第016話 こっそりGW④

 神社からの帰り道。


「これは!?」


 途中で如月さんからメッセージが届く。


『美遊:この服、どうかな?』

『美遊:(画像)』


 そこには夏っぽい半袖の服を着た如月さんが映っていた。


 はぁ……もうとにかく可愛い……。


 しかもこれ、服屋さんの更衣室の中だ。畳まれた服が映り込んでいる。


 な、なんてものを僕に送ってくるんだ!! ぼ、ぼぼぼぼ、僕がこの写真を悪用したらどうするつもりなんだ? 勿論、そんなことはしないけど。


 全く無防備が過ぎる。僕だったから良かったもの、他の男に送っていたら、勘違いして彼氏面をしていたはずだ。


 でも、僕は如月さんの一ファンだという自覚がある。だから、勘違いはしない。


 如月さんなら何を着ても可愛いので答えは一つしかない。


『弘明:活発な感じが如月さんに合っていて、とても素敵だと思います』

『美遊:そっか、嬉しい!! ありがとね!!』

「ぐはっ!!」


 メッセージと共に投げキッススタンプが飛んできて吐血しそうになった。如月さんのキススタンプは破壊力があり過ぎる。僕特化の破壊兵器と言っても過言じゃない。


 今回は一回だったから辛うじて生きているけど、これが連発だったら僕は死んでしまっていただろう。


「はぁ……はぁ……はぁ……もう無理……」


 僕は家に帰りついた時、足が棒になっていた。


「あぁ~、お風呂が気持ちいい!!」


 汗だくになった僕は、風呂で汗を流した。自宅ではあまり溜めて湯船に浸かる事は少ない。久しぶりに入ると、内側に溜まっていた毒みたいなものが流れ出ていくような気持ちになる。


 風呂から上がった僕は、客間で横になる。


 気づけば、僕は意識を失っていた。


「……明」

「……弘明」

「……起きなさい、弘明。ご飯よ」

「んー?」


 視界がぼんやりとしているけど、この声は母さんだ。


 僕は上体を起こして辺りを見回す。


 あぁ、そうだ。僕はいま婆ちゃんちに来ているんだ。


「え、もう夜!?」

「だからもうご飯よ。早く来なさい」

「わ、分かった」


 僕はすぐに居間に移動した。


「奮発したわね」

「そりゃあ、おめえたちが来るって言うんだからそれくらいするだろ」

「そうねぇ。たまにだからねぇ」


 夜はすき焼き。しかも高いやつ。うっは。こんな肉食べたことないぞ。


 食べる前に写真を撮って如月さんに送った。


「それじゃあ、いただきましょうか」

「「「「いただきます」」」」


 全員が揃ったところでご飯を食べ始めた。


「ほれ、肉喰え、肉」


 爺ちゃんが肉を掬って僕に差し出してくる。


「あっ、ありがとう爺ちゃん」


 爺ちゃんは結構強引な人だ。でも、悪気があるわけじゃないから、器を差し出して受け取った。


「美味い……」


 卵がタレの染みた肉に絡み、口に入れたら、噛むたびに肉が溶けて旨味が口いっぱいに広がる。


「かーっかっか。だろうだろう。良い肉だからな!!」


 じいちゃんは気をよくしてビールを呷った。


「ホント、美味しいわね」

「そうねぇ」


 母さんたちも美味しそうに頬張っている。


「たくさん用意したからな。沢山食べろよ」

「うん」


 今日のために用意されたという肉は食べ切れるか心配な程の量が用意されていた。しかし、口当たりのよさとあっさりしていたので、四人でペロリと平らげてしまった。


「あぁ~、食べた食べた」


 僕は客間に戻ってくると、スマホを確認する。そこにはメッセージの通知が並んでいた。


「うわぁ……お洒落で美味しそうな料理やデザートばかりだな」


 今までの写真が嘘だったように料理やデザートの写真の数々が送られてきていた。


 これが陽キャの食事か……。


 眩しさで目が眩みそうだ。


『美遊:すき焼き、とっても美味しそう!! 私好きなんだよねぇ』


 好きなんだよねぇ……。


 うんうん、分かってる。すき焼きが好きなんだよね!! 僕は勘違いなんてしてないぞ?


『美遊:私たちはもうすぐパジャマパーティ』

『美遊:(画像)』


 あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ……。


 如月さんのパジャマ姿……萌えぇえええ!!


 僕はその日、死んだ。


 死因は、萌え。

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