1話
森の中の茂みに静かに、気配を消すように隠れる少年
(ここなら見つからないはず…)
そう思いながら茂みの中から周りを確認する。
(よし、このままなら大丈夫)
もうすぐ夕暮れ、そろそろ引き上げなければ、帰りも遅くなってしまうだろう。
勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる少年
ゆっくり、そして静かに後ろに下がる。
トンッと、何かにぶつかる。
(えっ、ここには何もなかったはず…)
咄嗟に後ろを振り向く
そこには、少年より大きい、そして獲物を見つけたかのように
大きく口を開けた狼がそこにいた。
「う、うあああああああああああ?!」
あぁ、そんな…こんなところで…見つかってしまうなんて…
大きく口を開けた狼は、そのまま少年の
服を咥えて頭上に放り投げ、自分の背に乗せる。
「また負けた…」
狼は勝ち誇ったように「ガウッ!」と吠える。
背に乗せられたまま森の中を歩き、少し開けた場所に出る。
そこには、ウサギ、クマ、リス、猫、そしてゴブリンもいた。
「うえぇ、みんな見つかったの?」
「ゴブゥ…」「キュー…」「グァァ・・・」「ニャー・・・」
「やっぱり強すぎるよ…嗅覚は反則だ…」
そう、少年が隠れていたのは、【かくれんぼ】をしていただけだった。
全員見つかるの早いなぁ…
そう思っていたところ、遠くから「キュォォォーー!」と声が聞こえてくる。
いつも夜になる前、夕方に必ず鳴くから時間がわかりやすい
「ああ、鳥さんも鳴いてるね、そろそろ帰らないと」
「ニャー?」
「ああ、うん。また遊ぼうね。じゃあギル、家まで送ってくれる?」
「ガウッ!」
「ありがとう、じゃあみんな!またね!」
他の動物たちもそれに答えるように鳴く。
狼、ギルの背中に乗せられ帰路につく。
ギルは1年前に傷ついていたところを助けた狼だ。
持っていた薬草を使って傷を癒したところ、こうやって送り迎えや遊びに付き合ってくれている。
他の動物たちもそう、何かしらがあって助け、遊びに付き合ってくれている。
家に到着し、ギルに別れの挨拶をした後は外で水の魔法を唱え手を洗う。
「えっと、【命の源よ、我にその力を与えたまえ。【ウォーター】】」
目の前に自分の顔ぐらいの大きさの水玉が出来る。
そこに手を突っ込み、手に付いた汚れを取る。
「よし、あとはこれを解除して…あれ?」
解除をして水玉は消えるはずが、なぜか次第に大きくなる。
「あ、あわわ、や、やばーーー」
ある程度の限界が来たのだろう、少年と同じ大きさになったところで
水玉は破裂し、ものの見事に少年の体をずぶ濡れにした。
「あぁぁぁぁぁ…失敗した…」
悲壮感に浸りながら、家の扉を開ける。
「ただいまぁ…」
「おかえーーーって、ずぶ濡れじゃない」
少しお腹が膨れている母が出迎えてくれたが、少し困惑していた。
「手を洗おうとしたんだけど、破裂しちゃった」
「ふふ、まだまだね、ほら、こっちきなさい。【プチヒート】【ウィンド】」
少し笑みを浮かべながら、暖かい、いや熱い?
そんな感じの熱風が自分の体を乾かす。
「お母さんみたいにうまく使えないや…」
「うーん、もうちょっと想像力豊かにすれば、上達するわ」
「想像力…」
「その辺はお勉強ね、ほら、乾いたわよ、ご飯にしましょう」
「はーい」
今日のご飯は、お母さん特製のシチューだ。
すごくおいしくて、何度でも食べたくなる。
週に一度に出るから、毎週楽しみなんだよね。
しかも毎週絶対に味が違うんだ。
「おいしい!」
「あら、よかったわ」
食べている少年に、ほほ笑む母親
すると、外から足音が聞こえてくる。
「お父さんかな?」
そしてゆっくりと扉が開き、顔が見えてくる。
「ただいま、今日も疲れたよ」
疲れた顔で自身が着込んでいた防具や武器を壁側に立てかける
「お父さんお帰り!」
「おかえりなさい。すぐにご飯を用意するわ」
「おいおい、お腹に負担がかかるだろ?自分でやるさ」
「あらそう?じゃあお願いね」
そう言い、器に自分の分を入れて席に着く。
「お父さんお父さん!今日ね!森でね!」
「お、なんだなんだ?面白いことがあったか?」
「うん!えっとねえっとね!ーーーーー」
今日の出来事を話す。
楽しかったこと、悲しかったこと。
毎日こうして、聞いてくれている。
時に叱ってくれたり、時に笑ってくれたり、時に褒めてくれたり。
こうしていることが、すごく嬉しかった。
「今日も面白い話だな!」
「ええ、聞いていると冷や冷やするときもあるけど、ほんと、楽しそうに話すわ」
話していると時間も過ぎていき、すっかり外は真っ暗だ。
「そろそろ寝る時間よ」
「あ、もうそんな時間かぁ」
「ほらほら、早く寝なさい?寝る子はよく育つわよ」
「はーい。じゃあ、お休み、お母さん、お父さん」
「ああ、おやすみ、ヌル」
こうして一日が終わる。
明日は何か楽しいことが起こりますように。
そう思いながら自分のベットに潜り込む。
ゆっくり眠気が誘い、次第に意識は夢の中だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
部屋に戻っていったヌルを見届けた二人は、リビングで寛いでいた。
否、気疲れをしていた。
「ふぅ…毎回思うがすごいことやってるな…」
「ええ、今回友達になったっていう【ウサギ】、あれよね?」
「ああ、初心者殺しとか死神とかの異名を持つ首切り兎、【ヴォーパルラビット】だな」
ヌルが毎回外に遊びに行く度に話を聞いているが、実はキースとエリーの提案だった。
というのも、毎回おかしな話をしているので、詳しく聞きたいのと、心配する意味を込めて確認していたのだった。
「一番最初は、狼のギル。その次に熊のベル、その次は猫のラッキー」
「で、その後はゴブリンとリスだったかしら…」
「ああ、確かハル、それとバンって名前だったな…」
「問題はもう色々あるけど、心臓が持たないわ…」
「まぁ聞く限り楽しそうにしているから、大丈夫なんだろうけどな…」
無理もない、今話に出ていた動物と魔物、すべて名前がついているのはまだいいとして、問題はその個体だ。
狼はウルフキング、伝説の魔獣フェンリルに近いとされるAクラスの魔獣。
熊はストロングベアー、名前の通り力の強い熊だが、その攻撃は岩盤をも砕く、Aクラスの魔獣。
猫はウィザードキャット、上級魔法を駆使するAクラスの魔獣
ゴブリンはワンパーソンゴブリン、一匹で100人のBランク冒険者を相手できるAランクの魔物
リスはカーバンクル、伝説の魔物ではないかと言われて希少性の高いSランクの魔物
「いくら助けたからって、懐き方がやばい」
「優しいあの子のやり方だから、変に否定もできないし…」
「これでテイマーとかだったら分かりやすいが、まだ【選定の儀】も終えてないんだよなぁ」
「あと5年先の話ね。いったいどんなジョブになるのかしら」
「5年かぁ。っと、そういえばもうすぐ誕生日だったな。」
思い出したかのように話を転換する。
これ以上話していると身が持たないのだ、仕方ない。
「ええ、3日後よ」
「今年は何を贈るか…ちょうど明日依頼の報告でギルドに行くから、帰り際に何か買ってこようか。」
「そうね。なら帰りにーーーー」
こうして夜は過ぎていった。
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