第六話 ティアとの再会、レミの秘密

 頭がいてぇ、ガンガンする。

 いつの間にか眠っちまってたのか? 目を開ける前から頭が痛いとか、やべぇな。

 今日は何の授業だっけか、理念はこの前終わったし、実技試験も終わ……違う。


「俺、卒業したんじゃん!」


 そうだよ、この前卒業してロカ村に戻ってきて、そんでニーナと再会して吹っ飛ばされて、そんで、そんで……アレ? なんか記憶が曖昧だぞ? その後何があった? っていうか今俺はどこにいるんだ? 真っ白な空間に、真っ白な戸棚、無駄に全部真っ白で、なんか目が痛い。


「あら、起きたのね」


 全体的に真っ白な空間に、深紅の髪をした女が一人。

 ショートカットから覗く強きな瞳、服装は黒と赤のコントラクションが強めのドレスだ。

 胸元が波打つ感じに彩られ、履いたブーツはヒールがちょっと高い。

 全体的に高圧的、だけどその感じがこの真っ白な部屋には丁度いい感じだ。

 

 そして、俺には懐かしいとも感じる。


「ティアか」

「十年ぶりなのに、一発で見抜くのね」

「お前の声は忘れないよ」

「あらそう、ありがとう」


 椅子の近くにあったこれまた白い丸イスを手にし、ティアは近くに座る。

 十年でニーナも成長したけど、ティアは……なんて言うか、あんまり成長してないな。


「どこ見てんの」

「いや、別に」

「まぁいいけど。……ごめんね、レミが迷惑かけちゃったみたいだね」

「レミが俺に?」

「俺にって、覚えてないの?」

「どうにも記憶が曖昧でな、残念ながら全く覚えてない」


 申し訳なさげに眉尻を下げるティアを見るに、俺ってばレミに何かされたのか?

 ……ダメだ、何にも記憶に残ってない。

 女風呂で人間蒸気機関してたって言われた時並みに何も覚えてない。

 

「覚えてないんなら、別にいいんだけど」

「ちなみに、何をされたんだ?」

「知らない方がいいよ。レミはその……お姉ちゃんには、才能があったから」

「才能?」

「ユーティ」


 布団に片手を乗せて、ぐっと近づいて来る。

 すんっと通った鼻梁に、ピンクに染まる唇、近寄るだけで香水の良い匂いが鼻腔を包み込む。

 ショートカットがとても似合う、ロングだった時は子供っぽさがあったけど、今は違う。 


 なんだか、ちょっとドキドキしちゃうぜ。


「なんだよ、急に改まって」

「ユーティは、絶対に知っておいた方がいいと思う」

「おう」

「絶対、他の人には内緒にしてね」

「ああ、口は堅い方だ」


 多分。


「お姉ちゃんにはね、魔術の才能は無かったけど、夢魔の才能があったの」

「夢魔? 夢魔っていうと……サキュバスか?」

「うん。子供の頃のこと覚えてる? ユーティが助けてくれた、あの暴漢事件」


 五歳の時、レミたち姉妹の家に入り込んできたオッサンの事件だな。

 たまたま俺が気付いてオッサンの肛門を熱殺したから良かったものの。

 間に合わなかったらレミとティアは一体どうなっていた事か。


「あの頃から、お姉ちゃんは男の人を誘う誘香さそいがを抑えることが出来てなかったの。ユーティが捕まえた人がね、自分には何も記憶がないって……今のユーティみたいなことを言っててね。両親が色々な教団や医者に診せて、ようやく判明したんだ」


 レミにそんな才能があったのか、知らなかったな。


「ここ、命魂魔術教団はね、生命を司る教団なの。生命、つまりは新しく命を宿すことを最大の祝福とみなしている。子宝に恵まれない夫婦にね、お姉ちゃんの夢魔の誘香を施すことで、その人達はその……発情して、愛する人をより一層愛するようになるんだ」


 ほんのりと頬を赤く染めながら、ティアは語る。

 つまりは夫婦の営み、女の子との仲良し♡が激しくなると。


「効果は絶大だった。どんなに激しい事をしても傷は行為の最中に治っちゃうし、何日も何日も行為に及ぶことが出来るの。私もちょっとだけ見学した事があったけど、想像以上だった」


 治癒も体力回復も兼ねてるって事か? すげぇな。


「そして、お姉ちゃんは聖女って呼ばれるようになった。お姉ちゃんのお陰で子宝に恵まれた夫婦が沢山いるんだよ? それにこの神殿にいる限り、夢魔の誘香は漏れ出る事はない。代償として、お姉ちゃんはここから出ることが出来ないけどね」

「……それって、レミにとって幸せな事なのか?」

「抑えきれない誘香は、お姉ちゃん自身をも傷つける事になるから」


 十年前の事件のことか。

 でも、なんか腑に落ちねぇな。


「最近になって、相手の性欲をコントロールする術も学んだって言ってたけど、街の人全員に施す訳にもいかないからね。それほどまでにお姉ちゃんの誘香は絶大なの……私は、姉妹だったからか身近にいたからか分からないけど、平気なんだけどね」


 んー、俺も別に子供の頃に影響を受けてたとは思えないな。

 仲良し♡はしたかったけど、そんな狂ったようにしたかった訳じゃねぇし。


「誘香ってのが問題なら、それを抑え込めば問題ないよな」

「抑え込めば問題ないって……それが出来たら苦労しないよ」

「俺を誰だと思ってるんだ? これでも魔術学校を首席で卒業したんだぜ?」


 方法は幾らでもある、レミをここから連れ出すなんざ造作もないな。

 レミだってこんな真っ白な神殿に閉じ込められてるなんざ、嫌に決まってる。

 幼馴染が困ってるんなら、助けてあげないとな。それが男ってもんよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る