津波の爪痕

2011年3月11日14時46分。

宮城県牡鹿半島沖を震源とする東北地方太平洋沖地震。

東北地方を中心に12都道府県で18,425人の死者・行方不明者が発生した。


東日本大震災発生から二ヵ月が経過、ライフラインの復旧、仕事も開始、陥没した道路も驚異的な速度で復旧していた。

震災時自宅へ帰る道は大きな陥没により、大型トラックのルーフしか見えない程だった道も通れるようになっていた。


東日本の太平洋沿岸部の津波による被害も連日テレビで報道されていた。

私の自宅から1時間掛からずに行ける場所、ツーリングで度々訪れていた場所も津波により見る影も無くなっていた。

石巻市を抜け、女川町に入ると右側に海の見える美しい道路に出る。

南東に逸れる道に進むと、牡鹿半島を貫く風光明媚な元有料道路がある。

私はここが大好きだった。

その日も女川町の様子を伺いに友人宅を目指した。

以前片付けの手伝いに来た時は、まだどこもかしこも冠水状態。


流された車も放置されていた。

捜索作業の際に書いたのだろう。

車のドア付近には〇か×印が書かれていた。


地域によって異なるようであったが、〇は中に誰もいない、×は残念ながら車内にご遺体が残されているという印と聞いていた。


すっかり水も引いたのか乾いたのか、破壊された基礎だけになった家が並んでいた。以前の景色はそこには何も無くなっていた。

復興作業のダンプカーが大量に走り、常に砂埃が巻き上がっていた。

避難所へ出向き友人に会う。

避難所暮らしで疲れてはいたが、元気そうだった。


せっかく来たのだからと、元有料道路を走り帰宅することにした。

牡鹿半島側へ舵を切り、元有料道路へ入る道へ逸れる。

入り口付近は住宅や施設もあり普通に走れたのだが、もう少し奥へ走るとバリケードが立てられていた。


「立ち入りご遠慮下さい」の文字。


崩落か、道が荒れてしまったのかと思ったが、私が乗っていたのはオフロードバイク。

少々の荒れた道は平気で走れてしまう。

少々気は咎めたが、バリケードの隙間から入りスロットルを開ける。

道路の崩落や、大きくひび割れた個所も散見された。


(このまま抜けられるか)


途中にある大きな見晴台兼大駐車場で休憩をしよう、そう考えそのまま進む。

確かに道は荒れているし、対向車も後続車もいないが、何か気味が悪い。

若干の不安を感じながら前へ進んだ。


気味が悪いながらも、春の青空が広がる峠を走るのは良いものだ。

日差しも温かく、標高も高い為海が良く見える。

あの海が牙を向いた。

だがやはりその日も美しい景色だった。


だが、その気分が一気に引いていく。

大駐車場に到着。


そこには山積みの車。

ただの自動車ではない。

あの印の付いた車達。

手前には〇印のクシャクシャになった車。

更に奥には×印の車。


鼓動が早くなるのを感じた。

だから封鎖していたのか。

ここに長居しても、このまま進むにしても良い事が無いとわかっている。

奥の山積みの×印の車へ向かって手を合わせ、早々に立ち去ろうとした。


違う。


逆だ。


〇印だ。


人が車中にいる印。


何故なら〇印が付いた車から大勢がこちらを見ていたのだから。

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