ぬいぐるみ

現在私には私には本当に勿体ないような素敵な妻がいる。

そんな妻と出会えたのも元妻との別れがあったから。

別れる前に日に口をきく回数もめっきり減り、寝る部屋も別れるようになった。

そんなある日に体験したお話。


前妻はあのキャラクターが好きだった。

(耳をネズミに食べられ、ネズミ嫌いになった、黄色い妹がいる、青いボディの猫型ロボット。)

グッズも多数所有し、DVDも全て買い集めていた。

夜は毎日DVDを見て過ごしていた。

私は何度も見たせいか、飽きてしまいそれぞれの時間を過ごすようになった。


ある年の前妻の誕生日。

プレゼントを何にしようかと考えていた。

やはりあのキャラクター関連が良いだろうか。

DVDは持っているし、CDなんてプレゼントしたら長距離運転の車内はエンドレスであんなこといいなと言われてしまう。

妹に相談すると、「大きなぬいぐるみを見たよ」とのこと。

早速チェーンで展開していたおもちゃ屋へ出向き探すと、存在感のあるフォルムと愛らしさのあるデザインは目立っていた。

価格としては約2万円程。

当時の私には高額だった。

だが前妻が喜ぶ顔を見たくなり購入した。


誕生日当日。

その日は前妻は仕事。

その日までぬいぐるみは私の車のトランクに隠していた。

玄関を開けると、床に張り紙。


「寝室の押入をお借りします」


皆様ご存知、あのキャラクターは押入で寝ている。

今考えるとよくもあのような恥ずかしいことをしたと思う。

前妻が帰宅。


「え!?」


声が歓喜を帯びていた。

居間の戸が開いたため「おかえり」と迎える。

ニコニコしながら寝室の押入を開ける。

声も無く、そして1mはあるであろうそのぬいぐるみをしっかりと抱きしめながら、目から涙を流し「ありがとう・・・」と戻ってきた。


そんな温かな時期もあった。

夫婦間はいつの間にか、だがしっかりと温度が下がっていた。

口を開けば喧嘩。

その時、私は原因不明の体調不良に悩まされていた。

病院で診察、精密検査を受けても異常無し。

そうだろう。

自分の身体は自分が一番良くわかる。

だが身体が重い。

心が押し潰される。

わかっている。

これは霊障だと。

だがどこから来るものか、私には追えなかった。

予想だにしない発信源。


宮城県独特なものなのだろうか。

青森はイタコ。

沖縄はユタ。

地方によって呼び名やニュアンスは違えど、霊媒師のような力を持った人間が存在する。

宮城県の私が住んでいた辺りでは「カミサマ」と呼んでいた。

母がどこから聞きつけてきたのか、一度見てもらいなさいと。

決して現金は受け取らないが、供物(一ケースの飲み物や菓子折り等)を持参すれば視ていただける。

電話で予約し、時間に向かった。

終始背中を向けており、お顔は拝見出来なかったがどこにでもいるおばあちゃんのようだ。

背中の後ろに座布団があり、そこに座るよう促される。

座った途端に儀式が始まる。

経を唱え、そして私が聞いた事が無い言葉を唱え始めた。


「はい!名前、住所、生年月日、悩み!」


何も聞かされてはいなかったが、急いで全てを申し上げた。

しばらくの後、カミサマは背中を向けたまま話し始めた。


「二人の間さ邪魔が入ってんだ。奥さんどご守ろうどして、あんだば苦しめでんのっさ。人型の人形がなんか無いが?」


思いあたるものは一つしかない。

あれだ。

カミサマの家を出て、自宅へ戻る。


(どうしたものか・・・)


夫婦間は冷え切っているとはいえ、あのぬいぐるみは大切にしてくれている。

いつも前妻は布団に一緒に入れて寝ていた。

その日も前妻は仕事の為、私よりも早く家を出ていた。

帰ってくる間に、何か対処を考えよう。


そう思い玄関を開ける。

心臓が痛い程高鳴った。

玄関のドアを開けたすぐそこ。

あのキャラクターのぬいぐるみが、まるで私の立ち入りを阻むかのように立っていた。


何故ここにあるのかはわからない。

想像すら不可能。


なんとかしなければとは考えていたが、ついに前妻とは離婚することになる。

その後一切の連絡も取っていない。


あのぬいぐるみもどうなったのかは不明だ。


風の噂で耳にしたのだが、前妻は離婚後次の相手と結婚。

そして妊娠、出産。

だが、その相手ともすぐに離婚。

一人で子供を育てていると聞いた。

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