トラックのフェンダー

私が若かりし頃。

夜中に大きな音を出しながら、バイクでツーリングをする集団に属していた時の話。


車検を取得し、日本を走る乗り物には基本的には石跳ね防止、泥除けの為のカバー(フェンダー)の取り付けが義務付けられている。

大型トラックともなれば、その車体を支える巨大なタイヤが収められる程の大きさとなる。


夜中の産業道路や国道は長距離を走る大型トラックが多数流れている。

1990年代の終わり。

地元の町を出発し、仙台市のど真ん中にある交差点。

そして仙台新港という港を目指す集会・・・いや、ツーリングがあった。


東北のチームが一堂に会する、大規模な集会が開かれた。

集まる理由としては、何年か前に同じように集まった際に、不慮の事故で亡くなった有名な人の追悼集会とのことだ。

数ヵ月前からチームの代表者が集まり、どこのチームがどの位置を走り、どのチームがどの信号止めるか等、細かな打ち合わせが繰り返されていた。


バイク総台数約500台、車100台という大規模な集会。


当日20時。

仙台市から遠く離れる私の地元。

早い時間に出発。

国道に出ると既に隣町のチームが走っていた為合流。

普段であればここでトラブルが発生するのだが、この時ばかりは同じ場所を目指す仲間となっていた。


仙台市に入り、集まるチームも増えていく。

今では本当にご迷惑をお掛けしたと後悔こそするが、当時はなんと気持ちの良いことか。

爆音のバイクが500台。

歩道を埋め尽くすギャラリー。

気持ちも大きくなる。

仙台市のど真ん中の交差点を何時間も占拠。

それから仙台新港を目指す。

産業道路に入ると、大型トラックが増えてきた。

間を縫いながら、とてつもない数のヘッドライトが揺れていた。


私のチームも大型トラックの間を縫いながら走る。

何台も何台も抜きながら。

ふと前方の大型トラックを抜こうと加速した時。


フェンダーから何かがはみ出している。


プラプラ・・・プラプラ・・・


あまり視力が良くない上、夜なのにサングラスを掛けていた私。

サングラスを鼻までずらし、目を凝らす。


人間の手だ。


胸が苦しくなる。


事故か?


違う、この世のものではない。

他のメンバーには見えていない。

私だけがスロットルを開けられずにいると、メンバーに檄を飛ばされる。

当時の私は慣れていたはずだが、目の前にある信じられない光景を見るのが久々に恐ろしくなる。


スロットルを開け加速。

トラックに並ぶ。

だんだんと全貌が明らかになる。


人だ。

クシャクシャに折れ曲がった人。

男。

タイヤハウス内。


フェンダーとタイヤの間に胴体と足がぴったりとくっつくように折れ曲がった男。

手だけが外に飛び出していた。

真横に並ぶ。

大型トラックのタイヤハウスとはいえ、人が入れるほどのスペースは無い。

だがそこに折れ曲がって入っている。

顔をこちらに向けて。


その時こちらに向いている顔の目が開いた。

表情は無い。

これまでに無い感覚を覚え、一気に加速。

必死に目的地を目指す。


港に到着し、エンジンを止め煙草に火を着け気を落ち着かせる。

少々の時間を置いて、主催の男が声を掛けてきた。


「お疲れ様です」


「さっきの産業道路なんですよ」


「〇〇さんが亡くなったの」


その男は無茶な男だったらしい。

大型トラックの間を縫って走り、そして転倒。

道路に転がった所へ不運にも大型トラックが彼を轢いた。

トラックが急ブレーキ。

事態に気付いたそこにいた人間が彼を探した。

だがグシャグシャになったバイクはあるが、彼がいない。

跳ね飛ばされたであろう場所を大勢で探す。

いない。


その時叫び声が響いた。

トラックのタイヤハウスの中に、胴体と足をぴったりとくっつけて嵌まっている彼を発見したと主催者から聞いた。

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