第十九話 忍び寄る悪夢

 武具マーハロンへと営業妨害をしていたお店、その名もラズベリーハウス。

 釈放の翌日、俺一人で様子を見に行ったところ、普通にお店は開店していたものの、店主であるラズの姿はどこにもなかった。


「急に店長いなくなっちゃったし、自警団の人達もお店に来たりして大変だったの」

「私達のお給料とか、ちゃんと出るのかな? そこだけが心配」

「店長いなくても開店してて大丈夫なのかって? ダメよダメ、権利がないもん。近い内に閉店すると思うよ」

「いま店長がどこにいるのか? それはコッチが知りたいくらいよ」


 店員に話を聞くも、誰もラズの行方を知るものはおらず。


「勇者? 勇者ってトリニス様? ウチのお店に来るわけないじゃない」

「あの人達が持ってる武器知らないの? 超高級品なんだからね?」

「中には値段が付けられない装備もあるとか、ホント凄いんだから」


 勇者との絡みを聞いてみるも、誰も何も知らねぇの一点張り。

 誰がラズを迎えに来たのか、自警団も極秘情報とか言って教えてくれねぇし。

 もしかしたら全然的外れな予見なのかもしれねぇな。

 そんな事を考えながら、今日も今日とて俺は用心棒としてカウンターにいる。


「もう犯人は捕まったんだし、ユーティ君がそこに立たなくても大丈夫なんじゃないの?」

「いやいや、コマルさんが襲われた時に側にいられなかったら、俺が後悔しちゃいますから」


 相変わらずな巨乳ちゃん、コマルさんが襲われなくて本当に良かったぜ。

 

「それに給料も貰ってますからね、しっかりと貰った分は働きますよ」

「あ、そういう形だったんだ。てっきりボランティアだと思ってたよ」

「さすがにボランティアじゃ俺は動きませんよ」


 ボランティア、みたいなもんだけどな。 

 ラズのお店は閑古鳥が鳴いてたけど、こっちの店は繁盛しまくってんな。

 ティアも忙しそうに店内駆けずり回ってんぜ。


「にしても、この店は店員もお客さんも女の人ばっかりですよね」

「ウチはレディース専門店目指してるって、店長言ってたからね」

「あ、そうだったんですか?」

「そうよ? この街って他にも武具店あるじゃない? だから差別化が必要だって店長言っててね。それで、女性冒険者を応援しよう! って感じのコンセプト営業なんだけど。まさかそれなのに同業他社が営業妨害仕掛けるとか、ホント、世も末ね。お陰でユニマス大きいのに、武具店がウチだけになりそうな勢いでさ。お店が忙しいのは良いことなんだけど」


 確かに、お店は清潔感漂ってるし、女の人だらけの店内なら女冒険者も入店しやすい。

 ラズのお店はどちらかと言うと男向けの武具が多かったもんな。


 一生懸命差別化を図ろうとする、だったらそれに乗っかるのが商法としては正しそうなもんだが、ラズはそれをせずにこの店を潰しにかかっていた。しかも夜間に強盗をしてまで。

 

 んー、やっぱり納得いかねぇ。

 ラズと会話した感じ、そこまで馬鹿そうには思えなかったんだがなー。

 俺の息子ちゃんもエレクトリックパレードしてたし、イイ女なのは違いないんだが。


「時に質問なんですけど、コマルさんってこの街に来た勇者って見たことあります?」

「勇者って、トリニス様のこと?」

「あ、様がついちゃう感じですか」

「そうよ? この街の救世主だもん。ほら、この街って中継都市だから、流通の為に特別大きな城門とかがある訳じゃないじゃない? だから魔物が攻め込んできた時には、自警団のバリスタの他に防衛魔術が発動するんだけど、その時だけは発動しなくてね。ヤバかったんじゃないかなぁ、四方八方から魔物の叫び声がしてたんだもん。勇者様たちがいなかったら、多分ユニマス壊滅してたんじゃないかな?」


 ……ほう。


「防衛魔術が発動しなかった原因とかは?」

「さすがに私は知らないなぁ、そんなに魔術詳しくないし。店長なら知ってるんじゃないかな? 商工会とかの集まりとかで話題になりそうだしさ」


 じゃ、店長とカウンター変わるねってコマルさんはニッコリ笑顔でティアの名を呼ぶ。

 コマルさん綺麗だし巨乳だしイイ人だなぁ……薬指の指輪が無ければなぁ。


「なに? 見ての通り結構忙しいんだけど」

「ああいや、別に後でも良かったんだけどよ。前にこの街が魔物に襲われた時に、防衛魔術が発動しなかったらしいじゃん? その原因が何かなーってコマルさんとちょっと話しててな」


 接客とかって結構大変なんだな、ティアの前髪が汗で額に張り付いてら。

 それを指摘したら、ハンカチで拭きふきして、ふぅっと一息。


「ドリンク、飲む?」

「ありがと、ユーティにしては気が利くじゃない」

「俺はいつだって気配りの王子様だぜ?」

「はいはい。ん、美味し。防衛魔術の件だっけ?」


 きらり輝く赤い瞳、可愛い。


「おう、商工会とかで議題に上がるだろ? この街の安全性はどうなってるんだー、みたいな」

「凄かったわよぉ? 商工会だけじゃなく、この街のありとあらゆる面々が町長に文句言ってたからね。場合によってはお店を移転する事も考えた人もいたみたい。でも、勇者様御一行が防衛魔術を張り直して、更に堅固なものにしたから、その話は無くなったみたいだけどね」


 更に堅固なものに……か。

 確かに、俺がこの街に来る時も、魔物の一匹すら見なかったもんな。 


「ちなみに、防衛魔術が発動しなかった原因は?」

「老朽化って言ってたかな。この街自体が結構古いしね」

「ちなみに誰調べ?」

「勇者様御一行の一人、なんかメガネかけた魔術師さん」

「ふぅん……そこでも絡んでくるのか」


 胡散臭さがレベルアップしましたよと。

 そこら辺の勇者が描いてた絵が見えてきたな。

 多分他所でも同じことしてんだろ、そんな事までしてヒーローになりたいもんかね。


「なぁティア、時間できたら一緒にお出かけ行かねぇか?」

「お出かけ? どこに?」

「防衛魔術の拠点って所」

「え、結構遠いよ? 歩いて行ったら数時間は掛かっちゃうよ?」

「大丈夫だよ」

「大丈夫って、馬車を用意するにもお金かかるし、時間だって」

「だから大丈夫だって、俺がこの街にどうやって来たのか、教えてやっからよ」


☆★☆★☆


「はわわわわわ! 何これすっご!」

「速いだろ! 俺が考えた蒸気四輪だぜ!」


 うーん、我ながら素晴らしい発明品だ。

 馬なんか目じゃねぇな、あっという間にユニマスが遠ざかっていくぜ。


「ユーティ! これ売れるって!」

「売れねぇだろ、蒸気魔術使える人間が何人いるって」

「今は機械があるじゃない! 小型化すればきっといつか売れるようになるって!」


 根っからの商売人だな。

 それにしても、ティアの胸が絶壁すぎるだろ。

 後ろからしがみついてくれてるのに、柔らかいものが何も無い、むしろ硬いぜ。


 昔から、貧乳だったもんな……。


「ユーティ!」

「あ、はい」 

「もっと速く出来ないの!?」

「もっと速く? できるぜ?」

「じゃあお願い! めっちゃ楽しいー!」


 日頃のストレスとかあったんかな。

 まぁ、ティアが喜んでくれるなら何より。


「じゃあ、手首掴んでと」

「え?」

「かっ飛ばして行くかー!」

「ちょっと待って、水魔術で加速!?」


 もう遅い。

 水魔術、発動!

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おー! すっげー加速する!」

「ユーティ! 止めて! 恥ずかしすぎる!」

「あっはっはっは!」


 なんて、二人で馬鹿やってた瞬間。

 

 ――――ッ!


「うわぁぁっと! 危ないよユーティ! 急に止まらないで!」

「すまねぇ……だが、いま、ラズを感じたんだ」

「ラズ? ラズって、ラズベリーさんのこと?」

「厳密に言えば、ラズの中に入れてた俺の唾液だな」

「唾液」

「ちょっと探知してみてもいいか」

「ユーティ」

「なんだ」

「唾液ってどういうこと」

「唾液って言えば、唾液……あ、勘違いするなよ? 俺が生き延びるために必死に選択した結果だからな?」

「ふぅん……別に、細かく聞かないけど」


 今からシリアスモード入るんで、ラブコメモードはちょっと置いといて欲しいんだが。


 さてはて、あの家だな。

 林の中にぽつんと佇む一軒家。

 なぜあんな場所から俺の唾液反応があるんだか。


 嫌な予感しかしないぜぇ……。


☆★☆★☆


次話『裸の女』


シリアスモードは早めに投稿していきます(`・ω・´)ゞ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る