第二話 俺の幼馴染は妹も可愛い。

「帰ってくるなら手紙に書いてくれたら良かったのに。着替え用意しといたからね」

「急に帰ってきた方がサプライズ出来て嬉しいだろ?」

「あはは、ユーティのくせにそんなこと考えてるんだ?」


 そんな事しか考えてませんけど?

 今だって一緒にお風呂入るのかとワクワクしてたくらいだからな。 

 さすがにそれはないか、残念。


 ちゃぷんって大きい湯舟に足を延ばして、ふわっと横になる。

 んー、ニーナ家のお風呂は相変わらず大きくていいね。

 

「魔術学校ではどうだったの? 勇者になれるくらい強くなったんだ?」

「どうだろうなー、昔に比べたら全然良くなったと思うぜ?」

「そうなんだ。昔は魔術にぎりっぺしか出来なかったのにね」

「アレだって実は高等魔術だったりするんだぜ? 普通は出来ないからな」

「へぇー、そうなんだ。……ねぇ」

「ん?」

「彼女とか、出来たの?」

「男子校だぞ? 出来る訳ねぇだろ」

「あはは、そだね」

「……そっちはどうなんだよ」

「私?」


 扉越しに語るニーナの声が、なぜか止まった。

 え、まさか、彼氏いるの? 俺という男がいながら?

  

「好きな人は、いるよ」


 ……え、嘘でしょ。

 ……え、嘘でしょ?

 

「え、嘘でしょ?」

「幼馴染のアンタに嘘ついてどうすんのよ」

「だって、昔は」

「昔は昔、今は今よ。お風呂出たらコーヒー牛乳飲むでしょ? 用意しておくからね」


 ……え、嘘でしょ? 俺の幸せ幼馴染ハッピーライフ、帰郷一日目で終了のお知らせ?

 そんな馬鹿な、だって俺ってばキスされたし、寂しい言われてたのに。

 

 ぴちゃんって、天井の雫が顔に当たる。


 十年。

 十年か。

 十年もあれば、人は変わるよな。


 好きだって思いも、過去になっちまうよな。

 死にたい。


 ――ガチャ。


 ん? 誰か浴室に入ってきた?

 浴槽に浮かんでるから、向こう側が微妙に見えないんだが。

 

「……」


 水魔術:水面鏡

 ぽわんと浮かんだ円形の水が、鏡の役目を果たして洗い場を映し出す。

 

 裸の女の子が、いますね。

 鏡が曇っちゃって、ちゃんと見えないけど。

 茶髪で、膨らんだおっぱいに、綺麗な素足。

 

 ふへっ。

 なんだよ、好きな人がいるって俺の事かよ。

 意味深な言い方しやがって、こちとら失恋の果てに死を選択する所だったぜ。


「全く、素直じゃないな」

「……え?」


 横になってた身体を起こしてっと。

 幼馴染の熱烈ラブコールを受け入れないようじゃ、男がすたるってもんよ。

 

「いいぜ、ニーナのその想い、きっちりと受け取るぜ」

「え? え? え?」

「そんな遠慮すんなって。俺ももう大人なんだ、昔と違う所、見せてやっからよ」


 立ち上がって、第一変身を遂げた息子様をニーナに見せつける。

 どうだ、これが大人のユーティ様よ。

 さぁ見せてもらおうか、大人になったニーナ様の裸体をッッ!! 


 って、あれ?


「……ニーナ、なんか縮んだ?」

「――――ッ! キャアアアアアアアアアアアアアアアァ! 変態がいるー!!!!!」

「えッ!? え!? ええ!?」

「どうしたのユナ!」

「お姉ちゃん! ウチのお風呂に変態がいるの!」

「あ、ごめん! 今お風呂にユーティっていうお姉ちゃんの――」


 お姉ちゃん? ニーナがお姉ちゃんって。

 あ、そういえば十年前、ニーナママのお腹大きかったですね。

 

「――ユーティ……アンタ、なに妹見て股間膨らませてんのよッ!!!」

「なにぃぃッ!? ご、誤解だ! これはだな!?」

「死ねッ!! 変態ユーティ!!!!」


 瞬間、お風呂のお湯が一瞬で爆発して、俺ってば全裸のまま吹き飛ばされましたとさ。

 水魔術:水陣爆か、やるじゃん。


 空高く飛んじまって、一体どこまで吹き飛ばされるのやら。

 あーあ、妹さんかぁ。六歳の時に生まれてるから、十歳か? さすがに手は出せねぇなぁ。


「……って事は、ニーナの奴、マジで好きな男がいるのか?」


 うーん、一体誰だろう。

 その相手、こっそり殺さないと。

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