第二十三話 親子三人でお買い物②

 さぁ買い物に行こうってなった所で、知り合いになんて説明するのかって話になった。

 今となっては武具マーハロンはこの街最大手の武具店だ、ティアの顔は必要以上に広い。

 道行く人半数以上が知り合いである以上、ユアとの生活は隠し通せるものではない。


 しかもユアは俺達のことを当たり前のようにパパ、ママと呼ぶ。

 「外ではパパとママって言っちゃダメだよ?」なんて、まだ小さいユアにいくら言った所で理解なんて出来ないだろうし、理解させる必要もない。


 実際の自分が別の人間だって気付かせる方が、きっと不幸だから。

 ユアはもうラズじゃない、ユア・ベット・トリミナルとして生きた方が、きっと幸せだ。

 正体がバレたら最後、勇者に殺されるかもしれない。

 なんて、情が移った今となっちゃ絶対に許せねぇ。


 子が親より先に死ぬなんて、絶対にあっちゃいけねぇんだ。


「よし、じゃあ、行こうか」

「そんなに気張るなって、俺たちだってもう十六歳だぜ?」

「十六歳で結婚してる人達もいるけど、ユアちゃん見た目五歳だよ?」

「それが何か問題あるのか?」

「あるでしょ。十一歳で子供産む人なんていないよ」

「でも、ティアって十一歳で生理来てたんだろ?」

「来てたけど………………え、なんで知ってるの⁉」

「なんとなく言ってみただけ」


 顔真っ赤にして「ユーティ変態!」って叫ばれたけど、ちょっと考えれば分かるだろうに。

 その頃、俺ってば魔術学校で死んでた頃だぜ? ティアが生理になったとか聞いたら、鼻血だして悶絶してるわ。

 

「もう、ユアに悪影響だから、変なことさせないでよね」

「悪い」

「パパ、ママとケンカ、ダメ」

「喧嘩してないよー、パパがちょっと変態なだけだからね」

「ヘンタイ?」

「ティアこそ変な言葉覚えさせるよなー」


 べーって舌だしてて、ティアってば本当に可愛いでやんの。


 ティアの住まい、長屋を出るとお隣さんと目が合って、ぺこりとお辞儀をする。「ご家族でお出かけですか?」って若奥様が声を掛けてきたので、「娘の洋服を買いに」と自然と返答し、それを相手は当然のように「それは娘さん喜びますね」って微笑んだんだ。


 自然な家族を演じていられてるみたいで、なんか嬉しかった。

 そんなやり取りを聞いていたのだろう、ティアも微笑みながら「いいパパじゃん」って言ってくれたんだ。


 何もかも忘れて、このまま家族三人で過ごすのも悪くねぇかもしれねぇな。

 勇者様御一行が何か悪巧みしてるからって、俺たちの生活に悪影響が出る訳じゃないし。


「パパ、ユア、可愛い?」

「めっちゃ可愛い、どこのお姫様かと思ったぜ」

「……」


 新しい服を試着中の娘を見るとか、幸せすぎじゃね?

 返事の無いままにカーテンを閉めたあと、次に開いたらまた違う服装のユアがいた。


「パパ、これは?」

「めっちゃ可愛い、なに着ても似合ってるよ」

「……」


 こんな感じで試着を数回繰り返したあと、一緒に試着室にいたティアがたまらず口を抑えながら出てきて、俺にこっそり耳打ちする。


「パパが全部可愛いって言うから、どれにしたらいいのか分からないんだって」

「なんだそれ」

「一番がいいんだってさ、全部可愛いのにね」


 ティアの言う通り、全部可愛い。

 俺の感想だって本音そのままだぜ?

 

「これはパパっ子に育っちゃうかもしれないね」


 にひひと口に手を当てながら、「ママ!」って呼ばれてティアは試着室の中に。

 わずかに開いたカーテンから見える試着の山、もう全部買っちゃえよって、暴言みたいな言葉を満面の笑みで思わず言っちまった。


 結局、ユアはチェックのジャンバースーツに半袖のシャツ、花柄の帽子をかぶってご満悦そうに往来を闊歩してる。ティア曰く、スカートはまだ早いんだと。色々と見えちゃうとダメだからって、子供がどれだけ動いても大丈夫な洋服をチョイスしてくれてた。


「こんなに買っちゃって」

「全力って言っただろ。それに何だかんだで金はある」

「あー……アレのお金ね」

「それ以外にも実は結構ある」

「そうなの?」

「こう見えて俺、村一個統治してるからな」

「村?」

「勲章貰った時に褒賞として、村の統治権一緒に貰ったんだ」

「褒賞として……勲章? え、ユーティって実はすごい人?」

「凄くはねぇと思うぞ、研究が楽しくて気づいたら貰ってた感じだからな」


 狙ってた訳じゃねぇし、俺なんかが村長じゃ大変だろうと思って、現村長に全委任にしちまってるけどな。国に納税した分のいくらかが、俺の取り分として年に一回送られてくる。物資だったり金だったり、適当に実家に送ってたけど、そういや倉庫とか整理しないとかな。


「なんにしても、ユアに不自由ない暮らしをさせるだけの稼ぎはあるって事だな」

「……そっか、私たちめっちゃ安泰じゃん」

「店長と村長ってか? そう考えたら裕福なのかもな」


 とはいえ限りある財産だからって、あまり無駄遣いはしないようにティアに釘を刺される。

 とても優しくて心温かい釘で、心がほっこりしちまうよ。


「ティア」

「ん?」

「ティアも、その服似合ってるぜ」


 いつもお店のドレス制服だったから、今日はティアの私服も購入したんだ。

 薄手のロングスカートにサンダル、長袖薄手のシャツにユアとおそろいの花柄帽子。

 細身のティアにスッゲー似合ってて、見た瞬間に購入を決意した一式だ。


「急に褒めないでよ、心の準備とかさ」

「大丈夫だよ、そのうち慣れるから」

「そのうち慣れるって」

「毎日言ってやる、顔を合わすたびに可愛いってな」

「……はぁ、なんだか暑くなってきたわね」

 

 首筋まで赤くして、パタパタ手で仰いでやんの。

 春に卒業したんだから、そろそろ初夏の陽気って奴なのかな。


「パパ、ん」

「お、抱っこか? じゃあ肩車しようかな」

「わぁ、ユア、たかい、ね!」

「そうだろー? パパはこう見えて背の高いイケメンだったりするんだぞー?」

「きゃっきゃ! 高い! ユア! 楽しい!」

 

 あーあ、勇者さんよ。

 願うならば、このまま何もしないで静かにしてくれねぇかな。

 なんだかんだ言って、この暮らし結構気に入り始めてんだけどさ。


 ダメかな。


 ……ダメだよな。


 くそっ、下手くそな変装しやがって。

 俺たちのどこが『自然な家族』だよ。

 家まで特定されてるって事は、今晩あたり動くな。


 守りきってやるよ。

 俺の全力をもって家族を守り抜いてやる。


☆★☆★☆

 

次話『対峙』

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