第三十六話 引き継がれし力

 なんだよ、今の話。 

 ちっ、いつもの記憶喪失はどうした。

 バッチリ全部覚えてるし、何もかも聞こえちまったよ。


「しっかしよぉ……」

「うん? どうした?」

「いや、なんか、全部スッキリしたわ」


 どうして母さんの悩殺バディを無視できるのか、とか。

 どうして父さんの名前を誰も知らないのか、とか。

 どうして俺が死なないのか、とか。


「結構大変だったんだぜ? どっかの自警団がサボるからよぉ」

「サボってた訳じゃないぞ? 西の地方、大量発生した人造魔獣を討伐してたんだからな」

「……結局、殺すしかなかったのか?」

「そうだな、本当なら救いたかったんだがな」


 トリニスの野郎も言ってたもんな、治す必要があるのかって。

 やっぱり治らねぇんじゃねぇか、殺さなければ何でもいいってもんじゃねぇんだよ。

 

「ユーティ」

「ん? あれ? ニーナか?」


 綺麗な茶髪を埃まみれにしたままのニーナが、申し訳なさげな顔をして駆け寄って来た。 

 崩れた髪形、寝不足の瞳、ケガもしてるし、全然回復なんかしてねぇじゃねぇか。


 だが、服装だけはさっきまでのドレスではなくて、鎧を身にまとった竜騎士スタイルに変わっている。さすがに水魔術教団みたいなエロさはねぇな、残念。まぁ、今の母さんみたいな水の羽衣一枚とかで側にいたら、トリニス以上に爆発しちまうけどさ。 

 

「どうしてここに?」

「ああ、俺が連れてきたんだ。ユーティと一緒に戦いたいって言っててな」


 一緒に戦いたいって言われてもな。

 斬り刻まれちゃいるが、アイツだってまだ生きてんだろ? 

 強さが半端じゃねぇんだ、俺は死なないからいいけど、ニーナは危険だろ。


「ユーティ、これ」

「これって……願いの鎖じゃねぇか」


 ドス黒いそれは、人の願いの本質を色で表したような、そんな感じの鎖だ。


「トリニスが言ってた、これで繋がれた男女二人は、とても強い願いの力を得る事が出来る。ユーティ、私、一緒に戦う為にこれまで頑張ってきたの。でも、まだ全然だって思い知った。思い知ったけど、逃げずに戦うユーティを見て、逃げちゃダメだって思ったの。これがあれば私も戦える、願いの力を使えば、私も」


 願いの鎖の詳細を知らねぇ訳じゃねぇと思うんだが。

 これは願いが叶ったが最後、見えこそしないが一生繋がっちまう最低最悪な鎖なんだぞ。

 しかも、ニーナの願いは俺に力を与える……繋がった瞬間に叶っちまう。

 二度と俺たちは離れられなくなっちまう、そういう鎖なのに。


「全部、理解してるんだよな」

「うん、一生一緒にいる」


 即答だなぁ、結構重大な決断だと思うんだが?


「願いの鎖は本来、奴隷と雇い主の関係を堅固なものにするための鎖だ」

「全部お義父さんから聞いた。私は、ユーティの側にいられるなら、どういう形でもいい」

「……つまり、俺の願いからも、ニーナは逃げられないって事だぞ?」

「ユーティが私に対して何か望んでくれるのなら、どんなことでも嬉しいだけだよ」


 ニーナの決意は固い。

 願いの鎖、確かにこれを使えば、あのバカにも勝てる力を手に入れられるかもしれない。

 

「ユーティ、決断は急げよ。そろそろアイツも復活するぞ」

「分かった、そうかすなって。ちなみに父さんは一緒に戦ってくれねぇの?」

「俺はヒルネの所に行くよ。可愛い女の子が沢山いるんだろ? しかも水の羽衣一枚だろ? 見に行くしかねぇじゃねぇか」


 なんだよ、一緒に戦ってくれる訳じゃねぇのかよ。

 言い換えれば、もう心配してないんだろうって意味なんだろうけどさ。


「……ふふっ」

「ニーナ?」

「あははっ、おかしい、やっぱり親子なんだね。お義父さん、ユーティそっくり」


 似てるかぁ? どちらかって言うと父さんが俺に似てるんだよ。

 

「ユーティ」

「……分かった。いつまでも待たせてちゃ、ダメだよな」

「そうだよ、ユーティは女の子を待たせるような男の子じゃないでしょ? デートの約束したら三時間くらい前から待ち合わせ場所にいて、精一杯できるお洒落をして、デートコースを既に何通りも決めてて、相手をどれだけ喜ばせるかに全力を注ぐ……そんな、男の子でしょ?」


「正解」

「やったぁ! という訳で、正解者から願いの鎖を贈呈しましょう!」


 なんだよこの茶番、でも、こういう茶番も悪くねぇな。


「ニーナ」

「うん……ご主人様、私を大事に扱ってね」

「ご主人様とか、俺とニーナの関係は変わらねぇだろ」

「変わるよ……私たちは、いつか変わる」


 ――夫婦という関係に――


 笑窪が出来る可愛らしい微笑みの後、ニーナは鎖の先端を自分の手首へと押してる。

 沈む鎖、それを見て、俺も鎖の先端を自分の手首へと押し当てた。


 長さにして百メートルくらいはあったはずの鎖が、どんどんと体内に入り込んでいく。

 とぐろを巻くぐらいの長さはあったのに、今は俺とニーナの間でたわみ、そしてやがて張る。


 途端、俺の中にニーナの願いが入り込んできた。 

 力、とてつもない力が俺を包み込む。

  

 期待に胸を膨らませ、それが叶った時の高揚感。

 どこか山に旅行に行った時に山頂に到着した時みたいな満足感。

 美味しい物をたらふく食べた時の満腹感。

 爆睡して超深い眠りについた時に自力で起きた時の爽快感。

 筋肉トレーニングをしこたました後の達成感。


 心が幸福で満ち溢れていく。 

 そしてそれが純粋な力となり、俺の中にゆっくりと沈む。


「ははっ……これは凄いな。これが願いの鎖の力か」


 どんな道具も使う人次第といった所か、これはやべぇや。

 俺という器から溢れる程の量の魔力、脈打つ血流、密度を増していく筋肉。

 鎖を繋ぐ前の俺じゃねぇみてぇだ、全てが何十年間も修行した後みたいに感じる。


「ニーナ、これなら戦え――――」


 忘れてました。

 ニーナの願いは俺に力を与えること。

 

 俺の願いは? 

 そういえば、ロクに何も考えないまま鎖を埋め込んじまった。


 結果。


「あ、え、あの、え!?」

 

 鎧とかシャツとか、下着とか。

 そういうの全部無くなって、水の羽衣一枚になったニーナが隣にいますね。


 母さん以上にたわわに育ったおっぱいを、必死に水の羽衣が隠そうとしているけど全然隠しきれてねぇ。っていうか水だから先っちょのサクランボさんもハッキリと見えるし、股間の茂みも肌触りの良さそうなぷるんぷるんしたお尻も全部綺麗に見えますね。


「ユーティ……ユーティの願いって、これなの」

「あ、いや、その」

「……別に、ユーティが望むのなら、私はこれでもいいけど……」


 後ろ手にして、背をつんと伸ばしたニーナは、豊満に育ったおっぱいを俺に押し付ける。

 つんつんって触れる先っちょは、なんて言うかコリコリしてるくらいに固い。

 俺との身長差十二センチって感じ、もうめっちゃ色々したい。


「ユーティ! グッジョブ!」

「ば、馬鹿野郎! 父さんは見るんじゃねぇ! ニーナは俺のだ!」

「ユーティ、私、嬉しい……大事にしてね♡」


 あーもう何かめちゃくちゃだよ。

 大事な戦いがあるんじゃなかったっけ? シリアスじゃなかったっけ?

 とりあえずアレだな、ニーナと仲良し♡がしたいから、とっととあのバカ倒すか。


「……羨ましい……」


 とか呟いてる、陰キャ野郎のトリニス君をな。


☆★☆★☆


次話『決着』





※願いの鎖について補足


両端を繋いだ男女二人の願い、どちらかが叶った時に鎖は二人へと特別な力を与えると同時に、叶わなかった方の願いも叶えるというドラゴンボール的な能力を発動させます。という事で宜しくお願いします🙇‍♀️

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