第2話

 ピロリン

〈着いた〉

 スマホから機械的な通知音が流れる。画面の上部には、到着を告げる簡素な文章が現れた。広い駅の中、どこで待っているのかは伝えてくれない。いつものことだ。でも、どこにいるのか分かる。駅のシンボルから外れた、人気のない寂しい場所。夏は暑いし、冬は寒い。でも、星や月はそれなりに見える。都会すぎる場所でないのが、功を奏していた。この中途半端な夜景も、悪くない。

「お待たせ」

 駅裏の路地に行き、もう何十回目かになる言葉をかける。冬も深まり、建物を出ると寒さに襲われる。コートの前をしっかり合わせながら、目の前の派手な女性を見る。目が覚めるような金色の長髪は、夜空の黒を映すように輝いている。上も下も真っ黒な服は、闇に溶け込んでいて分かりにくい。髪色は派手なのに、服装は認識しづらい。目立ちたいのか、目立ちたくないのか、矛盾している。初めて会った時から不思議に思っていたけど、それを質問することはできない。「そういう契約」をしているからだ。

 もう何十回と会っているのに、私は彼女の本名すら知らない。知っていることは、たった三つだけ。一つ、独り身である。二つ、レズビアンである。三つ、これ以上ないと思えるほどの運命の相手に振られた。

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