隙間

隙間

怪談ではポピュラーな話題だ。

私も例に漏れず、隙間に関しての話を幾つか持っている。

今回はその中から二話書いていく。



【押入の隙間】


元妻と結婚前に同棲をしていた時の話。

元妻が寝室が怖いと頻り訴えてくる。


それはそう。

ここは元事故物件。

私達が入居した際には、もう一家族住んだ後。

告知義務が無いのは知っていたし、内覧の時にいるのも知っていた。

だが、いざ入居してみるとあちらさんも本気を出してきた。


亡くなったのは玄関のドアノブ。

内覧の際に、不動産屋さんがドアを開けた時にぶら下がって着いてくるのが見えた。


居間とダイニングキッチンの間を曇りガラスの戸で区切ることが出来たのだが、ダイニングキッチンの電気を消して居間でくつろいでいると、曇りガラスの奥に立っている。

キッチンのコンロ前に立つと左手に曇りガラスの窓があるのだが、外から帰ってくるとその曇りガラスから中に人が立っているのが見える。


元妻は霊感が無いのだが、何か見たような気がすると言うことが増えていく。


さすがに私も驚く時があった。

深夜、ふと目が覚める。

三時半。

常夜灯を点けて寝ている為、ぼんやり部屋は見渡せる。

寝室と居間は襖で仕切られている。

寝るときはしっかりと閉めるのだが、5cm程開いている。

嫌な雰囲気はしていた。

目覚め方も不自然だった。

隙間に目を凝らす。


常夜灯に照らされた、縦に並んだ二つの目。


静かに、微動だにせずにこちらを見つめていた。



【倉庫のドア】


当時私はパチンコ店の主任をしていた。

次の日は新装開店。

スロット台を入替え、設定も済ませた。


スロット台のストック(簡単に言うと、当たりを爆発させる為に、当たりを内部で蓄積させる)を溜める為、メンバーを帰宅させ薄暗い広いホールで一人スロットを打っていた。

当たってほしくない時に限って何度も当たる。

苛立ちながら何度も何度も回す。

一島(スロットが両脇に並んだ通路)15台。

全てある程度回すまで帰れない。

時刻は1時を回っただろうか。


背中に何かが当たった。

足元を見ると、スロットのメダルが落ちている。

私は投入口へメダルを入れる精密さには自信があった。

何十枚か手に持ち、親指でスライドさせる要領でスムーズに全て入れた。(スロットをされる方にはわかって頂けるだろう)


要は落とすわけがない。

気のせいということにして続ける。

数分後、また背中にメダルが当たる。


(気のせいじゃないよな・・・)


無視し、作業を続ける。

メダルが二枚、連続で当てられる。

私の背中には向かい合ったスロット台。

左端の代のすぐ隣に倉庫があった。


その鉄扉が少し開いている。

10cm程の隙間。

深夜2時前。

メンバーは誰もいない。

事務所にはマネージャーがいるが、ホールに出てきた気配は無い。


真っ赤なワンピースを着た女。


隙間から片目を覗かせ、右手でメダルを投げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る