第005話 ストーカー?

「また明日ですぞ」

「またなぁ」


 僕はマギーと別れて学校を後にした。


 家は学校から歩いて十五分程度。この距離がこの学校を選んだ理由の一つであるのは間違いない。


 正直、電車やバスなんかで通学するのは嫌だったので、合格できて本当に良かったと思う。勉強していた過去の自分を褒めたいところだ。


「さて、ウチに帰ったら、ヒトメロの最新話を読まないとな」


 最近滅茶苦茶ハマっているWeb小説の続きが気になるけど、歩きスマホは危険なので家に帰るまでお預けだ。


 他にも気になるアニメ作品やWeb漫画、そして最近ハマっているソシャゲについて思いを馳せながら、まだ慣れない通学路を歩いていく。


 ふとしたところで、周りに誰も居ないことに気付いた。


 ――コツコツコツッ


 だけど、後ろから一つだけ靴音が僕と同じように聞こえてくる。


 え、何、ストーカー!?


 いやいや、何を言っているんだ。僕みたいな陰キャデブオタの後をついてくるような頭の可笑しい人間がいるはずないだろう。


 自意識過剰過ぎる。たまたま誰かが同じ通り道だっただけだ。


 僕は気にしないことにしてそのまま歩き続ける。


 ――コツコツコツッ


 しかし、一分、二分、五分、どれだけ時間が経ってもその足音は僕の後を追い続けてきた。


「え、本当になんなのこれ……」


 気のせいだと思っていたのに、足音が消えることはない。それどころか、少しずつ少しずつその音が大きくなっているような気がする。


 僕はなんだか怖くなって足を速めた。にもかかわらず、足音はついてきている。


 なんなんだよ……!!


 こんな何の取り柄もない僕を誰かがつけ狙うはずないのに、一体誰が何のつもりで後をついて来てるんだ……。


 僕の家は普通の家だ。身代金なんて望めないし、誘拐するような価値もない。


 ――コツコツコツッ


 相手の意図が分からなくて膨れ上がる恐怖に、心臓の音がドクンドクンと脳内で五月蠅く鳴り響く。


 誰か……誰か助けて……。


 臆病な僕は声に出せずに心の中で叫ぶ。


 それから何分経っただろうか。


 ただ、足音はついてくるだけでそれ以上のことは何もなく、前方に自分の家が見えてくる。僕は少し安堵して、自分の後をつけ狙う人物に一言文句を言ってやることにした。


「あの!!」


 僕は振り返って目を瞑って叫んだ。


「え?」


 聞こえてきたのはまるで鈴の音のように軽やかな女性の声。


 僕がゆっくり目を開けると、そこに立っていたのは僕が一番大好きなヒロインと瓜二つのクラスメイト、如月美遊その人だった。


 なんで如月さんがそこにいるのか分からなくて思考が上手くまとまらない。


「眞白君?」

「ど、どうして……」


 きょとんとした表情で首を傾げる如月さん。高嶺の花である彼女が僕の名前を知っていることに驚いて言葉を失った。


「当然だよ。クラスメイトだもん。名前くらい分かるって」

「そうなんですか……それで、如月さんがどうして僕なんかの後を?」


 心外だと言わんばかりの表情で腕を組む如月さんに、事の真相を問う。


「あ~っ、もしかして、私が眞白君の後を付けてきたと思ってる?」

「あっ、いや、その……」


 僕は彼女の反応で自身の失態に気づき、顔から血の気が引いた。


「ふふふっ。そんなことするわけないよ」

「そ、そうですよね……」


 やっぱり僕の自意識過剰だった。ただの勘違いだ。うわぁ、めっちゃ恥ずかしい。穴があったら入りたい……如月さんがそんなことをするはずないのに、変なことを言ってしまった。もう嫌われてしまったかもしれない。


 僕は申し訳なさと自分のアホ加減に彼女を直視できなくて顔を背ける。


「実は私の家ってここなんだよ。この前引っ越してきたの。


 しかし、彼女から返ってきた答えは意外なものだった。


「あ、そうだったんですね……勘違いしてすみません」

「んーん、私も後をつけるみたいになってごめんね。それじゃあ、また明日」

「はい、また明日」


 お互いに頭を下げ、手を振り合って彼女は家の門を通り抜け、僕は家の方に体を向けた。


「あっ」

「ん、どうかしましたか?」


 しかし、思い出したように声を上げる如月さんにつられて僕は振り返る。


「家を教えたの、眞白君が初めてだから」

「……えっ、それってどういう……」


 如月さんは僕の方を振り返り、ニヤリと笑った。


 その顔は思わずドキリとしてしまう程に魅力的で、言葉が遅れてしまう。


 真意を問いただすために声を掛けようとした頃には、彼女は既に家のドアを開け、中に入っていくところだった。


 僕は家の中に消える彼女の背を呆然と見送ることしかできなかった。


「あれ? どういうことだろう?」


 僕はその時、如月さんの「ご近所さんだね?」という言葉に違和感を抱いた。


「彼女とは初めて会ったはずなのに、なんでそんなことを知っているんだろう」


 頭の中にクエスチョンマークが溢れかえる。


 謎は深まるばかりだった。

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