お前は誰だ?

世の中には自分と同じ顔が、三人いると言われている。

似ている人はいるようだが、同じ顔となると出会える確率は高くはないだろう。


今回はそんな似た顔に因んだ短編を書いていく。


あれは高校二年の夏休み。

顧問の都合で部活が13時には終わり早めに帰宅。

早めには帰宅出来たが、いつもよりも練習の内容は濃く酷い睡魔に襲われていた。

シャワーを浴び、自室のベッドに横になっているといつの間にか眠っていた。


物音が聞こえ目が覚める。

階段を上る音。

当時住んでいたのは古い町営住宅。

造りはお世辞にも良いとは言えない。

その二階の一室が私の部屋。


ギシッ・・・ギシッ・・・


階段の板が軋む音。

恐らく共感して頂けると思うのだが、家族や長い時間を共にする人間の足音や階段を上る音は判別出来るようになる。


その時聞いた音は誰のものでもない、初めて聞く音だった。

ここは自宅。

聞いた事も無い音。

知らない誰かが入って来たという事。

私は生きた人間が一番怖いと思っている。

もちろんその時も。


ギシッ・・・ギシッ・・・ギシ


自室の前に止まる。

襖が開けられた。

私は恐ろしさのあまり背中を向けていた。

高鳴る心臓。

冷汗が止まらない。


「お前は誰だ?」


背中から声を掛けられた。

おかしい。

聞いた事のある声。

ゆっくりと振り返ると、そこには見慣れた顔があった。


私が立っている。


「お前誰なんだ?」


声を掛けられるが、私は返事出来ない。


(俺は誰なんだ?)


(いや、目の前の男は誰なんだ?)


(本当に俺なのか?)


「ここは俺んちだ、出ていけ」


ようやく苛立ちと共に声が出た。

すると目の前の男はあっさりと去って行く。


ギシッ・・・ギシッ・・・


音を立てて。


それはそうだ。


自分の階段を上る音など憶えていない。

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