第一話 俺の幼馴染は可愛い。

 澄んだ空の先に、バンダル山の綺麗な稜線が見える。

 どこまでも続く緑の絨毯に手作りの農道、何もかも相変わらずだ。

 

 ロカ村、俺の生まれ育った故郷の村。 

 ようやく帰ってこれた……十年ぶりか、本当に懐かしい。

 真っ先に幼馴染の所に行きたいけど、ここはぐっと我慢して実家へ。

 俺の腕にしがみついてる母さんもいるし、父さんに母さん預けていかないとな。


「父さん、ただいま」

「ユーティか、大きくなったな」

「十年経ったからね。ほら、キッチンの上の戸棚だって手が届くよ」


 昔は見上げるだけだった家具も、今はどこへでも手が届く。

 成長した証じゃないけど、なんだかそういうのがちょっとこそばゆい。

 

 父さんが頬を赤らめながら、やめなさいって目で見てる。

 手に触れた感触はアッチ系の書籍か、変わってないな父さんも。


「じゃあ俺、ニーナの家に挨拶に行って来るから」

「そうね、一番に会いに行かないと怒られちゃうわよね」

「気を付けてな」

「大丈夫だよ、もう子供じゃないんだから。いってきます」


 そう、俺はもう子供じゃない。

 十六歳の立派な大人だ。

 つまり、女の子との仲良し♡が出来る年齢になっている。


 まずはニーナだ。

 隣に住む幼馴染のアイツなら、もしかしたら出会って五秒でいけるかもしれない。

 なんてったって別れ際にキスされたくらいだ、魔術学校ではそれだけでヒーロー扱いされた。


 話盛ってんじゃねぇよって何回も言われた、けど、俺には可愛い幼馴染が三人もいる。

 その事実だけは、どうあがいても変わる事はない。


「ドラゴン牧場への案内板か、ふふっ、可愛い奴め」


 子供が描いたみたいなデフォルメドラゴンだが、愛嬌があっていい。

 幼いニーナが描いたのかと想像すると、それはより一層だ。


 基本的には十年前と変わらない、でも、お客さんの人数が桁違いに多い。

 昔は乳牛と家畜だけの牧場だったから、来客者なんてほとんどいなかったのに。

 やっぱりドラゴン牧場が大きいのかな、動物園並みに人がわんさかいる。


 人の波に任せて歩いていると、ドラゴン厩舎の前に人だかりが出来ていた。

 グレートドラゴンのリンリンと、スカイドラゴンのミミ。

 十年前と全く変わらない姿のまま、昔と同じように座ってら。


 リンリンがちょっとだけ目を開けて、俺を見た気がする。

 でも直ぐに目を閉じて、また眠り始めちまった。

 糞の世話くらいしかしてないしな、覚えてないか。


――天空の覇者、スカイドラゴン三兄妹による、天体ショーが始まります! ――


 急にアナウンスが流れて、人の波がそっちの方に移動していく。

 今の声ってニーナの声か? スカイドラゴンのショーとかしてんのか、すげぇな。


「前の方で観たい方は別料金でーす」

「いくら?」

「お一人様千リーフです」

「あいよ」


 店子も雇ってんだな、相当に儲けてそうだ。

 しかし、ニーナの姿がないな、アイツ一体どこにいるんだろ。


 わぁ! って歓声が上がって、皆の視線が空へと向かう。


 天空の覇者、飛竜種、スカイドラゴン。

 プライドが高く、人の命令を基本的に聞かないはずの龍種なんだけど。

 愛情が成せる技かな、三頭が綺麗に編隊組んで飛んでるじゃん。

 大きくなったもんだな、十年前は子犬みたいなもんだったのに。


 ぐるりとループしたり、口から炎を吐いたりしながら観客を楽しませているドラゴンたち。

 だが、その内の一頭と目が合うと、その子は途端に観客席へと向けて急降下してきた。

 

 ――なんか一匹、こっちに来てないか?

 ――スカイドラゴンのショーだから、大丈夫でしょ?

 ――ちょ、ちょっと、めっちゃ近いんだけど!?


 迫りくるドラゴンを前に、観客席から悲鳴が上がる。

 背中に乗ってるドラゴン使いも何か慌てて手綱引き寄せてるし、こりゃアクシデントか?

 なら、俺が助けてやるか! 幼馴染のピンチは俺が助けるってな!


「魔術:緑風のお布団!」


 爆風が観客席を包み込み、迫りくるスカイドラゴンをやんわりと受け止める。

 客もドラゴンも大事だからな、双方ケガしないようにしねぇと。

 観客がキャーキャー言ってるが、怪我もないし施設も無事、良かった良かった。


「うわっ……っとと、すいません、助かりました!」


 へぇ、ドラゴン操ってんの若い女の人なんだ。

 革のヘルメットにゴーグル、それに身体ぴったりのライダースーツがカッコいいや。 


「別にいいってことよ」

「本当にすみません! ジルバちゃん、いつもは大人しいのに」


 女の人が手綱を握るも、ギャウギャウいいながら頬を俺に摺り寄せて来る。

 赤ちゃんドラゴンの時は羽毛だったからもふもふしてたけど、今は鱗ですね。いてぇ。

 

「ジルバか、俺が命名したの覚えてたんだな」

「俺が命名って……」

「ここの牧場主の娘に会いにきたんだけど。お姉さんニーナって子、知らない?」


 太くて立派になったジルバの首筋をぽんぽん叩く。

 十年も経過したんだ、ニーナも相当な美人になってんだろうな。

  

「ユーティ」

「ん?」


 ライダーのお姉さんがヘルメットを外すと、中から赤味がかった茶髪が顔を覗かせた。

 クセのある髪がふわりと腰の方まで落ちて、潤んだ瞳に赤く染まっていく頬が可愛らしい。

 

「え、まさか、ニーナか?」

「うん……おかえりなさい、ユーティ」


 一瞬で惚れちまった。いや、惚れ直しちまったが正解か。

 改めて見ると確かに面影がある。くりっとした瞳、薄い唇に笑った時に出来る笑窪。

 ライダースーツだからボディラインもくっきりと分かっちまって、すんごい成長しましたね!


 いやこれ惚れないって無理っしょ!

 え、嘘でしょ、俺ってばこんな可愛い子と仲良し♡が出来るかもしれねぇの!?

 産んでくれてありがとうッ! お父様、お母様、俺の人生幸せしかありませんッ!


「ガウ」

「ん?」


 振り返ると、単眼で紫色の肌をした爆乳の女の子がおりますね。

 鋸歯がキュートでよき。で、なんで俺の腕を掴んでるのかな? 


「ガウガウガーーーー!!!!!!」

「へぁ?」


 どばっしゃあああああああああああああぁ! って水が出た。俺の股間から。


「え、ちょ、え? はぁあああああああああああぁ⁉」

「あ、ガウちゃんもユーティ帰って来て嬉しいんだね」

「ガウガウ」

「ガウちゃんって、この子ガウちゃんなのか!?」

「うん。ロカ村の女の子は、全員水魔術が使えるからね」

「いやいやいや! ちょ、ちょっと待てって! 俺の水が、股間から!」

「あはは、ユーティってば十六歳にもなってお漏らししてんの? 一緒にお風呂入ろうか?」

「入る! じゃねぇし! とりあえず止めて! 俺の水が干からびちゃうからー!」


 再会は散々だった。

 でも、俺の幼馴染はめっちゃ可愛い。

 こりゃヤバイぐらいに楽しい村生活が始まりそうだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る