第024話 玄関

 ――キーンコーンカーンコーンッ


「止め。後ろから答案用紙を集めてください」


 先生の指示で答案用紙が集められていく。枚数を確認した先生は、教室から出ていった。


 最後のテストが終わり、ほぼ一週間かけて行われた初めてのテストを終えた。


「終わったぁ……」


 僕は背伸びをして呟く。


「終わりましたな、ヒッキー」

「だから、ヒッキーは止めろっての。どうだった?」


 振り返って話しかけてきたマギーといつものやり取りをしてだべり始める。


「それなりには解けたんじゃないですかな? ヒッキーは?」

「僕も問題ないかな」


 高校最初のテストということで少し緊張していたけど、ちゃんと予習復習をして、テスト範囲を一通り見直していたので、分からない問題はあまりなかった。


「久しぶりにフィギュアを捏ねられると思うと、ワクワクしてきますなぁ」

「俺もようやく漫画を再開できると思うと滾ってくる」


 テスト勉強をしている間は、如月さんをモデルにした漫画を掛けなかったので、フレストレーションが溜まっている。


 でも、それよりも気になることがあってソワソワしている。


 それは勿論約束のことだ。




 帰り道。話題は当然テストのこと。


「テスト、どうだった?」

「そうですね。かなり自信ありますよ」

「凄いね!! 私も結構自信あるよ。結果が楽しみだね」

「はい」


 お互いの視線の間に火花が散る。


 ふっふっふぅ。勝ったら、何してもらおうかなぁ。あーんなことやこーんなことを頼んでしまってもいいのか? 


 いやいや、それは駄目だろ……。


 危ない。ちょっと邪な思考がよぎってしまった。


 そんなことを頼んだ日には絶交されてしまうと思う。


 きちんと考えておかないと。


「勝負は結果待ちだから置いておくとして、やっとテストが終わったね」


 そうだ。今は先のことを考えてもしょうがない。まずはテストが終わったことを喜ぼう。


「はい、これでゲームやアニメを見れますね」

「うん」


 軽く遠くを見上げてアニメに思いを馳せる如月さんが可愛い。


「僕も今日は久しぶりに目一杯イラストを描きたいと思います」

「いいね。私はメドメギ見返そうかな」

「いいですね。メドメギは何回見てもいい」

「そうだね。メドメギを見れば健康になれるってことわざもあるくらいだし」


 そして、やっぱりその後はアニメの話題にシフトしていく。


 如月さんと話していると、僕もアニメが見たくなってくる。


 彼女が心から楽しそうにアニメの話をするからかもしれない。


「僕も何かアニメ見ようかなぁ」

「いいね。眞白君は何を見るの?」


 作業のBGMにしたいから、起伏の少ない日常系やスローライフ系のアニメが良い。


 そこで昨年やっていたアニメを思い出した。


「そうですねぇ。異世界牧場にしようかと」

「あぁ~、良いよね!! あののんびりした雰囲気好き」


 タイトルを聞いた如月さんが無邪気にはしゃぐ。


 はぁ……天使か……。


「あぁ~、話していたら、クラテシカドライブ見たくなってきちゃった」

「見たらいいんじゃないですか?」


 如月さんが珍しく残念そうな顔で話す。


 如月さんは沢山のDVDを持っていると聞いている。クラテシカドライブも当然持っていると思っていた。


「残念ながら、クラテシカドライブのDVDは持ってないんだよねぇ」

「ウチにあるので僕が貸しましょうか?」


 だから、僕が貸すことにした。幸い家も近いし、如月さんが喜んでくれるなら、貸しに行くくらいわけもない。


「えぇ!? 良いの?」

「それは勿論。僕は暫く見ませんし」

「それならお言葉に甘えちゃおうかな」

「分かりました」


 それから三分後。


 いったいどうしてこうなった……。


「お邪魔しまーす」

「ど、どうぞ」


 僕は如月さんちまでもっていこうと思ったのに、何故か如月さんが僕の家の中に入ってきている。


 持っていくと言ったんだけど、取りに来るというのを断り切れなかった。


 如月さんが僕の家の玄関にいる。


 それだけなのに、なんだか悪いことしているような気がして、鼓動が早まる。


「初めて男の子の家に入っちゃった……」


 如月さんが物珍しそうに僕の家の玄関を見渡して、ポツリと呟いた。


「!?」


 ぼ、ぼぼぼぼ、僕が如月さんの初めてを!?


 如月さんの言葉を聞いた僕の鼓動は更に高鳴り、心臓の音で脳内がひどく五月蝿い。


「そ、それじゃあ、少し待っててくださいね」

「うん、分かった」


 心臓がこれ以上持ちそうにないので、僕は急いで部屋に戻り、DVDボックスを紙袋に入れて戻って来た。


 紙袋の中に変な物が入っていないか何度も確認したから問題ないはず。


「どうぞ」

「ありがと。それじゃあ、またね」

「はい」


 DVDボックスを受け取ると、如月さんは玄関の扉を開ける。


「後でお礼するから」

「いえ、そんな気にしなくて大丈夫ですよ」


 軽く振り返って手を振って出ていく如月さんに声を掛けたけど、彼女はそのまま走り去っていった。


「後で?」


 どういうことだろう?


 ――ピロンッ


 諸々を済ませ、イラストを描いていると、スマホの通知が届いた。


「ふぁあああああああっ!!」


 スマホを開いた途端、僕はベッドにダイブした。


『美遊:DVD貸してくれてありがと』

『美遊:お礼だよ(ハート)』

『美遊:(画像)』


 なぜなら、お礼として送られてきたのは部屋着姿の如月さんの自撮りだったから。


 後でってこういうことかぁ……。


 パジャマパーティーの時のモコモコしたパジャマとは違って、スポーティな感じの部屋着で露出が多くて物凄く目に毒だった。


 はぁ……エッチすぎる……。


 ま、まぁ、お礼だから大事に保存しても問題ないよね。


 僕は如月さんフォルダに画像をしっかりと保存した。

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