情報提供者へのインタビュー(音源あり)
メモ
場所:都内某所、ファミリーレストラン
日時:7月6日
インタビュアー:小幡司(以下、小幡)
情報提供者:井原柊士(以下、井原)
(以下、録音内容)
小幡「では、よろしくお願いします」
井原「よろしくお願いします」
小幡「さっそくですが、失踪した横山美春さんのことについて。まず、横山美春さんはどんな方でしたか?」
井原「そうですね。美春は明るくて楽しいやつで、とにかく自殺するようなタイプじゃないです。精神的にも安定してたっていうか普通でしたよ。まぁ我儘なとこもありましたけど仕事も順調だったみたいだし、犬飼ってるし」
小幡「なるほど」
井原「普段は料理とかしないけど犬の世話だけは欠かさずやってたし、俺よりも犬大事にしてましたけどねぇ。そんなやつが犬ほっといて自殺しますかね」
小幡「確かにちょっと考えにくいかもしれませんねぇ」
井原「でしょ? ていうか俺たちもうすぐ結婚するつもりだったんですよ」
小幡「あぁ、言ってましたね」
井原「親への挨拶もしなきゃなぁって話をしてた途端にこんなことに……まぁ……あ、いやなんでもないです」
小幡「ちなみに、城戸綾奈さんについてはどうっすか? 確か、綾奈さんとも友人でしたよね?」
井原「そうそう綾奈。綾奈にも連絡したんですよ。美春の友達。あいつらすっげー仲いいし、二人で旅行とかもよく行ってましたけど。ちょいちょい喧嘩するけど、ほら喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないですかー」
小幡「社会人になってから友達と喧嘩することもありませんしねぇ。あ、すいません、話が逸れました。どうぞ続けて」
井原「えぇ。まあ、そんな感じなのにその友達にもなんの相談もなく急に死にたくなったりするもんなんですかね」
小幡「まぁー、個人的にはないですね。まず死にたいと思うこともないし……つーか、横山さんって死んだんですか? 行方不明って聞いてますけど。どうして死にたくなる、なんて言葉が出てくるんですか?」
井原「なんとなくです」
小幡「なんとなく、ですか……」
井原「だってもう一ヶ月以上も音信不通ですよ。変な声が聞こえるとか『天使ちゃん』とか、犬置いてどっか消えるとかもおかしいでしょ。生存確率低いかなって」
小幡「……ちなみに、美春さんの過去って何か聞いてません?」
井原「え? あいつの過去?」
小幡「はい、なんでもいいんで。美春さんが昔、どんなことをしていたかとか、どんな子供だったとか、どういう友達とどういう青春時代を過ごしていたのかなど」
井原「………」
小幡「……井原さん?」
井原「さぁ……俺ら、そういう白ける話はしないんで」
小幡「そうっすか。わっかりましたー……はい、お時間いただきありがとうございました」
***
メモ
場所:都内某所、ファミリーレストラン
日時:7月17日
インタビュアー:小幡司(以下、小幡)
情報提供者:女性アルバイト・高校生(以下、匿名)
※井原氏のインタビュー後、アルバイト店員たちから有力な情報を得られそうだと判断したため。
(以下、録音内容)
小幡「すいません、無理言って。あ、これちょっと後で使うんで、録音させてもらいますね。あとで上司に報告書を書いたり動画にも使わせてもらったりしますけど、匿名であることと個人情報とかは伏せとくんでご心配なく」
匿名「はい、よろしくお願いします」
小幡「じゃ、さっそくですが二週間ほど前、私が話していた男性のことについて聞かせてもらえますか?」
匿名「はい……えーっと、その男性ですが、ご友人の女性とたびたび来店されてまして。あ、あの、これ別に私が盗み聞きしようと思ってしたわけじゃないんですけど」
小幡「大丈夫ですよ。店長とかには言わないんで」
匿名「あ、はい。すみません。それでまぁ、私がシフト入ってる時以外にも来られてたみたいなんですね。時間はいつも決まって十八時前後。で、閉店ギリギリまでいるらしいです。あ、私は高校生なんで……あ、これ言わないほうが良かったですかね? 未成年なんで」
小幡「大丈夫。続けて」
匿名「あ……あ、はい。えーっと、それで私はラストまでいるわけじゃないので先輩から聞いたんですよね。ギリギリまでいるって。たまに閉店時間過ぎまでいて、ちょっと面倒っていうか迷惑というか、言うほどだるいわけじゃないんですけど、だって面倒なこと言わないし偉そうでもないしだる絡みもないし。そんなお客さんって認識でした」
小幡「なるほど。彼は友人の女性とほぼ毎日会っていたと。それはいつ頃の話ですか?」
匿名「えーっと、去年、私がこのレストランに入ってちょっとしてからなので、去年の八月から先月までです」
小幡「急に来なくなったんすね」
匿名「そうですそうです。毎日いたから、急に来なくなるとむしろ不審っていうか。別れたとかかなーって思ったんですけど」
小幡「別れたってのは、その女性と? 二人は付き合ってる感じでした?」
匿名「あっ、いえ、そうじゃないんです。お冷を注ぎに行ったとき、お二人が話してたのを偶然聞いてたんですけど、どうもその男性には彼女さんがいるみたいで。で、相手の女性は友達っぽかったです」
小幡「そこで二人は何を話してたか覚えてますか?」
匿名「えーっと、はっきりとは覚えてないですけど、男性は女性のことを……えっと、言っていいんですかね、これ。あの、アヤナって呼んでて。で、アヤナさんは男性をシュウジくんって呼んでて。で、そのシュウジさんはミハルさんって名前の人と付き合ってるっぽかったです。なんで覚えてるかっていうと、私の妹がミハルって名前なんで。なんかつい無意識に会話の内容を聞いちゃったんですよね」
小幡「なるほど、ありますよねーそういうこと。知り合いとか自分の名前が他人の会話に出てきたらちょっと気になっちゃうやつ」
匿名「そうそう! それですそれ! 良かった。それで、毎日ミハルさんのことをアヤナさんに話してました。アヤナさんはそれを聞いて笑ってました。ミハルって本当にバカだよねって。騙されてることも知らずに、シュウジくんと結婚しようと思ってるんだよねって言ってたよ。私、おかしくて笑いこらえるの必死だったんだから……みたいな? あんまりにもひどかったんでよく覚えてます」
小幡「それについてシュウジさんは何か反応してました?」
匿名「一緒に笑ってました」
小幡「うわぁ……ヤバいっすね」
匿名「ヤバいですよ! だってそれ結婚詐欺じゃないですか! しかもアヤナさんって多分、ミハルさんの友達ですよね。詐欺に加担してるわけですよね」
小幡「んー、そうでしょうね」
匿名「だからその相談とかを毎日やってたんだって思うと、最低なヤツらだなって思って。先輩に全部話しましたもん。なんかそれまで笑って接客してたのが嫌になるくらい」
小幡「それで先月くらいから二人は来なくなったと」
匿名「はい。多分、バレちゃったんじゃないですかね、ミハルさんに」
小幡「あー……かもしれませんねぇ……えっと、他になんかあります? 他に二人がミハルさんに対する話をしていたとか、なんでもいいですけど」
匿名「えーっと……ほかは、どうだろ。私も毎日聞き耳立ててるわけじゃないんで」
小幡「あー、そうですか」
匿名「あ! 待って、思い出した! そうそう、最後の来店のときです。ミハルさんがいなくなったって。『天使ちゃん』に連れて行かれちゃったかもって」
小幡「それはどっちが言ってた?」
匿名「アヤナさんです。で、こうも言ってました。あいつ、まだ生きてたのかよって」
小幡「……あいつ?」
匿名「はい」
小幡「誰? 分かります?」
匿名「さぁ……でも、なんかめちゃくちゃ眉間にシワ寄せて言ってましたよ。手は震えてましたけど」
(録音終了)
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