第007話 初めての一緒の下校
「なぁ……美少女が自分にだけに家を教えるってどういうことだと思う?」
次の日、僕はマギーに昨日の出来事の意図をぼかして確かめる。
「何か良からぬことを考えているか、ただの気まぐれではないですかな」
「だよなぁ」
マギーの言う通り、こんな僕に秘密を教えるなんて、そういう理由くらいしか考えられない。
思わず悩みの種である如月さんの姿を見つめてしまう。
彼女はクラスの中でも可愛らしい女子生徒たち数人とグループを作り、賑やかに談笑している。その光景だけでご飯三杯はイケる。
はぁ……本当に自分の理想よりも理想過ぎて生きてるのが辛い……。
彼女がいるだけでそこだけ花でも咲いているかように明るく見える。
「おやおやぁ、やはり今日もあの子ですかな?」
ニマニマした笑みを浮かべたマギーが僕を揶揄う。
「だから違うって言ってるだろ?」
「いつも目で追ってるのは把握済みですぞ?」
「たまたまだよ、たまたま」
いくら言い訳したところで、マギーとは腐れ縁。僕のことを知り尽くしている。奴は誤魔化しきれない。
ただ、もう彼女と関わることはないだろう。
昨日話しかけられたのは何かの間違いだったんだ。これ以上彼女との何かがあるわけがない。
「えっ」
しかし、他の女子たちが目を離した瞬間、如月さんの視線が僕の方を向いた。
そして、膝の上に置いてあった手をほんの少しだけ浮かせてこちらに小さく振ったように見えた。
僕はびっくりして彼女から目を背ける。
いやいやいや。え、何!? 可愛すぎるんだけど……。
鼓動が速くなる。
いや、そうじゃなくて如月さんが僕なんかに手を振るはずないよな。僕の方にいた誰かに手を振ったに違いない。
うん、きっとそうだ。
僕は頭をブンブンと振って妄想を振り切った。
しかし、その日は一日中、昨日とさっきの出来事が頭の中に思い浮かんできて授業どころではなかった。
「はぁ……とっとと帰ろう」
マギーはバス通学なので僕は今日も一人で家に帰る。一人で歩いていると、どうしても如月さんの姿が頭に思い浮かぶ。
もしかしたら、如月さんは僕に興味がある?
いやいや、そんなわけないだろう。あの如月さんが僕に見向きなんてするはずないんだから。
「眞白君」
僕の判断とは裏腹に、後ろから聞こえた声に僕の鼓動は大きく跳ねた。
「は、はい」
恐る恐る振り返ると、そこには如月さんが笑みを浮かべて立っていた。
あぁああああああっ、今日も可愛いぃいいいいっ!!
「え、えっと、どうかしましたか、如月さん」
「昨日声を掛けなかったから、今日は声を掛けてみたの」
僕が心の声を隠しながら尋ねると、如月さんが嬉しそうに返事をした。
「そ、そうですか……」
「うん……」
そこで会話が途切れる。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!!
尊おすぎて顔を直視できない。
「ねぇ、眞白君。せっかくだし、一緒に帰らない?」
「え……」
我に返ったはずなのに、如月さんから放たれた言葉で再び固まってしまう。
「だめ……かな?」
僕が無言が否定だと捉えたのか、如月さんは悲し気な表情で僕にもう一度尋ねた。
そこでようやく僕の思考が追いついてくる。
一体どういう風の吹き回しなんだ? 僕なんかと一緒に帰るだなんて……あっ、罰ゲームか何かで、僕と一緒に帰らなきゃいけなくなったに違いない。
如月さんの友達がどこかでちゃんと罰ゲームをしているかを確認しているのだろう。断って彼女に恥をかかせるようなことをさせるわけにはいかない。
「い、いや、駄目だなんてそんなことあるはずないですよ。僕なんかでよければ、ぜひ一緒に帰らせてください、あはは……」
「ホント!? 良かったぁ!!」
「っ」
僕が頭を掻きながら早口で返事をすると、如月さんは心底安堵したような笑みを浮かべた。
そこで僕は息を飲んだ。
「綺麗だ……」
彼女の笑顔が夕陽に照らされて光と影が綺麗なコントラストを作り、まるでドラマの一シーンのように鮮明で美しい光景。
僕は何もかも忘れて無意識に小さく呟いていた。
「何か言った?」
「な、何も言ってないですよ。それよりも早く帰りましょう」
「うーん、そうだね」
彼女が少し首を傾けるが、我に返った僕は慌てて話を逸らして先に歩き出す。潜んでいるであろう如月さんの友達を警戒して辺りを見回しながら歩いていく。
「どうしたの?」
「あ、い、いや、なんでもないですよ」
「そう……」
挙動が不審だったせいか、訝し気な表情をする彼女に、僕は苦笑いを浮かべた。
「「……」」
しかし、そこから僕達は並んで歩いているのにずっと無言だ。
き、気まずい……。
うわぁああああっ。こんな時、何を話したらいいんだ?
僕が話せるのはアニメか漫画、ゲームの事ばかり。そんなことに如月さんが興味があるはずがない。
十五年間オタクをしている僕が女の子との話題なんて持っているわけないじゃないか。
助けて、エロい人!!
「あっ、そういえば如月さんは友達と一緒に帰らないんですか?」
たまたま気になっていたことを思い出し、僕は如月さんに尋ねた。
「あ~、皆もう部活行ってるんだよねぇ」
「そ、そうなんですね……」
「うん……」
バツが悪そうな顔で返事をする如月さんにそれ以上ツッコむこともできず、そのまま再び無言の世界へと逆戻りしてしまった。
話が続かない!! 次はどうすればいいんだ? 何か話題はないのか!!
「それじゃあ、私はここだから」
必至に悩んでいたら、気づけば如月さんの家の前に辿り着いてしまった。
助かったような、少し寂しいような、そんな微妙な気持ちになる。
「あ、はい、また明日」
「うん、また明日ね」
僕は何も言えず、そのまま挨拶を交わして彼女と別れた。
終わったぁっ!! 何も話せなかった。
また失敗したぁ……いや、待てよ?
僕は何に失敗したっていうんだ?
如月さんと楽しく話せたところで、僕と彼女の間に何かが起こるはずがないだろう。それなら別に何も話せなくたって問題ないじゃないか。
僕は何を勘違いしていたんだ。変に期待してバカみたいだ。調子に乗るのもいい加減にしろ。
明日以降もし如月さんと下校が被ることがあったとしても、それは家がたまたま近いからというだけで深い意味はない。僕はただの下校の時の話し相手だ。
身の丈の合わない気持ちを切り替えて僕は家に歩き出した。
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