第三十一話 一対数十万

 あー腹立つ、願いの鎖まで使うとか人としてありえねぇわ。

 あれは奴隷に与える逃走防止のアイテムだぜ? 願いという枷を与えて永遠に縛りつける。

 それを俺の幼馴染に……ニーナに付けるとか、信じられねぇぜ。


「あんにゃろう……何もするなって言ったのに、既に結界張ってやがるな」


 うっすらと茶色い膜が空に見える。

 土魔術か、防衛特化の魔術系統。

 あれに魔物が触れたらアウト、願いが叶った認定にされちまう。

 

「ちっ……俺の相手はスタンピードだけにしておきたかったんだが」


 水魔術:ちょう極薄水ごくうす

 アイツの茶色い結界を更に包み込むように、俺の結界を張り巡らす。

 二日目だって漏らさない俺特製の結界だ、走り抜ける魔物ならこれで十分だろ。


「ははっ、こりゃすげぇな」


 スタンピード観測用に設けたんだろうな、簡易な高台を上がると、もう肉眼で見えるぐらいの距離に魔物たちが近づいて来てやがる。見渡す限りが茶色い絨毯だ、ありとあらゆる動物から魔物が、この村めがけて全速力で走り続けてら。


 もう、なにが目的で走ってるかも理解してねぇんだろうな。   

 西の遥か彼方、そこで何かが起こってるんだろうけど、そこを叩いた所でもう収まらねぇ。


 先頭の方向を変えれば……なんて甘い考えも通用しないな。

 ここまで広範囲だとは思わなかった、だが、想定内だぜ。


「水魔術、三角水! 超巨大バージョンだ!」


 一直線に突っ込んでくる魔物に対し、平面で受け止めたら力負けする。

 押し返す必要はねぇんだ、左右に受け流してやり過ごせばそれでいい。

 ロカ村の主要部分、民家や店が集中しているエリア、ここだけは絶対に守り切る。

 結界のサイズ的に見ても、トリニスの馬鹿もそのつもりだったんだろうしな。

 

 ……アイツと作戦が似るのは、なんかムカツクけど。


 ドドドドドドドドドッドドドドドドッ!!!! ゴフッゴフッ! グフフフフッッ! ドガガガガガッガアッッアギャギャギャギャッ!!!! グガアアアアアアアアアァァァァァ!!


「さぁ、来いよ……全部受け流してやんぜ!」


 茶色い絨毯が迫り、そして三角水にぶつかる。

 ドガッバッシャアアアアアアアアアアアアアアン! って爆音と水しぶきが上がった。


 高さ五メートルの水、それを正三角形の形にして、魔物に向いた頂点の部分だけを高質化させる。左右の壁は横に流れる激流だ、飲まれた魔物は自然と方向を左右に分けて走り続ける仕組みだ。


※図解 

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓     

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↙↙↙↙↙↙↙□□□↘↘↘↘↘↘↘↘

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↙↙↙↙↙□□□□□□□↘↘↘↘↘↘

↙↙↙↙□□□□□□□□□↘↘↘↘↘


 予想通り、激流に沿って走り続けた魔物は、次に結界に体を擦りつけながら走り、そのまま二手に分かれてどこまでも突き進んだ。 


 初手は順調、先頭を走るのは素早い小型が多いからな。

 だが、問題は中型、そして遠くに見える大型だ。

 

「あいつ等は、直に殴らねぇとかな」


 足元を何百、何千という魔物が駆け抜ける。

 アイツらが走り抜けた後には何も残らねえ、まさに災害だ。

 

 グギャアアアアアアアアアアァ!!!


 ち、やっぱり中型は側面の激流で足を止めちまう。

 水の中に入って奥に行こうとしやがるか。

 

「水魔術:水気泡すいきほう!」

 

 打ち出した水の球が魔獣の頭を貫く。

 それが二匹、三匹と数が増していき、俺が立っている三角水の中にまで侵入してきやがった。

 流動体である水の弱い所だよな、土とは違い、物理的には侵入できちまう。


 ドンッ、ドンドンッ! と倒していくも、魔物の死体が残っちまった。

 これはこれで不味い、一度死体の山が積みあがったら、それを駆除する事は難しい。

 足場を与えちまったら、もうスタンピードの流れは予測不能だ。


「かと言って、このままじゃ」

「ガウ! ガウガウ!」

「ガウ君か!」


 紫肌の単眼、サイクロプス族の巨乳ちゃん、俺のペット……だった、ガウ君。

 紫色の髪を一つに縛って、にっこり微笑みながら俺の両肩をガッチリと掴む。

 背中に巨乳ちゃんが当たって柔らけぇ……じゃねぇよ! マジ助かる!

 

「頼む! そこいらに転がってる死体、村の中で燃やしてくれねぇか!」

「ガウガウ!」

 

 おお、言葉をきちんと理解して魔物の屍を片付けてくれるぜ!

 筋肉の塊みたいな腕してんもんな! 流石だぜ!

 いつの間にか洋服着ることもちゃんと覚えて……胸と腰を守る布! って感じだけど。

 

 グガァァ!


「っとぉ」


 ドンッ! と水気泡で打ち抜く。


 三角水がかなり押されちまってるな、しかも高質化させた頂点の部分に、激突して死んだ魔物の死体がかなりこびりついてやがる。高質化って言っても、水魔術:金剛ダイアモンド切断カッターで切り刻んでるだけだからな……まったくよ、まだ始まったばかりなのに、既に問題点が山積みだぜ。   

  

「ガウガウ!」

「ん? どうし……げ!」


 三角水にぶち当たって勢いをそがれた魔物が、そのまま超極薄水にぶつかって走るのを止めてやがる! あくまで沿わせる程度の壁なんだ、攻め込まれたらやべぇぞ! その先にはクソ野郎のうんこ色した結界がありやがるからな! そこにだけは触れさせねぇぞクソが!


 クソって何回言ってんだ俺!  

 頼むぜ、銀の杖、アルクシャトリア!


 炎魔術:灰のアル権力を持つものクシャトリア

 杖から生まれし人型の魔物が、足を止めた魔物を一瞬で灰にする。

 俺の魔力を丹精に込めて作ったお手製の杖だ、流石に威力が段違いだな。


 だがしかし、足を止めた魔物の数が多すぎるぜ! 

 何日も走り続けてバテてるのが多いんじゃねぇの!? 

 疲れて休むなんて選択肢あるんかい! 疲れたんなら死ねよ!


 右も左も足を止めた奴らがいるな、こうなったら操舵水で――


「ギャッ! ギャッ!」

「ん、お! ジルバたちか!」


 空からも奇襲かと思っちまったぜ。

 翼をはためかせた三匹の飛竜がぐいぐい顔を押し付ける。

 相変わらずのウロコ肌ですね! いてぇ!


「キャルルル……」

「頼む、アイツらやっつけてくんね!? そうしたらガウ君が片付けてくれっから!」

「ギャウ! ギャウギュア!」

「キュルル?」

「ギャギャ!」


 何か、三匹で相談してんだが。

 ドラゴンって人語理解するの多いはずなんだが、まだ若いから、ダメかも?


「ギャギャ!」

「クルルルルッポウッ!」

「ギャウギャウ!」


 お、理解してくれた! 三匹が左右に分かれながら足を止めたのを攻撃してくれてる!

 助かる、マジで助かるぜ。後方はガウ君とジルバたちに任せて、俺は前方に注力できる。


 ガウ君にジルバ、カダスにゾレント、そして俺。

 大丈夫、やれるさ、これだけの戦力があれば、ロカ村を守り切ることが出来る。


 集中しろ……俺達がこの村を、ニーナを守るんだ。

 相も変わらず、地平線の彼方まで茶色い絨毯が続いてやがる。

 この鉄壁の守りを、何時間でも保持しねぇと。

 

☆★☆★☆


次話『終わらないスタンピード』

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