第022話 うたたね
「五……六……七……八……九……十!!」
僕は早速簡単な筋トレからやり始めた。
「ふぅ……ふぅ……」
次の日は、早朝ジョギングをしてから朝一番に学校の教室に向かった。
「ふぁ~……流石にちょっと眠いな……」
朝ジョギング、学校、予習と復習、イラストの仕事、イラストの勉強、筋トレ……。
これから毎日ハードになりそうだ。
いやしかし、鍛えられた筋肉はイラストでも裏切らないって偉大な先輩が言っていた。
ちょうどいい機会だ。
体を鍛えることにより、勉強だけでは表現できなかった部分をカバーできるようになるかもしれない。そうすれば、理想を現実に近づけることができるはず。
僕は机に突っ伏して休む。
「んあ?」
「おはよ」
気づいたら寝落ちしてたようで、目を開けたら誰かが僕に挨拶をする。
ぼんやりとした視界がハッキリしてくる。
僕の顔の目の前に凄く端正な顔があった。
肩口ぐらいで切り揃えられたサラサラの髪、少し気の強そうな瞳、バランスのいい小さな鼻、そして薄めの艶やかな唇。
何処からどう見ても如月さんの顔だった。
「ひょわぁああああああああああっ!?」
僕はびっくりしてひっくり返る。
な、なんで如月さんが僕の目の前にいるんだぁ!?
――ガンッ!!
「ったぁ!?」
僕は思いきり後ろの席に頭をぶつけた。
痛みで悶絶して机と机の間をゴロゴロと転がる。
「だ、大丈夫?」
如月さんが心配そうにしゃがむ。
返事をしようと如月さんの方に視線を向ける。その瞬間、僕は大きく目を見開いた。
床スレスレにある僕の頭、プラス、如月さんがしゃがんだ姿、イコール、スカートの中が見えそう!!
こ、ここここ、これはマズいって!!
「だ、だだだだ、大丈夫です。あははっ……」
僕は目を逸らし、すぐに起き上がって頭を擦りながら、苦笑いを浮かべた。
スカートの中を覗くなんてファンとしてあるまじき行為だ。
男の性として自動的に目が吸い寄せられてしまいそうになるけど、視線がスカートに行かないようにぐっと堪える。
「そう。良かったぁ……」
心から心配してくれている如月さん。
やっぱり凄く優しい。聖母かよ。
「ははははっ。すみません」
「よく眠ってたね? お仕事忙しいの?」
「いえ、そういうわけではないのですが、運動不足だとイラストを描く時の集中力が低下するって言われたので少し運動しようと思いまして……」
カッコよかったって言われて舞い上がった結果、鍛え始めましたなんて言えない。
「そういうことね」
「はい。如月さんはどうして僕の顔を? 何か付いてました?」
僕は如月さんに質問しながら自分の顔を触る。
「んーん、可愛い顔をして寝てるなぁと思って」
「な!?」
か、可愛い!?
如月さんは膝に肘をついて、両手に顎を載せて優しく微笑む。寝顔を見られていたと思うと、僕は恥ずかしくなって顔が熱くなった。
でも何それ、そのしゃがんで微笑むポーズ可愛すぎて無理!!
語彙力が足りな過ぎて可愛いとしかいいようがない!! イラストでこういうポーズを書いたことあるけど、軽くその百倍は可愛い!!
「それじゃあ、また帰りにね」
僕の感情が収まらないうちに、彼女は僕の前から去っていった。
――ガラ……
「昨日のテレビでさ……」
「あぁ~、あれな……」
如月さんが去った後すぐに、クラスメイトが教室内に入ってくる。
多分如月さんは人の気配を察知したんだと思う。
でも、僕は彼女に夢中で全く気が付かなかった。
推しにあんな対応されたら、誰でも冷静ではいられないはず。
「なんでこいつ、床に座ってんだ?」
「さぁ?」
やばっ。
すぐに立ち上がって椅子に座る。
僕は何食わぬ顔で席に座る如月さんの背中を見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます