第023話 初めての
体力テストの次の日。
「来週、中間テストだからな。ちゃんと勉強しておけよ~」
先生の言葉を最後にホームルームが終わる。
『うわぁ~!!』
クラスメイトたちからは怨嗟の声が上がった。
「まだ入学して一ヵ月と少しなのにテストがあるなんて早すぎないか? まだ碌に進んでないような気がするけど」
「とりあえず、現状の学力を把握しておきたいのではないですかな」
「そういうもんか」
帰り支度を済ませ、マギーと共に教室を出る。
「それじゃあ、またな」
「さらばですぞ」
俺とマギーは校門まで一緒に歩いた後、お互いの帰路に着いた。
「お待たせ」
「いえ、全然待ってないですよ」
数分後、いつもの場所で如月さんと待ち合わせて一緒に歩く。
「来週、テストだね」
「そうですね」
「眞白君は大丈夫そう?」
「そうですね。予習と復習は毎日きちんとしていますし、テスト範囲の問題集を一通りやれば問題ないかと」
「ちゃんと勉強してるんだ。でも、イラストの仕事をしているのなら、将来イラストレーターになるんでしょ? そんなに勉強しなくてもいいんじゃないの?」
勿論、それには理由がある。
「い、いえ、イラストの仕事をするなら成績を維持するのが条件でして。それにイラストだけで食べていけるのはほんの一握りですし、いい大学に入っておけば、それだけ将来の選択肢が広がりますから。それなら、今から毎日コツコツとやっておいた方が良いと思っているだけですよ」
選択肢を残しておけるのなら、それはできるだけ多い方がいい。狭めるのは後からだってできる。
「へぇ~、もうそんなに将来のことまで考えているんだ」
「仕事をし始めたのが中学生の頃からですから。意識せざるを得なかっただけです」
「眞白君、なんか大人だなぁ。カッコイイね」
如月さんは、髪を耳に駆ける仕草をして、少し目を細めて優しい表情で僕を見る。
もう好き!! そのポーズと表情好き!! それに如月さんにカッコイイって言われた!!
いやいや、思い上がるな。如月さんが言っているのは、僕じゃなくて、そういう考え方はカッコイイよねって話だ。
僕は気持ちを落ち着かせて話を逸らす。
「そ、そんなことありませんよ。如月さんは大丈夫なんですか?」
「多分大丈夫だと思うよ。私もそれなりに予習復習はしてるから」
「それじゃあ、大丈夫そうですね」
如月さんは頭もいいので心配していない。
「全然、大丈夫じゃないよぉ!!」
「え、どうしてですか?」
でも、如月さんは突然悲しみに暮れた表情になる。
え? え? 如月さんにそんな顔をさせるとは何事だ!?
許さん!! この非公式ファンクラブ会長の僕がそいつをとっちめてやる!!
「だって、テスト勉強を全くしないわけにはいかないから、必然的にアニメやゲームの時間が減っちゃうんだもん」
「……それは確かに辛いですね」
僕はどうにもできない問題だった。
陽キャグループだから忘れがちだけど、如月さんはアニメもゲームも好きな人だ。
僕もアニメやゲームの時間が減るのは辛いから、その気持ちは良ーくわかる。
今までは、好きなアニメを見るために生きていると言っても良かった。だから、見れないだけでストレスが溜まる。
アニメやゲームの話を始めると、必然的にそっちの話題になり、テストの話は忘れ去られてしまった。
気づけば、もう如月さんの家の前。お別れの時間だ。
「来週のテスト頑張ろうね」
「はい。一緒に頑張りましょう」
頑張ろうね。
その言葉だけでテストは勝ったも同然だ。
「あ、そうだ。勝負しようよ」
如月さんは家の方に向かおうとしたところで、閃いたとばかりに提案してきた。
「勝負……ですか?」
「うん。テストの点数が高い方が勝ち。負けた方がなんでも一つ勝った方の言うことを聞くの。どう?」
勝てば、如月さんになんでも一つだけお願いできるのか。
なんでも……なんて甘美な響き。そ、そそそそ、そんな権利をもらっちゃってもいいのだろうか。
いやいや、そもそもこんなに僕に有利な勝負を受けてもいいのか?
これでも僕は勉強が得意な方だ。学年でも上位の成績を取る自信がある。
如月さんも勉強はできるけど、首席とかではなかったはず。ほぼ十中八九勝てると思う。
「もしかして……負けるのが怖いの?」
きょとんとした顔で如月さんが首を傾げた。
僕が中々返事をしなかったら、どうやら怖気づいたと思われたらしい。
そんな風に言われたら受けて立つしかない。
「分かりました。受けましょう」
「そうこなくっちゃ!! 負けないからね!!」
「はい、僕も負けませんよ!!」
僕たちはテスト勝負をすることになった。
あれ、でも、このまま勝っちゃっていいのかな? 如月さんのファンとしては勝ちを譲るべきでは?
いやいや、やはり勝負事は正々堂々勝負してこそ、ファンだと思う。
「やるぞ!!」
僕は自分に気合を入れて家まで急いだ。
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