KM塚の家

小学校時代、学校から700m程の所に一軒の空き家があった。

その地区はKM塚。

KM塚の空き家だから、「KM塚の家」と呼ばれていた。


所謂心霊的な噂が絶えず、小学生の間では、「あそこを通る時は息をしてはダメだ」や「目を瞑って通り過ぎなければいけない」等、いかにも子供の考えるルールまで存在。


行ってみようぜ


小学生は怖い物無し。

噂は無条件で信じていたが、興味の沸き上がりに勝てず、友人を引き連れ下校時に向かうことになった。

小さな町のメイン通りから一本入ると、広い庭を持つ家が建ち並ぶ住宅地。

奥へ奥へ入って行くと小さな山があり、そこに神社がある。

その山を回り込むと、件の家が見えてくる。

小さな山と言っても二階建ての家を悠々と越える高さがあり、高い杉の木も生い茂っている為、山の裏の住宅地は昼でも薄暗く、心なしか涼しい気がする。


あった。

廃屋と言っても、リフォームをすればまだ住めるような状態だった。

まだ家主がいなくなって、間もないのだろう。

低い塀があり、簡単に中を覗くことが出来た。

縁側があるであろう場所には雨戸がしっかりと閉まっていた。

二階の窓もカーテンが閉じられている。


「これじゃ見えるわげねーべや!」


と宮城弁で友人が肩を落としながら叫ぶ。


「帰っぺ帰っぺ!」


友人たちが背中を向けた時に、私は二階の窓に目が釘付けになっていた。

レースのカーテンの裏から人が見ている。

急いで振り返り、友人たちの背を追った。


ある日、友人達と神社の山でかくれんぼをしていた。

山の中だけで行うルールだったが、私の中でルールは破る為にあると思っていた(当時は)為、麓に降りてギリギリを攻める。

木の裏に隠れながら移動。

私だけが全く見つからず、辺りは薄暗くなってきた。



全てが終わった後に振り返ってみて思い出したのだが、不思議なことがあった。


あの時時刻は失念したが午前中。

暗さは夕方のような、紫がかった闇が訪れていた。

当時は時間が進むのが早いなくらいとしか思っていなかったと記憶している。

私を呼ぶ友人の声も聞こえない。

いつの間にか山を下りてあの家の前まで来ていた。


前回のことはすっかり忘れており、何気なくあの家を見る。

違和感がある。

全体的な古めかしさや、雰囲気は変わらないが雨戸が開いている。

そして二階のカーテン、玄関まで開いている。

玄関から家の中を見ると、真っ暗な空間があった。

背中に冷たい汗が流れる。

何か得体の知れないものがいる時に感じる感覚がある。

二階の窓を見たが何も見えない。

逃げようと思ったのだが、足が鉄の塊になったような感覚。

動けない。

足に目を移し、再度二階を見ると窓に女性が立っていた。

髪が長く、レースの襟が付いた服。

小学生当時でも古いと感じるデザイン。

表情は無い。

窓からまっすぐ外を眺めている。

その瞬間首がゆっくりと下を向き、私に目を合わせる。

無表情のまま振り返り、部屋の奥へ歩いて行った。

相変わらず私の足は動かない。

女性が縁側に現れた。

ゆっくりと、まっすぐに歩いている。

くるぶしが少しだけ見える、裾にレースが付いているスカート。

縁側を抜け、玄関から姿を現した。


これから起こるであろう事を想像し、パニックを起こす寸前だ。

そんなことを考えているうちに、女はこちらに向かって歩き始めた。

顔は下を向いている。

足が動かない。

逃げられない。

更に近付いている。

顔は汗だくになり、頭は真っ白になっていた。


いない。


さっきまで目の前を歩いていた女性がいない。

フッと足が軽くなる。

安堵と共に、恐怖感が沸き上がる。

再度家を見ると、二階はカーテンが引かれ、玄関と雨戸は閉じていた。

辺りも明るさを取り戻していた。


胸を撫でおろし、もう一度家を見た。

塀からゆっくり女性の頭が上がってくる。


ゆっくり・・・


ゆっくり・・・


不思議と目を離せずにいた。

顔が全て出きった。

数秒の後、顔はまっすぐのまま、瞳だけがこちらをギョロっと向いた。


「ずっと見てるね」

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