第七話 時に、変態とは悪事を暴くものである。
本当に真っ白な神殿だこと、部屋を出てどこまで行っても真っ白だぜ。
外の緑に違和感を感じちまうくらいに、真っ白で凄いねこりゃ。
「本当に行くの? 私はただユーティに知って欲しかっただけだよ?」
「知っちまったら、どうにかしたいって思っちまうもんだろ?」
「そうかもだけど……あ、私が先に説明するから、ユーティは待ってて」
「いや、一緒に行く。命魂魔術教団ってのも気になる所だしな」
聞いた事がないんだよな、この教団。
俺が通った魔術学校にも治癒系統の魔術はあったものの、それは風だったり水だったり。
夢魔の誘香を利用した教団なんざ聞いた事もねぇ、怪しさ抜群だぜ。
とはいえ、ティアとレミの両親も頼ってるくらいなんだし、聖女ってのもガチなんだろう。
信者の数も結構いる、揃いも揃って白のローブ着てっけど、これが制服なんかな?
「おや、ティア様と……そこの男性は先ほどの」
「ローグレント様、お久しぶりです」
白髭生やしたジジイだな。
高位なんだろうな、純白のローブがラメラメしてら。
「姉に面会をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「聖女様は現在、命魂の儀についております。親族の方といえど室内に入るのは危険かと」
「大丈夫だ、俺がついてる」
命魂の儀ってのが気になる。
さっきティアが言ってた、激しい女の子との仲良し♡の儀式なんだろ?
父親の蔵書以上の何かが観れるんだろ?
見るしかねぇじゃねぇか。
「失礼ですが、貴殿は先ほど出血多量で死にかけておりましたよね?」
「知らねぇな、とにかく大丈夫だから案内しろ」
「案内しろと言われましても……」
「私からもお願いします。以前、私が見学させて頂いたあの離れで大丈夫ですから」
むぅ……と顎髭に手を当てるも、ティアの影響力ってのが強いんだろうな。
聖女の妹なんだ、彼女の願いを無下にする事も出来ねぇと。
結局、爺さんは俺達を案内する事になった。
命魂教団、受精の間ってやべぇ名前の部屋に。
☆★☆★☆
※自主規制※
★☆★☆★
「ヤバすぎんだろあの部屋」
「あはは……凄いよね」
「レミはあんなもんの為に協力させられてんのか?」
「うん、でも、夫婦の営みとしては正しい行為なんだと思うよ? 好きな人同士が繋がってるだけなんだから。そこら辺は教団がしっかりと調べ上げて、互いに問題ない人達だけをあの部屋に連れて行ってるみたいだからさ」
予想以上だった、今晩のオカズはもうご馳走様ですねってぐらいに凄かった。
でも、それを眺めているレミの眼は完全に死んでたけどな。
周りを楽しむだけ楽しまさせて自分だけ楽しめないなんて、そりゃ辛いだけだろ。
「ユーティ」
「あん?」
「お姉ちゃんを助けたいって思ってるんでしょ」
「そりゃあな、幼馴染だし」
「でも、お姉ちゃんには手を出さないでね? ユーティ死ぬよ?」
「俺が死ぬって……どういう意味?」
「そのままの意味、夢魔は行為の最中に相手の生気を吸い取っちゃうの。絶頂と共に魂も放出させられて、お姉ちゃんに魂ごと奪われちゃうからね?」
サキュバスとの行為は命がけ。
そういえば魔術学校、淫夢の書にも書いてあったな。
~ サキュバスとの行為はまさに命がけである。自身に回復魔術を掛けながら生気を奪われないように精子を放出し、相手を満足させた者のみがサキュバスの伴侶となる事が出来る。性行為に成功した場合、相手のサキュバスは能力を失い、永遠に伴侶を愛し続ける事となる。ちなみに受胎する確率は百パーセントである。挑戦する者は色々な覚悟を持って臨むべし。 著 グリ・ロキ 一度に三人のサキュバスを愛した男 ~
「え、サキュバスと性行為して生き残った人がいたの」
「世界は広いよな」
「嘘でしょ……男って本当にバカなのね」
「まぁ、ソイツに出来て俺に出来ない事はないわな」
「ユーティ?」
「ってことで、レミの所に行きますか。要は、誘香の能力が無くなればいいんだろ?」
レミはいつも微笑みながら側にいてくれる、大切な幼馴染なんだ。
あんな死んだ目をしたレミを放置しておく訳にもいかねぇ。
さっき助けちまえば良かったんだが、すっかり行為に魅入っちまったぜ。
あんなスゲェもんを目の前で見続けなきゃいけねぇ。
見方を変えれば毎日が拷問みてぇなもんだ。
たまにがいいんだよ激しいのは、他は甘ったるい日常って奴で十分なんだよ。
「いま、聖女様の力が無くなればいい……と、おっしゃいましたかな?」
通路の脇から現れたのは、白髭を生やしたさっきのジジイだった。
他にも数人、屈強そうなのがいるじゃねぇの。
「この、ローグレントの聞き間違いでしょうか?」
「聞き間違いじゃねぇな、レミは返して貰うぜ。そんで、俺が守ってやる」
「鼻血で出血多量になりながら、何をほざくかと思えば」
「いいから案内しろよ。出来ないってんなら勝手に探すぜ?」
レミの存在自体がこの魔術教団を支えてんだろうな。
いらねぇだろ、そんな女の子一人に頼った教団なんざ。
ぶっ潰しちまえばお終いだ。
「ティア様」
「なによ」
「この教団が無くなってもいいと、お考えですかな?」
「それは……」
「レミ様を保護したのは我ら命魂魔術教団、この教団失くしてレミ様の平和な日常はあり得ません。お忘れですか? 保護される前のレミ様を襲った数々の暴漢、恋慕、ストーカーの恐怖を。我らはあくまでレミ様をお守りしているに過ぎないのです。そして、ほんの少しだけ、聖女としての御力を頂いている。それも悪事に手を出している訳ではない、子宝に恵まれない夫婦に対し、愛の導きを促しているに過ぎないのです。争いごとは命の神、バラン様も望まれません。ここは今一度、ティア様からそちらの御仁へと、ご説明をなさられては如何でしょうか?」
もっともらしい言葉を並べられて、ティアも黙っちまった。
コイツらはあれだな、新興魔術教団って奴だな。
数多に存在する弱小教団だったのに、レミを手に入れて金儲けの味を覚えちまった。
金の力がそのまま教団の力に変わる、もう抜け出せねぇんだろうな。
だけどよ。
「レミを守るだなんだ言ってるが、結局のところ彼女を拘束しておきたいだけなんだろ?」
「ユーティ……」
「騙されるなよ、正論しか並べられねえ奴等には言葉で戦おうってのが間違ってる。正論と正論がぶつかって行きつく先は戦争だ。結局のところ譲りあうつもりがねぇんだからな」
右手から炎を噴出させると、ローグレントの爺さんは目を細める。
「対話で解決するのが、バラン様の教えなのですがな」
「大体よ、あの部屋の体液にお前たちのが混ざってるのは、一体どういう了見なんだ?」
俺の言葉に教団の男どもが一瞬で静まり返る。
残念だったなぁ、俺をあの部屋に連れて行ったのが間違いだったんだよ。
「……え、体液が混ざってるって、ユーティ、それって一体どういう意味?」
「あの受精の間っていったか? あの部屋って選ばれた夫婦しか入れねぇんだよな? だとしたらお前たちも夫婦として、子宝欲しくて部屋を使ったって事か? お前の年齢で? バカ言ってんじゃねぇよクソジジイ」
適当な事を……なんてボヤいちゃってよぉ。
さっきまでの正論はどうしたい? もっと俺達を納得させてみせろよ。
「水魔術を極めてる俺はな、あの部屋に染み付いた体液から、螺旋状の核の存在まで見抜くことが出来るんだ。通称【命の螺旋】、同じ螺旋は他には存在しない、その体液がその人物であると証明する事が出来る螺旋だ。魔術学校ならその螺旋の存在は常識だけどな」
「で、でたらめばかり申すな! そんな命の螺旋なぞ聞いた事がない!」
「ちなみに、今しがたお前が喋りながら吐いたツバ、これも採取してある。これがまた九十九パーセントで体液と唾の螺旋が合致するんだわ。見せてやろうか? 後で王都魔術研究学会にも提出してやっけどよぉ」
大方、レミの
「怒りで顔が真っ赤ですよぉー?」
「ふざけるな、貴様なんぞに我等が命魂魔術教団を……」
「ああ、ちなみに、受精の間ももう流行らないぜ?」
「……どういうことだ」
不思議そうな顔をしたティアもいる事だし、特別に教えてやっか。
「そっち系の研究を俺が所属している水魔術教団がしてない訳ねぇだろ? 女体の神秘は全面的に研究済みだぜ? 膣から子宮、さらには卵管に至るまでの仕組みもな。子種を安全に水魔術によって搬送し、卵子と結合させ、その後子宮内に強制的に受胎させる。子宮外妊娠も防げるし、出産までのあいだ徹底して安全安心の管理をし、妊娠出産させる方法が確立してるんだ。もちろん水魔術を使うんだから、女性が全て相手をする。女性による女性の為の水魔術だからな」
ちなみに、この研究で俺は勲章を二個ほど貰ってる。
母さんも飛び上がるほど喜んでたからな、ビバ、安産って奴だ。
「女性の身体を調べるとか、相変わらずの変態ね」
「その言葉は賞賛として受け取っておくぜ?」
顔を真っ赤にしてっけど、ティアもいつかはお世話になるんだぜ?
破水しちまった時に羊水の代わりも可能だし、出産の痛み軽減まで約束されてっからな。
「貴様が……貴様があのユーティ・ベット・トリミナルかッ!」
「お? 爺さん俺のこと知ってんのか?」
「知っているとも! 水魔術教団所属の稀代の変態王子! 命を司るバラン様の領域である妊娠、出産に踏み込んできた最低最悪の魔術師だという事もな! 貴様のせいで命魂魔術教団を始め、バラン神を信仰する数多の教団が解散せざるを得なくなったのだ!」
おーおー、随分とムキムキになっちゃって。
色々と身体いじってんなこの爺さん。
「ユーティ・ベット・トリミナルッ! この神殿に来たこと、後悔させてやるッ!」
「後悔するのはお前だよクソジジイ……お前はもう、毎晩頻尿で眠れなくなるぜッ!!!」
★☆★☆★
次話『レミの告白』
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