第二十二話 親子三人でお買い物

 ちゅんちゅんってスズメさんの鳴き声で目が覚める。

 はぁ、よっぽど深い眠りだったのか、なんか記憶が混濁してら。

 俺ってばどこで寝たんだっけ? それすらも理解出来ないくらいボーっとしてる。


 しかし眠いものは眠い、幾つになったって寝起きの眠気には勝てんのだ。

 という訳でもう一回寝よ、二度寝とか最高だな、人生で一番幸せを感じるよ。

 ぬくい毛布を掛け直して、ぐっすりと寝ましょうかね。


「すぅ…………すぅ…………」


 毛布を掛け直そうとしたら、目の前に超可愛い女の子がいた。

 真っ赤な髪の毛がいつかのように重力に従って、はらりと落ちる。

 

 閉じた瞼にお化粧なんていらないくらい綺麗な肌、ピンクの唇が僅かに開いて、彼女の微かな寝息を俺へと伝えてくれる。


 一瞬、現状が理解出来なかった。

 目の前で寝ている可愛いのは一体誰だ。

 寝てるのに良い匂い、なんで俺はこんな子と一緒に布団に入っているのか。


「うー」


 じっと見つめていた時に、いきなり後頭部を誰かに蹴られた。

 小さい足、それが何かと理解する間もなく、俺の唇は目の前の彼女と重なりそうになる。


 ――瞬間、全てが雷光のように鮮明になった。


 ティアじゃねぇか、目の前にいるのティアじゃねぇか。

 昨日『三人一緒に寝よっか』とか言いだして、俺、ユア、ティアの並びで寝たはずなのに。

 

 あっぶねぇ! キスするところだった!

 ギリで避けたから大丈夫だったけど、あっぶねえ!

 

 しかし……寝顔が本当に可愛いこと。

 この至近距離で見てて可愛いんだから、マジモンで可愛いんだろうな。

 俺、起きてから何回ティアのこと可愛いって思ってんだろ。溜まってんのかな?


 まったく、眠気がどこかに行っちまったぜ。

 カーテンの隙間から光が漏れてるし、もう朝だし、起きるか。


「しかし、可愛い顔して寝るんだな。一生見てられるわ」

「……ん? うーん……」

「ティア、起きろ、もう朝だぞ」

「うーん……今日お休みだから大丈夫」

「起きないとおっぱい揉むぞー」

「……揉めば?」

「え?」

「どうせ、そんな意気地ないくせに」


 寝起き悪い系女子だったのかな? なんか想定と違う返事が来たんだが。

 何もしないでいると、ガバっとティアが起き上がった。

 横にいる俺を見て、むすーっとしてる。なんで?


「ユーティさぁ……」

「うん」

「……なんでもない。朝ごはん簡単でいいでしょ? ユアも起きて、お布団片すよ」


 俺の後頭部に蹴りを入れたユアは「ねみゅい……」言いながら毛布にしがみついてる。

 朝は弱い派だな、こりゃ三人揃って朝に弱そうだ。


 それにしても、ティアは何を言いたかったのだろうか。 

 うーん、分からん。


 簡単でいいでしょって言ってたティアの作る朝ご飯は、目玉焼きにハム肉、シチューに漬物と手の込んだ料理ばかり。ユア用に柔らかいお粥も作ってあったみたいだけど、ユアはもう普通のご飯も食べれるみたいで、俺とティアの朝ご飯を分けてあげたらメッチャ喜んでた。


「料理、かなり上手なんだな」

「一人暮らしが長かったからね」

「二年、だっけ?」

「そ、丸々二年。十四歳から十六歳まで、ずーっと」

「大したもんだな」


 作り置きだっていうシチューは味がしみ込んでて、メッチャ美味い。

 レベル段違いだぜ、これ母さんが作る料理よりも美味い可能性あるな。


「実際には、両親がレミに掛かりっ切りになっちゃって、もっと前から家に一人だったけどね」

「小さい時から、ずっとレミと二人っきりだったのにな」

「うん……だから、今こうして三人でご飯食べるの、なんか幸せ」


 なんでもない事に幸せを感じるんだな。

 昔のティアは勝気なイメージだったけど、今はやっぱり、どこか大人だ。

 こんなティアだからこそ、お店の店員さんも全員が協力してくれるし、守ってくれる。

 だけど、やっぱり孤独なのは変わらない、このユニマスでティアはずっと一人だったんだ。


「こんなので幸せ感じるんなら、毎日一緒にご飯食べてやるよ」

「……ひゅ」

「どした?」

「ううん、何でもない。毎日だって、パパ凄いね」


 毎日ご飯食べるのが凄いことか? それでもユアと二人「ねー」って言葉合わせてる。

 

「そういえばなんだけどさ」

「おう」

「パパは、私のことママって呼ばないの?」

「……」

「やっぱり、恥ずかしい?」

「恥ずかしいって言うか、普通の夫婦でも呼ばなくね?」

「ヒルネさん達は、パパとママって呼び合ってなかった?」


 呼び合って、ましたね。

 でも、なんか無駄に照れるんだよな。

 母親のことも成長するにつれ『母さん』って変えたし、ママって言葉自体が恥ずかしい。

 でも確かに、父さん母さんのこと『ママ』って呼んでたよな。


「じゃ、じゃあ……一回だけ」

「うん」

「…………えっと」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「…………マ、ママ」

「パパ♡」

「ちょっと待って、やっぱ無理!」

「パパ、もう一回」

「ぐぅっ、ママ!」

「うん、パパ上手に言えたね」

「やめてくれ、なんか、なんかスゲェ恥ずかしい! あ、食器洗うだろ⁉ 俺が洗うからな!」

「ほら、ユアちゃんも、パパにありがとうって」

「パパ、あいがと」

「~~~~~~ッッ! ママにも感謝するんだぞ!」


 俺何言ってんの!? 段階を色々と飛び越えてねぇ!?

 あれ!? これってどういう状況だったっけ!?

 勇者だよな、俺は勇者のたくらみを止める展開だったよな、間違ってねぇよな!?


「パパ、こえも洗って?」


 ぐぅぅぅぅぅぅぅ! 可愛い、娘可愛い! 娘じゃねぇよ! だけど可愛い!


 待て、一回落ち着け、よくよく考えてみたら今のユアの肉体を構成しているのはほとんどが俺の血肉だ。つまりは俺の分身みたいなものだ、それって子供って言えるのか? うん、言えますね。大体の子供が自分の血肉で出来上がってますね。って事は娘か。


 どこでどう検査しても俺の娘って証明されるわな。

 あれ? 俺って童貞だよな? 娘いるわけ? まだエッチしたことないのに?


「パパ、手が止まってるよ」

「あ、ああ、すまねぇ」

「せっかくのお休みだけど、今日はお買い物行かないとだね」

「お買い物?」

「そ、ユアちゃんの下着とか洋服とか、色々買ってあげないとだよ?」


 そうだった、今のユアは俺のシャツ一枚を上から着てるだけだった。

 女の子にこんな服装はダメだよな、ましてや俺の娘なんだ、他の野郎に見せる訳にはいかねぇ。

 

「全力で買おう」

「全力って、子供の成長は早いから、上下五着くらいにしておこうね」


 いつの間にか側にいるティア、なんかもう距離が近すぎてヤバイ。

 このままティアと結婚……なんてのも、思わず妄想しちまうぜ。


「パパとママ、仲良し?」

「うん、パパとママは仲良しなんだよ? ユアちゃんも仲良ししようね」

「仲良し、好き。ユアも?」

「そう、ユアちゃんのことも大好き。ユアって言えたね、偉いね」

「ユア、ユアって言えうお?」

「うん、上手上手。今度読み書きも教えてあげるからね」


 ひょいって抱き上げて頬をスリスリしてる。

 ガチ目に仲良し親子にしか見えねぇ。

 ティアの言う通り、幸せって身近にあるんだなぁ。


☆★☆★☆


次話『親子三人でお買い物②』


 幸せ過ぎて買い物まで行けませんでした。 

 すまない……! 

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