第九話 偽勇者様、ご来訪

「うん、こんな感じかな」

「もうちょっと母さんのを足した方がいいんじゃないの?」

「ダメよユー君、これ以上足したらママのフェロモンとレミちゃんの誘香さそいがが合体して大変な事になるわよ? 男なんて一呼吸で何もしなくて昇天、問答無用でサキュバスの餌食ね」

  

 あー……それは不味いですね。


「ねぇ、それってまた別の最強商品が完成した瞬間なんじゃないの?」

「さすがティア、そうとも言える。母さんむしろそっちで販売しよっか」

「えー、ダメよ、元をたどればママとレミちゃんの匂いなんだから、世界中の男が私達を欲するようになっちゃうのよ? そんな事になったら、ママお嫁にいけなくなっちゃう」


 母さんは既にご結婚なされてますから大丈夫なのでは?

 まっ、母さんはともかく、レミは不味いな。

 ずっと悩んでたんだから、これ以上悪化させたら助けた意味がねぇ。


「ユーティくん……」 

「ああ、大丈夫だ。当面の間、これを飲めばレミの中のサキュバスは封印される」

「封印……そんなこと、出来たんだ」

「魔術は日進月歩で進化してるからな、昔は出来なくても、今は可能だぜ?」


 コップに注がれた俺と母さんの魔法水を、レミはすするように一口。

 飲んだ途端にぱああああぁって表情が明るくなって、元気三割増しって感じだ。


「……美味しい」

「トリミナル家のブレンド魔法水だからな、味も効果も保証済みだ」

「うん……これなら、全部飲めるよ。ユーティくんの体液……はぁっ、美味しい、っん」


 言葉が無駄にエロいな。っていうか俺の体液言うなし。

 口端からこぼれて一筋の道になってんぞ、アゴから鎖骨に流れてって……なんかもうエロい。


「ママの体液でもあるんだけどなぁ」

「いつもみたいに否定しないんかい」

「オシッコじゃないから、別に否定はしないわよ?」

「体液もオシッコも同じだろうに」

「全然違うの、水魔術で出した体液はオシッコじゃないから」


 母さんとアホ話をしている場合じゃねぇな、レミの様子はと。

 右目のサキュバス化はもう解除されないみたいだけど、他は大丈夫そうだな。

 誘香の検知……反応無し、完全に封印完了だな。


「レミちゃん、これ、私からのプレゼント」

「……これって、眼帯ですか?」

「いつかはその眼も治してあげたいけど、今はそれで我慢してね」


 赤いサキュバスの瞳はそれだけで奇異の目で見られちまうからな。

 母さんの言う通り、いつかはその眼も治してあげねぇと。

 研究は続くなぁ、どこまでいっても魔術に終わりはねぇ。


「……凄い、眼帯付けてるのに、右目でも物が見える」

「当然、ユー君ママ特製の魔法具ですからね」

「片目でずっと物を見続けてると、いつか左目も負担に耐えられなくなって失明しちゃう可能性があるんだとよ。人間の目は二つあるんだから、ちゃんと二つの目で物を見ないとな」

「ユーティくん……ありがとう」


 ぎゅって俺のことを抱き締めながら、すんすんって泣き始めた。

 もうなんか、レミってばずっと泣いてるのな。

 俺の幼馴染は総じて可愛いんだから、もう。


「こんにちはー、ユーティいるー? って、あら、皆揃ってるじゃん」

「ニーナちゃん、お久しぶり」

「わわっ、ヒルネさん、お久しぶりです」

「ニーナちゃん」

「レミも久しぶりね、神殿にいなくて大丈夫なの?」

「……うん、ユーティくんのお陰で、大丈夫になったよ」

「そ、わざわざ吹っ飛ばした甲斐があったってものね」


 わざわざ吹っ飛ばした甲斐があった?

 あ、そういえば俺が神殿に行ったのってニーナに吹っ飛ばされたからじゃねぇか! 

 まさかコイツ、そこら辺全部こみこみで狙ってたって事か!? この乳乗せサロペット女め!


「何か言いたそうね」

「いや、別に。それよりも何か用があったんじゃねぇの?」

「ああ、うん。なんかね、ユニマスから勇者様ご一行がやってくるみたいなのよね」

「勇者様ご一行? ユニマスってレミとティアのご両親が商売してる街だよな?」

「今は私が家業を引き継いで、全部私主導でやってるけどね」

「え、ティアが全部引き継いで? って事はティアって店長なの?」

「そうよ? 言わなかったっけ?」

「初耳だ。スゲェなぁ、十六歳で支店本店含めてかよ」


 ドレス姿のまま椅子に座って組んだ足をふりふりしてっけど、本当にスゲェな。

 ユニマス以外にも確か三店舗くらい経営してたよな? 武具と家具、それに雑貨だっけか。

 俺ってば学校卒業しただけなのに、もうティアは店長として世間を歩いてんのかよ。


「ティアは、頭良かったから」

「私も牧場の経営までは流石にねぇ」

「やめてよ、そんな、大したことしてないんだから。それよりもヒルネ先生の方が全然凄いわよ? 十六歳で出産、その前に教団一つ立て直してるんだからね」


 皆でティアの事をちやほやしてたら、ぽいっと爆弾発言が飛びだしてきた。


「……え? 十六歳で、出産?」

「ということは、俺を妊娠したのは十五歳?」


 あれ? 知らなかったのってティアがおどける中、渦中の母さんは「三十二歳です♡」とダブルピースして満面の笑みに。


 ちょっと待って、俺の父親って一体いくつの母さんを抱いたんだよ!?

 っていうか水魔術教団立て直したの幾つの時!? あそこってほとんど男は立入禁止だろ!?

 妊娠から出産までが十月十日、十六歳なってすぐに着床させればギリ年内にいけるのか!?

 というか今の俺の年齢で既に妊娠!? そんで出産!? おいおいおい、マジかよ!


「……レミは、十六歳で出産でもいいけど」

「私だってユーティの子供なら問題ないですけど?」

「私の財力なら家族を養うのも問題ないわね、と言う訳でユーティ、誰の子供が欲しい?」

 

 はい?


「ユー君、ママもまだ赤ちゃん出来るからね」

「いや、母さんは混ざらないで、話がややこしくなるから。胸を寄せるな鬱陶しい」

「そうですよ! 十年間ユーティ一人占めにしたんですから、私達に権利を回して下さい!」

「一人占め、ズルイ」

「三人とも勇者協定忘れたの? 選ぶのはユーティなんだからね」 

「三人って、そこに母さん入れるなよ」

「だからこうして選ばせてるんでしょ。ほらユーティ、私達の内の誰と結婚するの?」

「男なんだから、そろそろ決めなさいよね」

「……ユーティくん」


 あれ? さっきニーナが何か言ってなかったっけ?

 いつの間にこの場で幼馴染戦争に決着をつける流れになったわけ?

 三人の中で誰を選ぶか? そんなの三人同時に決まってんじゃねぇか! 

 皆まとめてベッドインよ! うえっへっへっへっ!


「ガウ」

「あ、ガウ君」

「ガウガウッ!」


 ズガンって結構な一撃喰らって、俺の中の緊急魔術が発動しましたとさ。

 ガウ君も仲間に入れて欲しかったのかな……そういえば、唯一の婚約者ですものね。

 あーまた記憶飛んじゃう。ガクッ。

 

★☆★☆★ Next prey ☆★☆★☆


「勇者トリニス、次の街に勇者との旅をしたがってる女がいるそうですよ」

「マジかよカッティス、そいつは是非とも仲間にしないとだな」

「えへ、えへ、女がついに仲間になるんだな、えへ、えへ」

「グルーニィも嬉しいよな、ははっ、女を楽しみながらの冒険の旅と洒落こもうじゃないの」


 俺たち野郎三人のパーティに足らなかった華の要素、メインヒロイン、勇者にベタ惚れな女戦士辺りが仲間になれば、このパーティってば最高の形になるんじゃねぇか!? 


 絶対に仲間にしねぇと。

 そんで俺様に惚れさせねぇとだな。


「また、これを使いますか?」

「カッティス……そんなの当然だろ? 襲われてる村人を助けるのが勇者様だからな。たとえそれが、人造魔獣であってもな」


☆★☆★☆


次話『母さんとの訓練』

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