第004話 昨日よりも今日の方が可愛い
「よし、完成だ!!」
数日かけて如月さんをモデルにしたキャラクターの四ページ漫画を描き上げた。
SNSに投稿する。
しかし、投稿した後で項垂れることになった。
「駄目だ……如月さんの可愛らしさの百分の一も表現できてない……」
なぜなら改めて描いた漫画を見返すと、現実の如月さんの方が可愛かったからだ。
全力で描いて投稿前に何度もチェックしたはず。でも、僕の描いたキャラクターは如月さんの足元にも及ばない。彼女はもっともっと魅力的だ。
でも僕の表現力や技術力が足りなくて描ききることができなかった。
なんたることだ……。
僕は悔しさで手を握り締める。
まさか
しかし、これで諦めるわけにはいかない。次はもっと技術力を上げて、現実の如月さんに近づけてみせる。
「おっ。いいねがついた。あっ、リツイートも」
ただ、僕が全力で描いた漫画は、予想以上の反響を得ることになった。
投稿してたった数時間で千リツエートを超え、気づけばいいねも五千くらいついている。
こんな短時間でこれほどの反応をもらったことはない。
「こんな女の子、クラスメイトに欲しい」
「こんなクラスメイトが居たら、確実に惚れる」
「こんなクラスメイトが欲しい人生だった」
しかし、皆、彼女は僕の願望や需要を満たす存在だと思っているようだ。
きちんと「※このクラスメイトは現実の女性をモデルにしています」と注釈を付けていていたはずなんだけどなぁ。
「やはり如月さんはあまりに現実離れした至高の存在ということか」
如月さんは、本当に現実にはあり得ないくらい素晴らしい存在だ。でも、彼女は現実に存在している。
なんとかして彼女が現実に居ることをなんとかして皆に認めさせないと。そのためにも僕のイラストの表現力と技術力をさらに向上させなければならない。
僕は今更ながらデッサンや美術解剖学、それに効果的な見せ方などを勉強をすることにした。
その日のうちにイーゼルと大きなスケッチブック、そして美術解剖学などの本を注文し、次の日から一枚絵を完成させるのとは別に、デッサンと本を読む習慣をつけた。
「なるほど、そういうことだったのか……」
それから一週間ほどしてデッサンの意味が少しずつ分かってくる。解剖学を勉強して描写に活かすことで、より人の体を魅力的に描くことができるようになってきている気がする。
「最初期の頃から見ていますが、最近凄く上達していますね」
「ちょっと急激に成長しすぎじゃないですか?」
「凄い成長スピード!!」
「もしかしてAI使いました?」
などというリプが貰えるようになった。
これも、どうしたら如月さんの可愛らしさを余すことなく描くことができるのかを必死に考えながらデッサンやイラストの勉強をしている成果だろう。
最近の僕は少し停滞していた。如月さんには感謝してもしきれない。
これで前回よりは彼女の魅力を引き出すことができるはずだ。
僕は再び漫画を描いて投稿した。でも、また絶望することになった。
なぜなら、前回よりも上手くなったはずなのに、アップした漫画の如月さんの魅力は、やはり現実の如月さんの足元にも及ばなかったからだ。
「なんでだ?」
あれだけ勉強や特訓をしたのにどうして結果がついてこなかったんだろうか。
僕はひたすらに考えた。
「同士ヒッキー、ヒッキー?」
「ん?」
「先生に当てられておりますぞ」
「え、あ、すいません!! 聞いてませんでした……」
「よーし、眞白、良い度胸だな。暫く立っていなさい」
「はい……」
あまりに考えすぎて授業すらも上の空になるほどだ。しかし、それでも僕は如月さんの魅力を前回よりも引き出せなかった理由を考える。
そして、僕はふと如月さんを見た。
昨日よりも今日の如月さんの方が可愛い。
「あっ、そうか……」
その時、僕はストンと腑に落ちた。
僕が必死に勉強して如月さんの魅力を引き出そうとしている間にも、如月さんという現実が成長しているという事実に。
そうか、それじゃあ、普通のスピードで成長しても如月さんの全てを描き切ることはできない。
まさかこんな盲点があるとは思わなかった。
作品の中のヒロインのイメージは成長しない。しかし、如月さんは現実に存在する人間だ。まだ高校生。成長するのが当たり前だ。
そんな当たり前のことを忘れていた。もっともっと沢山描いて、如月さんの魅力が成長するスピード以上に僕が成長しないと駄目だ。
僕は睡眠時間を削ってさらにイラストの技術向上に明け暮れた。
「三度目の正直だ」
そして、入学から三週間程経った頃、僕は渾身の力で漫画を描き上げた。まず間違いなく今まで最高の出来だと思う。
「前より良くなったな」
僕は漫画をアップして少しだけ安心した。以前よりも如月さんの活き活きとした姿を表現することができていたから。
そのおかげか、イラストの反響は数時間で一万いいねを超えた。
しかし、この程度で満足してはいけない。僕は彼女の魅力をほんの少し表現できるようになっただけに過ぎない。
まだまだ足りない。もっと上手くならねば。
僕は決意を新たにした。
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