排水口

今回はタイトルから既に何が起きるのか想像が出来てしまうのではないだろうか。

その通り。

ただ、私のは少々「強め」である。


現在の仕事に就いて、出張にて愛知県のとあるビジネスホテルを利用した際の話。

その日の業務が終わり、予約しておいたホテルへ向かう。

荷物を部屋に放り投げ、食事がてら居酒屋で一杯引っかけようと考えており、心を躍らせながら運転していた。



気のせいだろうか。

信号で停まる度に違和感を感じる。

その違和感は何度目かの信号で発覚する。


信号を渡る歩行者の中に、真っ白なワンピースを着た髪の長い女性。

冬ではないがそろそろ寒いと言っても良い気温。

真っ白なワンピースに、薄手のカーディガンを羽織ったスタイル。

初夏にでも見たらなんとも思わないだろう。

その女性が、各信号を渡っている。


(憑いたか・・・)


気合を入れて振るい落とす。

その後は見えなくなり、不思議と信号にも引っ掛からずホテルに到着。


チェックインを済ませ、シャワーを浴びてカウンターに鍵を預ける。


「焼き鳥が美味しいお店があります。そちらに行かれてみては?」


素晴らしい提案。

徒歩で10分程度歩いた。

知らない街を歩くのは好きだ。

聞こえてくる話し声もその土地を表す。

見える景色も新鮮。

居酒屋は開店したばかりで、客は私ともう一組。

まずはビールを飲み干す。

たまらん。

店主に任せて串盛りを注文。

店主に生のピーマンに、つくねを潰し入れて食べてみてと言われ試す。

美味い、たまらん。

いつの間にか店は満席。

やはり繁盛店のようだ。

忙しく働く店主とスタッフの女性。

ハイボールを飲みながら店主と合間を見て話す。

出張で街に出た時はこれが楽しい。


だが、その時には気付いていた。

カウンターの中。

店主の奥にワンピースの女性が立っていた。


会計を済ませ、店主に礼を言い店を出る。

酔い覚ましに少し遠回り。

街にはあらゆる照明が灯り、活気も出ていた。

冷たい風が気持ちいい。


カウンターのワンピースの女性のことはすっかり忘れており、その後も見ることは無かった。

フロントで良い店を紹介してくれた事に礼をし、鍵を受け取り部屋に戻る。

焼き鳥の煙の匂いがついていた為、再度シャワーを浴びる為浴室へ。

バスタブへ入りカーテンを閉める。

頭からお湯をかぶる。

今日一日のことを振り返りながら。


その時、足元に違和感を感じる。

くすぐたいような、だが気色の悪い感触。

何が起きているかはわかってはいるが、この目で確かめる。


髪の毛だ。

私の髪はこんなに長くない。

黒く、長い髪の毛が排水口から伸びてきている。

私の足を目指して。

熱めのお湯を浴びているのだが、冷汗が止まらない。

浴槽内を逃げるが、目でも付いているかのように追いかけてくる。


排水口を見た。

違う。

髪の毛に目が付いているのではない。

排水溝の中には、こちらをしっかりと睨みつける女の目があった。

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