第十話 母さんとの訓練
どこまでも開けた草原に、ちょっと遠くに見える青々とした山々が美しい。
少し行けば雑木林なんかもあり、小高い丘陵なんかもちらほらと見える。
澄んだ青空に浮かぶ白雲は鱗を体していて、深呼吸するだけで気分がとても良い。
「魔術師は一日にしてならず。学校での演習の続きよ、ユー君」
そんな場所で、俺と母さんの二人が対峙する。
長く青い髪を三つ編みにして、いつもは優しい瞳を少しだけ眉根を下げた母さん。
着ている服は水魔術教団現役時代の物だ。
おっぱいやお尻周りがはち切れそうな程にぱつんぱつんになっている。
「母さん、さすがにその服新調したら?」
「ユー君ったら、久しぶりにママのおっぱい飲みたくなっちゃった?」
「ならねぇよ。覗き見してる奴等が何人もいるから、ちょっとは気にしたらって意味だよ」
「ママの心配してくれるのね、ありがとうユー君」
心配する必要なんか無いぐらいに強いくせに。
母さん襲ったら相手は即死だわ。
強くなったら相手の力量が分かるってのは本当なんだな。
結構頑張って水魔術極めたつもりだけど、未だに母さんに勝てる気がしない。
まとってるオーラが段違いだ、目に見えて強者って分かるぜ。
「さてと、それじゃあ……ユー君、水魔術の基本、覚えてる?」
「ああ、覚えてるぜ。水魔術は基本左手から、血液の流れを意識して体内にある水分を調整しながら弁を開き放出する。魔力ある者に関しては体内の魔力の循環を意識し、水の代わりに水を模した魔力を放出するイメージを描く。ここで生まれる際は魔力の有無だが――ゴボバッ」
一瞬で顔が水で覆われちまった。
「違うわ、ユー君」
「ゴボボボッ? (そうなの?)」
「もっと基礎よ。お風呂で学んだこと、忘れちゃったの?」
「……ボベラ? (お風呂?)、ブボボボボ? (もしかしてオシッコのこと?)」
「そう、それよ!」
「ゴボッ! (おい!) ゴッブボッゴボバァッ! (正解したんだからこれ外せ!)」
「うんうん! 水魔術はオシッコを出すように! それこそが基礎中の基礎!」
いや、死ぬんだが。
呼吸できなくて死ぬんだが。
「キャッ! …………」
「…………ブボッゴボボベ (早く解除しろ)」
「ゴボボボッ? (これがユー君の体液?)、ゴボボッ! (素敵!)」
「ボベブッ……ブッ……ブボッ? (解除まだ? マジ……死ぬぜ?)」
「ブボボボボボボボボッ! バボボボッ!? カボウブブブブブッ!?(きゃああああぁ! 私いま、ユー君に包まれてるのね!? なんて幸せなの!?)」
「………………ゴボッ (死ぬ)」
☆★☆★☆
「初手から緊急魔術発動させないで下さい」
「えへ、失敗しちゃった」
練習開始と同時に殺されたぜ。
まだクラクラするが、とりあえず練習再開だ。
「では! 水魔術基礎! はい、ユー君続いて!」
「……水魔術基礎」
「声が小さい!」
「水魔術基礎!」
「水魔術は左手から!」
「水魔術は左手から!」
「身体の中のオシッコを意識して!」
「身体の中のオシッコを意識して!」
「放出!」
「放出!」
あー、なんかつい最近ぶっ壊した教団とやってること似てるー。
雑木林とか草むらから覗き見してる奴等、なんか知らんが拍手してるし。
「さて、水魔術の基礎も再確認した事ですし。次は実戦形式で参りましょうか」
「ルールは?」
「ユー君、ルールはね、弱い人が強い人に勝つために設ける枷なんだよ? ユー君がルールがあった方がいいって言うのなら、ママはそれでもいいけど? どうする? ママだけ水魔術無しにしてあげよっか?」
ニヒルに微笑みやがって。
そんな風に言われて「じゃあルール決めますね」なんて言えるかってんだ。
「了解、何でもありでいくぜ」
「さすがユー君、そうこなくっちゃね」
「じゃあ早速」
さっきのお返しだ、予め地面の中に潜ませた水で一気に母さんを包み込む。
水魔術:水牢獄、俺の牢獄からはそう簡単には逃げられねぇぞ。
特に俺の水牢獄は特別品だ、魔力を高めに高めた水だぜ?
剣で斬ろうが槍で突こうが、その水の膜は処女城のように破れる事がねぇ!
のはずなのに。
母さんが指でツンッて突いただけで、シャボン玉みたいに壊れちまった。
「さすがにユー君の体液だとしても、今日はもう味わってるからね」
「そうかい、じゃあ次は純粋に力で行くぜ!」
壊されるのも想定済みだ。
水で作り出した刃を左手にまとって、母さん目掛けて袈裟に振り下ろす。
が、母さんに触れる前に刃が解除されちまった。
「ダメだなぁ、私の肌ってピッチピチだから」
「だと思ったよ」
クンッって指を上げて、地面に潜ませた隠してた刃で切り上げる。
も、ダメ、股間に当たった辺りでパシャって砕けちまった。
「ふふっ、どこ狙ってるの、ユー君」
「女の人の一番大事な場所」
「あら、ママに向かってそういう口の聞き方は、めーよ?」
めーよ? って言葉と共に――ドンッ! ――身体が吹き飛ばされちまった。
衝撃波に似せた水の攻撃か、ってか母さん強すぎだろ。
でも、ここまで攻めてようやく油断してくれたな。
「母さん」
「なに?」
「下、見てみ?」
「え?」
魔術:
魔術学校で俺が何年もかけて独自に編み出した、最大にして最高の秘術だ。
水を毒に変化させる、水を酸に変化させる、水をニトロに変化させる。
数多の変化技が多い水魔術だが、これを編み出したのは今のところ俺一人だ。
「ふっ、服が溶けてる!?」
「安心しろ母さん、溶けるのは服だけだぜ」
――うおおおおおおおおおおおおおぉ!!!
――よくやったぞ小僧!!!!
――お前が世界で一番の水魔術使いだ!!!
オーディエンスが騒ぎ始めちまったぜ。
まだ世界に公開していない、秘術中の秘術だ。
洋服だろうが鎧だろうが下着だろうが、身にまとっているものなら何でも溶かす。
しかも一度浴びたら最後、服を溶かしきるまで浸食し続けるアメーバタイプ。
「降参しなよ、俺だって母さんの裸を他の男に見せたい訳じゃない」
――ふざけんな小僧!!!
――お前ここからが一番いい所じゃねぇか!!!
――テメェは世界で最低の水魔術使いだ!!
「ちなみに!」
合唱が始まっちまったオーディエンスに対し、俺は人差し指を天高く掲げる。
「俺は、相手の体毛のみを溶かす水魔術も心得ているッ!」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!
――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!
――やったあああああああああああああああああああああぁ!!!
もはや地響きだ、これ村全体にまで響き渡ったんじゃねぇのかな。
段々と溶け始めている母さんの服は、既に股間部分は消失し、下着へと到達している。
母親の下着なんざ見たかねぇが、こうでもしないと勝てないんでな。
「ユー君」
「うん?」
なんだ、降参か?
妙に頬を赤らめながら、眉を下げてるが。
「ママ……ちょっとだけ恥ずかしいなぁ」
うぐっ。
なんだ、俺の中の良心が激しく痛む。
自分の母親を羞恥に晒して勝った所で、一体なんの得がある。
こんなので勝ったと言えるのか? 男として、そんな勝ち方でいいのか。
「――隙あり♡」
「え」
「水魔術奥義:天翔竜神水流激!!!」
母さんから噴き出る水が俺を包み込み、天高く打ち上げた。
威力が半端じゃねぇ、クリーンヒットして頭がクラクラする。
「だが……俺の意識は飛んでないぜ! 良心なんざ捨てた! 俺の水よ、全てを溶かせ!」
「残念ねユー君! 水魔術には、こういう使い方もあるの!」
「なにっ!?」
一緒になって飛び上がっていた母さんが、俺目掛けて巨大な水で出来た斧を振りかぶる。
着ている服は下着もろとも全て溶かしきった。
だが、母さんいつの間にか水の鎧を装着してやがる!
「そ、そんなのアリかよ!?」
「なんでもアリって決めたのは、ユー君の方だよ!」
「そうだな……! なんでもアリだ! 俺には、父さんの力がある!」
母さんにはない、父さんの炎魔術の力。
水と炎、両方同時に使える稀有な能力なら、現状を打破できる!
「俺のこの手が真っ赤に燃える!」
「ダメよユー君! その言葉は色々とダメ!」
「ぐっ、とりあえずその斧が蒸発しちまう位の熱をッ! 燃えろおおおおぉ!」
母さんなら絶対に受けきってくれる。
そう信じて最大火力を母さんへと向けて照射した。
水と炎、相対する力がぶつかり合った瞬間、辺り一帯は蒸気に包まれる。
そして。
「俺の、勝ちかな」
「……」
衝突して
水の鎧に水の斧、さらには俺を打ち上げる為に最大量の水を使ったんだ。
母さんだってもう魔力、水分共に限界なはず。
俺だってもう限界だ、水で魔術を消費しきった身体で炎を生み出す。
熱量をそのまま炎に変えての魔術は、命を削る。
「ユー君」
「……なに?」
「水魔術がなぜ女の子に適正があるのか、本当の意味を知ってる?」
もう母さんを包み込む水の鎧もない、裸の状態で語る水魔術の本質。
「本当の意味?」
「女の子はね、自分の体の中に、秘密の水源を持っているの」
「水源?」
「そう、茂みの中にある隠れた泉。喉が渇いても、オシッコが出なくなっても、それでも出すことが出来る水……ユー君にだけ、教えてあげるね♡」
「え?」
「潮魔術:
呪文を詠唱した途端、物凄い速度で母さんの股間から水が噴出して、俺の顎を砕いた。
なんだよこれ、こんな威力の水魔術がまだ使えんのかよ。
吹っ飛ばされた俺の身体はゴロゴロと転がり、オーディエンスの前に。
「うふふっ、最終秘奥義みたいなものだから、騙し討ちみたいにしちゃってごめんね。……くふふ、勝った! ユー君に勝てたぁぁ!! あははっ! やったぁ!」
年甲斐もなくぴょんぴょん跳ねて喜んじゃって、まぁ可愛いこったねぇ。
洋服もいつの間にか水で作ったみたいだし、本当に大したもんだよ。
「母さん」
「なにかな!?」
腰に手を当てながら、嬉しそうにしてますねぇ。
「この水さ……いつもと違くない?」
瓶詰にした水の匂いをくんくんと嗅ぐ。
いつも以上にオシッコの匂いがするし、瓶を振ると粘り気のある水分だって分かる。
母さん、腰に手を当てたまま顔がみるみる赤面してきた。
「吹き飛ばされた瞬間にさ、咄嗟に瓶の中に詰め込んだんだよね」
「ちょ、ちょっとユー君、その水は」
「はーい! オーディエンスの皆さーん! この水欲しい人ー!」
――一万リーフで買った!
――二万リーフだ!
――十万まで出せるぞ!
――二十万リーフで!
「ちょちょちょ! ユー君! その水だけは本当にダメだから!」
――五十万リーフで!
――六十五万!
――ぐぅぅう! 百万でどうだ!
「百万! 百万の大台が出たよー!?」
「ユー君! 絶対に売らないで! その水はね! 女の子のね!」
――百二十万!
――ぐぐぐっ、百五十万!
――これで黙れ! 二百万でどうだ!
「二百万でたよ!」
「ユーくーーーーん!!!!!」
☆★☆★☆
次話『ティアの悩み』
※ヒルネママの秘密のお水は、二百万で売却されました。
「ばかばかばかばか! ユー君のばか!」
「ちょ、ごめん、ごめんて」
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