、いえ、そういうわけでは……まさか二人で行くとは思ってなかったので……」
陽キャのノリは苦手なので、行きたかったかと問われれば、それは当然ノーだ。
「だよね。皆は私のオタク趣味を知らないからアニソン歌えないし、眞白君は皆と仲良くないし、苦手でしょ? ああいう感じ」
「そうですね。少なくとも得意とは言えません」
如月さんの友達を悪く言いたくはないので、言葉を変える。
「眞白君が困るようなことするつもりはないよ」
「……」
確かにドギマギさせたり、勘違いさせるようなことはしてくるけど、如月さんが僕に対してすることに一度も嫌悪感を抱いたことはない。
やっぱり、如月さんはどこまで優しい人だった。
「ほら、黙ってないで行くよ。歌う時間が少なくなるよ」
「あ、は、はい……」
僕は如月さんに急かされ、呆然としたまま彼女の後を追った。
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