第4話 心の無い者 ――呪腕――
何が心の無い者だ、呪腕はそう思っていた。英雄が、縛り倒された風斬りの手を取るのを見て。百の骸転がる、血に濡れた草原の上で、彼が微笑むのを見て。
心が無いのは、お前の方だ。そこに転がっている人斬りはどうか知らないが、少なくともお前には無い。
「信用できない」
表情を変えないまま呪腕は言った。
「信用できない、そいつもお前も。雇われてるうちだけは、お前の味方をしてやってもいいが。やばくなったら、私はその場でよそにつく。たとえ、魔王の方へでもな」
英雄は立ち上がり、呪腕の方へ振り向いた。微笑んだまま。
「ところで君。雇う前に君のこと、色々聞いて回ったんだが。幼い頃に見たのではなかったかな、母君が破裂して死ぬところを」
そのとおりだった。かつて呪腕の故郷を襲った魔王――人に似た体躯ながら、竜のような鱗に覆われた肌、蝙蝠の如き翼。そして三つの目を持つその者――は、戯れにか、呪腕の母の口を手で覆い。そこから魔力を流し込んだ、電流にも似て迸る魔力を。そうして母は、先日の父と同じように死んだ。
英雄は微笑んだまま聞く。
「それでも、魔王の方につくと?」
呪腕は何も思わなかった、幼き日の、物心つくかどうかの彼女は。見たものが何なのか分からなかった。ただ、その光景だけを覚えていた。
そうして先日、父を同じ姿に変えた彼女は。何も思わなかった、胸の内がざわめいて喉が何か叫び出しそうにもなったが――それ以上のことを思おうとすると、頭の芯がひどく痛んだ。だから彼女は、何も思わないことにした。
表情を変えず呪腕は答える。
「当たり前だ」
英雄はいっそう笑った。深くうなずく。
「やはり君は、心が無い」
そうして胸に手を当て、ひざまずく。深く深く、こうべを垂れた。祈るように。拝むように。
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