第十七話 獄中生活も悪くない。

 あの後、俺が捕縛されている所にユニマスの自警団、更には王都や港で勤務してるはずの警衛隊の奴等まで乗り込んできて、ラズを始めとした武具マーハロンに営業妨害掛けてた奴等は軒並み逮捕、雷魔術師や変態ハゲゲイ、他数人も仲良くお縄を頂戴した。


 俺も。


「ちょっと待って!? 俺ってば被害者よ!? あいあむジャスティス!」

「犯罪者は全員、そう言うんだ」


 気怠そうに言うんじゃねぇよ! 

 自警団のチョビヒゲクソジジイが!


「椅子に金具で拘束されてただろ⁉」

「君なりの自首の形なんだろ?」

「あんなの自分で出来るかッッ! 大体罪状は何よ!?」

「猥褻物陳列罪、並びに婦女暴行、更には武具マーハロンへの不法侵入だな」

「猥褻物ちんちん罪じゃねぇよ! 俺が裸だったのは脱がされたからだよ!」

「自分で脱いだ可能性、あるんじゃないかな?」

「ねぇよ! しかも婦女暴行って被害者誰だよ!」

「シャイマックス・ラズベリーさんだな。お前に強制的に潮を吹かされたとか」

「あれはッッ!!! …………あれは、あれはだな…………」


 潮魔術:ホエール愛液ラブシャワーで吹かせました。

 なんて言ったら逆効果にしかならねぇ、婦女暴行魔術じゃん。

 母さんなら「美しいからしょうがないですね」で済むかもしれねぇけど。

 

「反論できないと」

「いやだがな!」

「私達が踏み込んだ時に、ハイパー勃起状態だったじゃないか」

「ハイパー勃起言うな!」

「ハイパー勃起……と」

「書記官! 下らねぇことを記録するんじゃねぇ!」

 

 カリカリカリカリ音が聞こえるんだよ! 

 こんなの記録されたら黒歴史じゃ済まねえぞ!


「ともかく! お前さんはラズベリーさん、及びマーハロンさんからの被害届により、二週間はここから出られないと思え! その後王都にて裁判、罪が裁かれる事となる!」

「ちょっと待って! 百歩譲ってラズは分かる! だがティアの方はおかしいだろうが!!!」

「夜間に不法侵入したと聞いているが?」

「俺はティアに雇われてた用心棒なんだよ! あの日だって水魔術で張った結界がだな!」

「マーハロンさんからの伝言だ『死ぬまで出て来るな、この変態』だそうだ」

「ティアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッッ!!!!!!!!!!」



☆★☆★☆



 嘘でしょ。


 ゴツイおっさん二人に腕掴まれて、無理矢理獄中服に着替えさせられて、なんか自分の名前と番号が書かれた板持たされたんだけど。


「わぁ、白と黒のボーダーがこんなに似合う男の人、初めて見ました」

「あの……マジ? これドッキリじゃなくて?」

「マジです。あ、私女ですけど、これでも相当強いので、手出ししないで下さいね」


 じゃ、撮影魔術発動しまーす。

 

 パシャッ


「はい、綺麗に取れました。じゃ、あとお願いしまーす」

 

 わぉ、さっきのマッチョマンたちに両腕掴まれちゃった。

 あれ? これってマジで牢獄行き? 

 わぁー、鉄格子の牢屋だー、生まれて初めて見たー。


 へぇー、そうやって開くんだね。

 あ、俺が中にいるのに鍵閉めちゃうんだ。

 うふふ、ここで二週間、その後王都で裁判かー。


「ふざけんな」

「だってしょうがないじゃない、いきなり目の前に裸の女とユーティがいたんだよ?」

「だからって不法侵入はないっしょ? お陰で俺ってば獄中よ?」

「あれは……その、ちょっとしたお仕置きって奴だから」


 ちょっとしたお仕置きで立派な前科者になりそうなんですが?

 ティアがすぐに面会に来て謝罪してっけど、俺じゃなかったらヤバかったぜ? 


「とにかく、もう私の方は取り下げたから」

「ありがとさん、後はこっちで何とかするわ」

「何とかって……ユーティ、貴方ラズベリーさんに何したの? 椅子に拘束されてたでしょ?」

「拘束されてたね。自警団のジジイには俺なりの自首の形って言われたけど」

「まぁ、確かに」


 確かにじゃねぇ。もう、討論する気力も湧かねぇわ。

 ……っし、こんなもんで大丈夫かな。

 遠隔操作だと魔力消費が半端ねぇんだわ、あー疲れた。


「何してるの?」

「ラズに俺への被害届を取り下げさせてた」

「え? なにそれ?」


 無駄に抵抗しやがって。

 あの女、最後の最後まで首を横に振ろうとしてやがったな。

 あー良かった、アイツに童貞奪われなくて。

 ビジネスで失っていいもんじゃないんだよ、全く。


「まぁ、もう受理されてっから大丈夫だろうけど。あとは真偽を確かめられて、数時間後には釈放かな。ったくよぉ、あの時ティアが残っててくれれば、こんな面倒にならなかったのに」

「……ごめんなさい」

「いいよ、もう終わったことだし。そろそろ時間だから、牢獄部屋戻るわ」

「私、ユーティ釈放されるまで近くにいるね」

「やめとけ、俺が釈放されるまで何時間かかるか分からねぇぞ」

「別にいいよ、何時間でもユーティのこと待ってるから」


 店は大丈夫なのかよって思ったけど、ラズの言葉もあるしな。


『マーハロンをこの手で潰せるんだ、積年の恨みをようやく』

『あと数日もすれば武具が大量に必要になる』


 ラズの積年の恨みってのが何なのか、武具が大量に必要になるって何なのか。

 ティアは俺が守れる、手の届くとこにいた方がいいのかもしれねぇな。


☆★☆★☆


 結局、俺が牢獄を出た時には、面会から四時間が経過しちまっていた。

 途中からうっすらと気付いてたけど、ラズの姿も牢獄から既になく。

 聞けば、身元引受人がやってきて、ラズを引き取っていったのだとか。


「そんな、私ラズベリーさんへの被害届、取り下げてないのに」

「つまり、そういう事が出来る連中だって事だろ?」

「そういう事が出来る連中? そんな人がユニマスにいるの?」

「いるじゃねぇか……たった一人だけさ」


 そういや、まだ顔を見てなかったよな。

 何を企んでるんだ? 今のところ怪しい匂いがぷんぷんしてるぜ?


 巷で噂の勇者さんよ。


☆★☆★☆


次話『スタンピード』

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