第028話 思い出
あれは中学一年の頃。
最初の半年間、僕にはたった一人の女友達がいた。
「ミュー、今日は何して遊ぶ?」
「うーん……スラバト」
「よっしゃ、ウチでやろうぜ」
「うん」
その女友達とはよく一緒に遊んでいた。
彼女は良く言えば物静か、悪く言えば根暗でコミュ障気味の女の子だった。
そして、趣味はアニメやゲーム。しかも女の子が好きそうなものではなく、男が好みそうなものを好んでいた。その上、服や化粧などには一切興味を示さなかった。
だから、女の子らしい知識が皆無。
「どういう服が好き?」
「え、えっと、私は……」
「知らないことは知らないって答えてもいいんだぞ。知ったかすると後が辛いから」
「なによ、眞白」
「別に。ちょっとしたおせっかいだよ」
彼女と話すようになったきっかけは、彼女がクラスメイトに全然分からない話題を振られて答えに困窮しているのを見かけて割って入った時からだ。
「え、あ、えっと……ごめん……私そういうこと全然分からなくて……」
「それじゃあ、どういうものが好きなの?」
「スラバトとか……ガル伝とか……」
クラスメイトの女子からの質問に、彼女は自信なさげに答える。
「何それ」
「えっと……ゲーム……」
「知ってる?」
「分かんなーい」
彼女の周りにいた女子はお互いに顔を見合わせて首を振った。
それからも何度か話題を振るけど、話が盛り上がらず、女子たちは彼女から離れていく。
少女は俯いてしまった。
「なぁ」
なんとなく背中が寂しそうに見えたので話しかけてみる。
「……何?」
「スラバト好きなのか?」
「…………うん」
顔を上げた彼女はゆっくりと頷いた。
スラバトは最大四人でできる対戦ゲーム。
僕もよくやるゲームなので気になる。
「何のキャラを使うんだ?」
「えっと……」
「別に焦らなくて大丈夫。ゆっくり答えてくれていいし、知らないことは知らないっていっていいから」
なんだか話の苦手そうなので、僕は安心させるよう言う。
「私は……モスク」
それが功を奏したのか、彼女はゆっくりと答えた。
モスクは口ひげを生やしたハードボイルドな男キャラ。あまり女の子が使いそうにないキャラクターだけど、結構人気がある。
「へぇ……渋いな」
「そう? ……眞白……君は?」
「俺は、クービィだ」
「まんまるで可愛い。私も好き」
そんな風にスラバトの話をするようになってから、彼女とよく話すようになった。
それに、図書委員でも一緒になり、僕と彼女は一緒に過ごすことが増えた。
「よっし、それじゃあ、早く帰ってスラバトやろうぜ」
「うん」
趣味や嗜好が合ったおかげで仲良くなるのに時間が掛からず、すぐに僕の家でゲームやアニメを見るようになった。
たまたま小学校の学区が違うだけで、家も割と近いことを知って登下校も一緒にするようになった。
あの頃は二人で遊ぶことに夢中になっていたと思う。
「うわぁ!? ミュー、それは卑怯だろ!!」
「ふふーん……れっきとした技……ヒロが油断するのが悪い」
僕たちはすぐに愛称で呼びあうようになった。
その時の僕は全然子供で恋愛感情なんてよく分かっていなかったから、ただただ彼女と遊ぶことが楽しかった記憶しかない。
「あぁー負けた!! うわぁっ!?」
「ヒロ!!」
思いきり後ろに倒れた時、僕は気づかずに壁に頭を打って気を失った。
「んん?」
「ヒロ、大丈夫?」
目を覚ますと女友達が僕を心配そうに覗き込んでいた。
「あ、ああ。これ、どうなってんの?」
頭の下に柔らかい感触があって、いわゆる膝枕されている状態になっていた。
「あ、えっと、ヒロが頭を打って……気絶して心配だったから……」
「そっか、ありがとな」
どうやら頭の下に何かを敷こうとして自分の脚を敷いたらしい。
枕すぐそこにあるのにな。
「う、ううん、大丈夫。それより頭は大丈夫そう?」
「大丈夫だと思う」
「頭は大事だから一応病院に行った方が良いと思う」
「分かったよ」
それから暫くゲームをして夕飯前に彼女は帰っていった。
一応頭の検査もしてもらってけど、特に問題なかった。
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