第十二話 いらっしゃいませ、お客様、お胸が少々大きいようでございますね。

「いらっしゃいませ、お客様、お胸が少々大きいようでございますね」

「はい?」


 黒髪ロング清楚系剣士、そして巨乳! 間違いなく巨乳! 

 胸元から見える谷間が問答無用で俺を誘ってやがるぜ! 


「ダメですよお客様、ご自身の身体にフィットした鎧、胸当てを装備しませんと、大切なおっぱいさまの形が崩れてしまわれます。世界に二つしかないお客様の美乳なのですから、きちんとお金を惜しむことなく全力でお守りしませんと」

「そ、そう?」

「お客様、こちらの胸当てはいかがでしょうか?」

「胸当て……え、六万リーフもするの」

「私の見立てでは、お客様のおっぱいにはこのサイズが一番かと」

「あ、あはは……あー、はい、ありがとうございますね」


 すすすーっていなくなっちまった。 

 チッ、一緒に試着室に入ろうとしたのに。


 お、次の獲物発見、真っ白なローブを頭から被ったピンク髪。

 見抜け、俺のサーチアイ! 上から90、62、95、最高ですね!


「お客様は魔術師でございますか?」

「えひ? え、あ、はい」

「奇遇でございますね、俺も水魔術が使えるんですよ」

「そ、ですか」

「同じ魔術師として、こんな分厚いローブはおススメできません。お客様の場合は、そうですね……こちらの水魔術教団風の網タイツスーツはいかがでしょうか? 体内に秘められた魔力を思う存分発揮すべく、股間と胸部先端以外は全て網タイツ仕様となっており、お客様の魅力も増大すること間違いなしでございます」

「え、こ、これ、服、ですか? ほんの数センチくらいしか布面積がない……」

「魔術師は相手を惑わせてなんぼですよ? 大丈夫、貴女の美体はこれを装備するに相応しい」

「え、え……えと、あ、は、はい、分かりました。購入してみます……」


 ふっ、後は店員のお姉様に任せればOKだな。

 これで世の中に新たなエロ魔術師が一人誕生したぜ。

 

「ユーティ! アンタ何やってんの!」


 スッパーンッ! って良い音響かせやがって! クッソ痛いんだが!?


「ティアお前、人の頭ハリセンで叩くんじゃねぇよ!」

「叩くよ! 用心棒依頼したけど、接客しろなんて一言もお願いしてないよ!?」

「だって暇なんだもん!」

「平和でいいじゃない! 二階の事務所にいなさいよ!」

「お、道行くお姉さん発見! おねえさーん! その腰つき歩くインモラルって言われませーん!? ウチの店でこのフリルのついたガーターベルトとか購入したら、もっとエロティカな感じになりますよ!? なんなら今晩の相手に俺とかどうですか!?」

  


☆★☆★☆



「一言でも喋ったらクビにするからね」

「ふぁい」


 久しぶりにぼっこぼこにされたぜ。

 三十万の損失を売り上げで補填してやろうと頑張ったのに、残念。

 

 ――はい、その商品でしたらこちらにご用意がございます。

 ――いつもありがとうございます、矢の補填でございますね?

 ――どのような場所に向かわれるかによって、鎧や武器は適正がございます。


 店員さん達、可愛いだけじゃなくて一生懸命に接客してんだなぁ。

 ユニマスの中でもこの武具マーハロンは、頭一個抜けて売り上げがありそ。

 置物のようにカウンター横に立ちながら、店内の姿身をちらり。


 耳が隠れる程度に伸ばした母さんと同じ色の青髪、右目の上あたりの一つまみ程度だけ、父さんと同じ燃えるような赤色をしている俺の髪。赤い方だけ伸ばしてるから左右で長さが違うけど、それもまたカッコいいと個人的には思っている。


 瞳の色は青基調の中にほんのりと中心部分が赤い、ぱっちり二重だ。

 他はきっちりと整ってるし、眉だって手入れしてる。


 イケメンだよな、俺。

 ふっ、自分で自分に惚れちまうぜ。

 

「ねぇねぇ、ユーティ君」


 店員の一人が俺に声をかけてきた。

 巨乳さん……すげぇな、名札がおっぱいの上に乗ってるぞ。

 

「えと、コマルさん、ですか」

「あは、名札見たんだ? そ、マルグレット・コマル、皆からはマルマルって呼ばれてるよ」


 肩くらいの茶髪でほんわかした感じの店員さん。春先のニットセーターにスカートもウール素材で、全体的に暖色系で固めている大人な感じ満載だ。


「ユーティ君って、店長さんとはどんな関係なの?」

「ティアとですか? ……幼馴染なだけですね」

「え、そうなんだ? 付き合ってたりしてないの?」


 ちょっと離れた場所で接客してるティアを見る。

 昔はロングだった髪を、バッサリと切ってショートにしていて。

 子供のころ好きだって言われたけど、本気だったかどうだか。


 あの三人が揃うとなんやかんや言うけど。

 本気なのかどうなのかイマイチ分からないんだよな。


「付き合って、ないですね」

「ふぅん……私ね、店長のご両親がこのお店にいた頃から働いてるんだけどさ。レミちゃん……って言ったっけ? 店長のお姉さん、大変だったんでしょ?」

「……」

「お店の経営も順調だったのに、急に旦那さんも奥さんも居なくなっちゃってさ。一応話だけは聞いてはいたけど、店員の誰にも相続させないで、娘のティアちゃんに全部一任させちゃって。その時まだ十四歳だよ? 出来る訳ないじゃん。だから皆で諦めさせようって説得したんだけど……店長って頑固じゃない?」


 頑固、か。

 なんだか想像できるな。


「私がこの店を守るんだって張り切っちゃって。ウチだけじゃない、他にも二店舗もあるのに、必死になって経営学とか学んでさ。店長の頑張ってる姿を見て、私達も応援したくなっちゃったんだよね」

「……ティアらしいです」

「だけど、やっぱりまだ十四歳。それなのにレミちゃんのお見舞いに行ったり、お店の売り上げを気にしたり、今日みたいなクレーマーの処理もしたり……もちろん、毎日の生活も全部一人でしてきたんだよね」

「……」

「店長ね、二年間ずっと一人で頑張ってきたの。そろそろ誰かが支えてあげないと……って、私は思うんだけど?」


 後ろ手にして覗き込むように、コマルさんは何かを期待した瞳で俺を見る。


 ――ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております。


 満面の笑みでお客さんを見送ったティアが、俺達に気づいて首をちょっとだけかしげた。


「そういう訳だから、店長のサポート、宜しくね♡」

「……出来る範囲で頑張りますよ」

「またまた、遠慮するなよ若者君♡」


 コマルさんの意見はこの店の総意っぽいな。

 他の店員さんも何人も聞き耳立ててて、俺の動向に興味津々って感じ。


「コマルさんと何かあったの?」

「いや別に、店長頑張ってますねって話をな」

「店長って……ユーティに言われるとなんか恥ずかしいな」


 指遊びして視線を逸らして。

 可愛らしいじゃないの。

 頑張ってる幼馴染には、ご褒美をあげないとだな。


「今日、そろそろ閉店だろ?」

「あ、うん、そだね」

「店長から給料貰ったばかりだからさ、何か飯でも食いに行かないか?」

「また店長って……そういえば聞かなかったけど、そのお金って一体何のお金なの?」

「臨時収入」

「だから何の臨時収入?」

「んー……水の販売?」

「水の販売って、お水売っただけで三十万になる訳ないじゃない」

「いや、二百万だな」

「二百万!? え、なに、それって何か特殊な魔法水ってこと?」

「そういうこと。別にやましい金じゃないから、気にしなくて大丈夫だよ」


☆★☆★☆


「最低」

「そう言うなって、母さんだって半額貰って喜んでたんだし」

「そういう問題じゃないでしょ……ユーティってお母さんに容赦ないよね」

「そうか? それよりもほら、せっかくの料理が冷めちまうぞ?」


 人が多いと食事処も多い、ちょっと歩いただけで店があるのは便利でいいね。

 日も沈んで真っ暗なのに、街の中は魔術灯で明るいし。


 はぁー、このランメンってのは美味いな、炒飯と良く合うわ。

 ズズズズッ……やべ、これニーナとかレミとかにも食わせたら喜びそ。


「ユーティってさ」

「おう」

「今日はどこに泊まるつもり?」

「だから言ったろ、あの事務所で寝るって」

「バカ言わないの、夜は寒いんだから風邪ひくよ?」


 まぁ確かに、春になって昼間は温かいけど、夜は結構冷える。


「ユーティが良ければさ」

「うん」

「……ウチ、来る?」


☆★☆★☆


次話『大人の階段を上る日』

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